ホットフラッシュの症状と原因・診断・治療

ホットフラッシュは更年期に多い突然のほてりや発汗などの症状です。医療従事者が知っておくべき診断基準、鑑別疾患、治療選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか?

ホットフラッシュの症状と原因

ホットフラッシュの主な特徴
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突然の熱感と発汗

顔面から頭部・胸部に広がる2~4分間の熱感と発汗、脈拍増加を伴う

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体温調節機能の異常

エストロゲン減少による視床下部の体温調節機能の乱れが原因

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治療選択肢の多様性

ホルモン補充療法、漢方薬、認知行動療法など複数のアプローチが可能

ホットフラッシュの典型的な症状の特徴

 

ホットフラッシュは更年期障害の最も代表的な症状であり、閉経前後の女性の約60%が経験するとされています。症状の出現様式は特徴的で、突然身体がカーッと熱くなる感覚から始まり、2~4分間持続する熱感と発汗を自覚し、同時に脈拍の増加が認められます。ほてりや発汗は顔面から始まり頭部・胸部へと広がるパターンが典型的ですが、顔面のほてりや発汗のみの場合もあります。
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症状の重症度は個人差が大きく、日常生活に支障を来すほど重症になるのは患者の約1割程度と考えられています。発作は昼間だけでなく夜間にも起こることがあり、睡眠障害の一因となることも少なくありません。重症例では1日に何度も繰り返されるケースもあり、集中力の低下や慢性的な疲労につながるだけでなく、人前での発症によって心理的負担が増大することもあります。
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動悸や不安感を伴うこともあり、発作後には寒気を感じる患者も存在します。血管の拡張により顔や首が赤くなる紅潮も特徴的な所見の一つです。これらの症状は急激に出現するため、患者にとって予測困難であり、外出時や仕事中に発症すると人目が気になるという訴えも多く聞かれます。
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ホットフラッシュ発症の生理学的メカニズム

ホットフラッシュの発症メカニズムは、エストロゲンの減少によって視床下部にある体温調節機能が乱れ、自律神経の働きに影響を及ぼすことによって生じると考えられています。血液中のエストロゲンが少なくなると体温調節がうまくできなくなり、周囲の気温にかかわらず急に体温上昇反応が惹起されます。
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研究によると、ホットフラッシュは中心体温のわずかな上昇が引き金となり、著しく縮小した体温調節ニュートラルゾーン内で作用することで、急速かつ過剰な熱放散反応として現れます。この反応は、多量の発汗、末梢血管拡張、強烈な内部熱感から構成されます。体温調節ニュートラルゾーンの縮小は、部分的にはエストロゲンの欠乏によるものですが、それだけが原因ではありません。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4612529/

α2アドレナリン受容体を介した中枢性交感神経活動の亢進が、体温調節ニュートラルゾーンを狭める要因の一つとなっています。エストロゲンは体温調節や精神の安定、骨の健康など多くの機能を助ける重要なホルモンであるため、閉経によって分泌が減少すると、これらの機能が乱れ、体のさまざまな調節機能に支障が生じます。
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ホットフラッシュが起こりやすい時間帯と環境要因

ホットフラッシュは特定の時間帯や環境によって現れやすいという特徴があります。起こりやすい時間帯としては「朝の起床時」「日中の活動時」「夜の就寝前後」が挙げられます。朝や夜は自律神経の乱れによりほてりやすく、日中の活動中は体温が上昇することで発汗が促されやすくなります。
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季節的には特に「夏」と「冬」に注意が必要です。夏は気温の上昇に伴って体温が上昇し、冬は暖房を使用する機会が増えることで発汗しやすい状況になります。また、湿度も影響するため、じめじめした梅雨の季節も症状が強くなる傾向があります。​
環境面では「暖房や冷房が効きすぎた部屋」は急激な温度変化により身体に負担がかかりやすくなります。「湿度が高い」「風通しが悪い」といった場所も体温調整がうまく機能せず、ほてりを助長することがあります。暖かい部屋でのドライヤーの使用なども誘引となることが知られています。このような環境要因を把握することで、患者への生活指導に活用できます。​

