硝酸薬は血管拡張薬の中でも特に狭心症治療において中心的な役割を果たす薬剤群です。硝酸薬は体内で代謝されて一酸化窒素(NO)を生成し、血管平滑筋を弛緩させることで血管、特に静脈系を拡張させます。主な硝酸薬には、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、フランドル(硝酸イソソルビド)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)などがあります。ニトロペンは舌下錠として狭心症発作時に即効性を発揮し、ニトロールやミオコールはスプレー、フランドルはテープ剤として長時間作用を示します。注射剤としてはミリスロール注(5mg/10mL、1mg/2mL、50mg/100mL)などが急性期治療に使用されます。
参考)薬一覧[その他](0件)【QLifeお薬検索】
カルシウム拮抗薬は血管平滑筋や心筋のカルシウムチャネルを遮断することで血管拡張作用を示す薬剤群です。大きくジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系に分類されます。ジヒドロピリジン系には、アダラート(ニフェジピン)、アムロジン(アムロジピン)、コニール(ベニジピン)、カルブロック(アゼルニジピン)などがあり、主に血管に作用して降圧効果を発揮します。非ジヒドロピリジン系には、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、ワソラン(ベラパミル)があり、心筋や刺激伝導系にも作用して抗不整脈作用や心拍数低下作用を示します。これらの薬剤は動脈拡張により後負荷を軽減し、心筋の酸素需要を低下させるとともに、冠動脈拡張により心筋への酸素供給を増加させます。
参考)血管拡張薬 href="https://xn--v6qx2jexjd1vw1f.com/no/" target="_blank">https://xn--v6qx2jexjd1vw1f.com/no/amp;#8211; 循環器内科.com
末梢血管拡張薬は、末梢循環改善を目的として使用される薬剤群です。主な分類としては、プロスタグランジン製剤(PGE1:アルプロスタジルなど)、β刺激薬、ニコチン酸系薬、ビタミンE製剤などがあります。プロスタグランジン製剤は血管平滑筋に直接作用して末梢血管を拡張させる作用があり、末梢循環障害の治療に用いられます。注射剤としてはパルクス注ディスポ10μg、リプル注10μgなどが使用されます。これらの薬剤は末梢動脈閉塞性疾患や急性心不全における血行動態改善に有用です。
参考)https://www.data-index.co.jp/kusulist/class.php?hl=AB003amp;ml=CD030800
血管拡張薬の作用機序は薬剤の種類によって異なりますが、最終的には血管平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる点で共通しています。硝酸薬の場合、体内で加水分解されて硝酸が生成され、さらに還元されて一酸化窒素(NO)が産生されます。この一酸化窒素が血管平滑筋細胞内のグアニル酸シクラーゼを活性化し、サイクリックGMPの生成を促進することで細胞内カルシウムイオン濃度を低下させ、血管拡張が起こります。この発見は1998年にノーベル医学・生理学賞を受賞した重要な研究成果であり、現代の循環器薬理学の基礎となっています。カルシウム拮抗薬は、細胞外からのカルシウムイオン流入を直接阻止することで血管平滑筋の収縮を抑制します。
参考)狭心症の薬の原料はダイナマイトと同じ?ニトログリセリンの特徴…
シグマート(ニコランジル)は、硝酸薬作用とカリウムATPチャネル開口作用という2つの特徴的な作用機序を併せ持つユニークな血管拡張薬です。ニコランジルは体内で代謝されて一酸化窒素を生成することで血管を拡張させるとともに、カリウムチャネルを開くことでカリウムイオンを流入させ、血管平滑筋を弛緩させます。通常、成人は1日量15mgを3回に分けて経口投与し、症状により適宜増減されます。シグマートは冠動脈拡張と心筋虚血耐性を高める作用があり、狭心症による胸痛などの症状を抑制します。注射剤ではカルペリチド(遺伝子組換え)が2022年の処方数1位、ニコランジルが2位、硝酸イソソルビドが3位となっており、急性心不全治療において重要な役割を担っています。
参考)血管拡張剤の処方薬ランキング2015〜2022【売上・処方数…
血管拡張薬の使い分けは、作用部位(静脈、動脈、冠動脈)を意識することが重要です。静脈拡張薬は前負荷を軽減し、動脈拡張薬は後負荷を軽減することで心機能を改善します。狭心症治療では、発作時に硝酸薬の舌下投与により即効性の血管拡張作用で発作を寛解させます。慢性期には硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬が使用され、患者の病態に応じて選択されます。急性心不全では、収縮期血圧が高い症例ではニコランジルが第1選択となることがあり、収縮期血圧をあまり下げずに血行動態を改善する特性があります。カルシウム拮抗薬は冠攣縮性狭心症に特に有効で、冠動脈の痙攣を予防する作用があります。
参考)薬剤部|診療技術部門|診療科・部門|心臓血管センター 金沢循…
血管拡張薬の共通した副作用として、頭痛、ふらつき、動悸、顔面紅潮などがあります。これは心臓の血管だけでなく、脳血管や全身の血管を拡張するためです。急激な血圧低下や心拍出量低下などの重大な副作用が発現することもあり、注意深い観察が必要です。硝酸薬では長期使用により耐性が生じることがあり、一定の休薬期間を設けるか、1日の中で休薬時間帯を設定することで対処します。ED治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)は血管拡張作用により危篤な低血圧症やショック状態を来す可能性があるため、硝酸薬との併用は絶対禁忌です。カルシウム拮抗薬はグレープフルーツジュースと併用すると、代謝酵素CYP3A4が阻害され血中濃度が上昇するため注意が必要です。
参考)https://www.pharm-hyogo-p.jp/renewal/kanjakyousitu/r2k46.pdf
血管拡張薬は狭心症、心筋梗塞、心不全、高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患など多様な循環器疾患に適応があります。狭心症では硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ニコランジルが中心的な役割を果たし、発作予防と症状緩和に用いられます。急性心不全では静脈拡張による前負荷軽減、動脈拡張による後負荷軽減、冠血管拡張による左室機能改善を目的として使用されます。高血圧治療ではカルシウム拮抗薬が第一選択薬の一つとして広く使用され、特にアフリカ系の人や高齢者に有効です。末梢循環障害にはプロスタグランジン製剤やニコチン酸系薬が用いられます。近年の研究では、血管拡張薬の作用機序の詳細が解明され、より効果的で安全な治療戦略が確立されつつあります。
参考)血管拡張薬(狭心症治療薬)|心臓血管病を理解しよう|心臓血管…