抗体(IgG)は細胞内に潜む結核菌には、ほぼ効果がありません。
体内に病原体が侵入したとき、免疫系はまず自然免疫で迎え撃ち、それをくぐり抜けた敵に対して獲得免疫が本格的に応答します。獲得免疫(適応免疫とも呼ばれる)は、病原体を「特異的に」識別・記憶できる点で自然免疫と大きく異なります。自然免疫が「無差別に素早く対応する斥候部隊」だとすれば、獲得免疫は「敵の情報を分析して最適な武器を選ぶ精鋭部隊」といえます。
獲得免疫は大別すると「液性免疫(体液性免疫)」と「細胞性免疫」の2種類に分類されます。これが基本です。
両者の違いを端的に言うと、攻撃手段が異なります。液性免疫は抗体(免疫グロブリン)という「飛び道具」を使って細胞外の敵を攻撃するのに対し、細胞性免疫は免疫細胞自体が「直接格闘」して、ウイルスや細菌が潜り込んだ感染細胞やがん細胞を排除します。この2つは独立して動くわけではなく、連携しながら機能します。つまり「武器の選択が違う2つのチーム」が協力して生体防御を行っているということです。
なお、獲得免疫が本格的に動き出すまでには感染後3〜5日程度かかるとされています。自然免疫が数時間以内に反応するのと対照的です。この「遅さ」があるからこそ、事前にワクチンで記憶細胞を準備しておくことが臨床的に重要な意味を持ちます。
| 項目 | 液性免疫(体液性免疫) | 細胞性免疫 |
|---|---|---|
| 主役細胞 | B細胞(形質細胞)、Th2細胞 | キラーT細胞(CTL)、Th1細胞、マクロファージ |
| 攻撃手段 | 抗体(免疫グロブリン) | 免疫細胞による直接攻撃 |
| 主な標的 | 細胞外の細菌・ウイルス・毒素 | 感染細胞・がん細胞・細胞内寄生菌 |
| 記憶細胞 | メモリーB細胞 | メモリーT細胞 |
| 代表的な病原体 | 肺炎球菌、インフルエンザ(初期) | 結核菌、ヘルペスウイルス、HIV、カンジダ |
参考として、免疫の全体像を把握するうえで信頼性の高い医療者向け情報源が役立ちます。
看護師・医療職向けに液性免疫と細胞性免疫の関係を詳しく解説しているページです。
液性免疫の中心を担うのはB細胞です。B細胞は樹状細胞・マクロファージからの抗原情報をヘルパーT細胞(Th2細胞)を通じて受け取ると、「形質細胞(プラズマ細胞)」へと分化し、大量の抗体を産生し始めます。産生された抗体は体液(血液・リンパ液など)に乗って全身に循環するため、「液性」免疫と呼ばれます。
抗体は病原体に対して主に以下の3つの方法で働きます。
液性免疫が有効なのは、細胞外に存在する病原体です。肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌のような「莢膜を持つ菌」への対応は、主にこの液性免疫が担います。これは覚えておきたいポイントです。
一方で、液性免疫には弱点があります。ウイルスや結核菌のように細胞内に潜り込んだ病原体には、抗体は届かないのです。そのため、感染細胞を排除するためには後述の細胞性免疫が必要になります。
参考:抗体のクラス別機能について医療関係者向けにまとめられた情報です。
液性免疫で産生される抗体(免疫グロブリン)は、H鎖の種類によってIgG・IgM・IgA・IgD・IgEの5クラスに分類されます。この5種類は存在部位・産生タイミング・機能がそれぞれ異なります。意外ですね。臨床検査でIgG・IgA・IgMの数値を確認する機会は多いですが、各クラスの意味を正確に把握しておくことで、検査値の解釈精度が上がります。
臨床的に特に重要なのはIgGとIgMの動きです。感染症診断の際、IgMが高ければ急性感染、IgGが高ければ既往感染・免疫獲得と読むのが基本です。
ただし、例外は必ずあります。EBウイルス(伝染性単核球症)ではIgMの評価に注意が必要なケースもあり、単純なクラス解釈だけで判断しないことが重要です。
抗体クラスの解釈について詳しく解説された医療関係者向けのページです。
