ラベタロール塩酸塩は、1つの分子でα受容体とβ受容体を同時に阻害する独特な作用機序を持つ降圧薬です。この薬剤の最大の特徴は、β受容体遮断作用に加えて、α1受容体遮断作用を併せ持つことにあります。
従来のβ遮断薬とは異なり、ラベタロール塩酸塩は心拍出量にほとんど影響を及ぼさずに全末梢血管抵抗を減少させます。この作用により、血圧降下と同時に心臓への負担を軽減できるという利点があります。
薬効分類としては「αβ遮断性降圧剤」に分類され、薬効分類番号は2149、ATCコードはC07AG01となっています。臨床試験では、本態性高血圧症患者259例を対象とした二重盲検比較試験において、有効率52.0%という良好な結果が得られています。
特に注目すべきは、ラベタロール塩酸塩が腎血管抵抗を減少させ、腎血流量や糸球体ろ過値を増加または維持することが認められている点です。また、脳循環、末梢循環、冠循環を維持する効果も確認されており、臓器保護作用も期待できます。
ラベタロール塩酸塩の標準的な用法用量は、成人に対して1日150mgより投与を開始し、効果不十分な場合には1日450mgまで漸増し、1日3回に分割して経口投与します。年齢・症状により適宜増減することが重要です。
薬物動態の特徴として、血漿蛋白結合率は約50%で、主な代謝産物はo-フェニルグルクロン酸抱合体(投与量の15%)とその他の抱合体(45%)です。投与後24時間までの尿中排泄率は約60%となっています。
生物学的同等性試験では、50mg錠でAUC0-24が121.5±36.4 ng・hr/mL、Cmaxが27.0±14.1 ng/mL、T1/2が8.8±1.2時間という結果が得られています。100mg錠では、AUC0-24が259.2±104.1 ng・hr/mL、Cmaxが68.3±33.2 ng/mLとなり、用量に比例した薬物動態を示します。
投与開始時は少量から開始し、長期投与の場合は心機能検査(脈拍・血圧・心電図・X線等)を定期的に行うことが推奨されています。特に徐脈や低血圧を起こした場合には減量または中止を検討する必要があります。
ラベタロール塩酸塩の副作用発現頻度は18.3%(23/126例)と報告されており、主な副作用として以下が挙げられます。
頻度の高い副作用(1%以上):
その他の重要な副作用:
副作用の発現機序として、血管拡張と心拍抑制の両面があるため、血圧が急激に下がってめまいが起こりやすくなります。投与初期や用量調整中に特に注意が必要です。
循環器系の副作用では、徐脈、胸痛、房室ブロック、末梢循環障害(レイノー症状の悪化、冷感等)が報告されています。呼吸器系では喘息様症状や気管支痙攣のリスクがあり、既往歴のある患者では特に慎重な観察が必要です。
ラベタロール塩酸塩使用時に注意すべき重篤な副作用として、以下が報告されています。
心血管系の重篤な副作用:
呼吸器系の重篤な副作用:
その他の重篤な副作用:
特に心不全を有する患者では症状が悪化する恐れがあるため、慎重な適応判断が必要です。また、類似化合物(プロプラノロール塩酸塩)使用中の狭心症患者で急に投与を中止したとき症状が悪化したり、心筋梗塞を起こしたりする例が報告されているため、中止時は漸減が原則です。
肝機能、腎機能、血液像等の定期的な監視も重要で、AST、ALT、γ-GTP、Al-P等の上昇やBUNの上昇が認められることがあります。
ラベタロール塩酸塩は多くの薬剤との相互作用が報告されており、併用時には特別な注意が必要です。
重要な相互作用薬剤:
血糖降下剤(インスリン、アセトヘキサミド等):
血糖降下作用が増強し、低血糖症状(頻脈、発汗等)をマスクする可能性があります。β遮断作用により低血糖の回復を遅らせるため、血糖値の厳重な監視が必要です。
カルシウム拮抗剤(ベラパミル塩酸塩、ジルチアゼム塩酸塩等):
徐脈、房室ブロック等の伝導障害、うっ血性心不全があらわれることがあります。相加的に陰性変力作用、心刺激伝導抑制作用、降圧作用を増強させるため、用量調整が重要です。
シメチジン:
ラベタロール塩酸塩の肝での代謝を抑制し、クリアランスが減少して血中濃度が上昇します。併用する場合には減量など慎重な投与が必要です。
交感神経刺激剤(アドレナリン等):
β遮断作用により交感神経刺激剤のα刺激作用が優位となり、高血圧症、徐脈が発現するおそれがあります。
非ステロイド性抗炎症剤(インドメタシン等):
血管拡張作用を有するプロスタグランジンの合成・遊離を阻害するため、降圧作用が減弱する可能性があります。
これらの相互作用を避けるため、処方時には患者の併用薬を詳細に確認し、必要に応じて用量調整や代替薬の検討を行うことが重要です。