第2回 免疫とは? - 日本血液製剤機構 JBスクエア(医療関係者向け)
細胞性免疫は、T細胞が中心になって機能する免疫応答です。液性免疫が抗体という「ミサイル」を使うのに対し、細胞性免疫は「特殊部隊が敵の陣地に直接乗り込む」イメージに近いです。
T細胞は大きく3種類に分けられます。
細胞性免疫が重要になるのは、ウイルスや細胞内寄生菌の感染時です。インフルエンザ・ヘルペス・HIV感染、結核菌・サルモネラ・マイコプラズマ・クラミジアなどの細菌、カンジダやアスペルギルスなどの真菌、トキソプラズマなどの寄生虫に対しては、抗体ではなくキラーT細胞が主役となります。
HIV感染症が重篤になる理由もここにあります。HIVはヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)に感染・破壊するため、CD4細胞数が低下すると細胞性免疫が機能不全に陥り、通常なら無害なカンジダや結核菌などによる「日和見感染症」が相次いで発症します。細胞性免疫不全の典型例といえます。
細胞性免疫と液性免疫の使い分けについて、臨床現場向けに詳しく説明されています。
獲得免疫が自然免疫と決定的に異なる特徴の1つが「免疫記憶」です。これがワクチン効果の根拠です。
液性免疫・細胞性免疫のどちらでも、一度活性化されたB細胞・T細胞の一部は「メモリー細胞(記憶細胞)」として体内に長期間生存し続けます。次に同じ病原体が侵入してきた際には、ナイーブ(未経験)なリンパ球が応答する場合に比べて、格段に早く・強く免疫応答を発揮できます。これを「二次免疫応答」と呼びます。
免疫記憶の持続期間は、抗原の種類や感染の強さによって異なります。麻疹(はしか)のような強力な感染ではほぼ終生免疫が得られますが、インフルエンザウイルスのように変異が速い病原体では免疫記憶が有効に機能しにくく、毎年のワクチン接種が必要になります。これは必須の知識です。
またワクチンの種類によっても誘導される免疫の型が変わります。生ワクチン(BCG・麻疹・水痘など)は自然感染に近い形で細胞性免疫・液性免疫の両方を誘導でき、免疫持続期間も長い傾向があります。一方、不活化ワクチン(インフルエンザ・B型肝炎など)は主に液性免疫(抗体産生)を誘導しますが、細胞性免疫の誘導は生ワクチンに比べると弱くなる場合があります。免疫不全患者に生ワクチンを接種できない理由もここにあります。
免疫記憶とワクチンの関係については、厚生労働省の公開資料も参考になります。
獲得免疫は単独で動いているわけではありません。自然免疫との密接な連携のうえで機能しており、その橋渡し役を担うのが「樹状細胞」です。この視点は意外と見落とされがちです。
樹状細胞は体中の末梢組織(皮膚・粘膜・リンパ節など)に広く分布しており、病原体を貪食してペプチドに分解したうえで、その断片をMHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子に乗せてT細胞に提示します(抗原提示)。この提示がなければ、T細胞は活性化できません。
MHCには2つのクラスがあります。
抗原提示を受けたヘルパーT細胞は、病原体の種類に応じてTh1型またはTh2型に分化します。Th1型が活性化されると細胞性免疫が優位になり、Th2型が活性化されると液性免疫が優位になります。つまり、免疫応答の方向性を決定するのは樹状細胞とヘルパーT細胞の相互作用にあるといえます。
この「橋渡し機能」が崩れると、免疫系はうまく機能しません。臓器移植後の免疫抑制療法・がん免疫療法・自己免疫疾患の治療薬は、この連携機構のどこかに介入して免疫応答を制御しています。臨床現場で使われる免疫抑制剤の作用機序を理解するうえでも、この樹状細胞と獲得免疫の連携は欠かせない知識です。
自然免疫と獲得免疫の連携について詳しく解説した医学専門誌の記事です。
自然免疫を介した病原体認識と獲得免疫の誘導 - 生化学(日本生化学会)