ホットフラッシュの診断と鑑別に必要な検査

ホットフラッシュを含む更年期障害の診断は除外診断であり、更年期障害を直接診断できるような検査は存在しません。診断の流れとしては、まず問診で症状の程度、月経状況、既往症・服薬歴などを確認します。次に血液検査によるホルモン値測定を行いますが、女性ホルモンの数値は参考にはなるものの個人差が大きいため、あくまで補助診断として使用されます。
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血液検査では、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の測定が重要で、閉経前後ではFSHが上昇し、エストラジオール(E2)が低下するパターンが見られます。また、甲状腺ホルモン(TSH, FT3, FT4)の測定により甲状腺機能低下症を除外し、プロラクチン(PRL)により高プロラクチン血症による月経異常を鑑別します。DHEA-Sの測定により副腎機能を確認し、ホルモンバランスの乱れを評価することも有用です。
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鑑別診断として特に重要なのは甲状腺疾患とうつ病であり、同じような症状を引き起こす別の病気がないかを調べる必要があります。症状が強い場合や更年期障害に対する治療が有効でない場合は、各専門科への紹介が必要となることがあります。ホルモン補充療法(HRT)を検討する際には、画像検査やがん検診も実施されます。
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男性におけるホットフラッシュの特徴と原因

ホットフラッシュは女性特有の症状ではなく、男性にも起こりうる症状です。男性のホットフラッシュの主な原因は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下による男性更年期障害(LOH症候群)、ストレス、生活習慣の乱れなどが挙げられます。テストステロンは性機能だけでなく、筋肉量、骨密度、気分、認知機能、そして体温調節など、男性の全身の健康維持に不可欠なホルモンです。
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テストステロンの分泌量は20代後半から30代にかけてピークを迎え、その後徐々に減少していきます。特に40代後半から50代にかけて、テストステロンレベルが臨床的に意味のあるレベルまで低下し、男性更年期障害を発症する男性が増加します。男性の場合、女性のように閉経に伴って急激に低下するわけではなく、緩やかに減少していくのが一般的であるため、症状も多岐にわたり見過ごされやすい傾向があります。​
女性のホットフラッシュが女性ホルモン(エストロゲン)の急激な低下によって引き起こされるのと同様に、男性においてもホルモンバランスの変化が脳の体温調節中枢(視床下部)に影響を与えると考えられています。視床下部は体温だけでなく自律神経の働きもコントロールしているため、テストステロンの低下が視床下部の機能異常を引き起こし、体温調節がうまくいかなくなると考えられます。発症年齢は個人差が大きく、遺伝的な要因、喫煙習慣、飲酒習慣、肥満、慢性疾患(糖尿病や高血圧など)、ストレスレベル、生活習慣などが影響します。​

ホットフラッシュの治療

ホットフラッシュに対するホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法は、減少したホルモンを補充することで症状の緩和を図る治療法であり、ホットフラッシュに対して最も有効性が高いとされています。主にエストロゲンを薬剤によって補填することで、ホルモンバランスを整えます。患者の状態や治療方針によっては、プロゲステロンという女性ホルモンを併用して処方されるケースもあります。
参考)ホットフラッシュとは?症状や原因、対策方法まで詳しく解説

投与方法には飲み薬、貼り薬、ジェルタイプなどがあり、ホットフラッシュをはじめとする更年期障害の改善効果が大いに期待できる治療方法です。効果の発現時期は症状によって異なり、ホットフラッシュや発汗などは即効性があり数日から数週間で改善が見られることが多いです。ただし、乳がん患者においてはエストロゲン補充療法が再発を増加させる可能性があるため避けなければなりません。
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HRTを検討する際には、ホルモン検査による診断が重要です。月経がある場合は月経周期の3~5日目が最適であり、月経不順や閉経後の場合はいつでも検査可能です。FSHとLHの上昇、エストラジオールの低下というパターンが確認された場合、HRTの適応が検討されます。治療開始後は定期的なフォローアップにより効果判定と副作用のモニタリングを行う必要があります。​

ホットフラッシュに有効な漢方薬の選択

漢方薬は体質や症状に合わせてさまざまな種類が用いられ、ホルモン補充療法と併用されることもあります。加味逍遙散(かみしょうようさん)は、上半身にたまった「気」を下ろして巡らせ、ほてりやのぼせなどのホットフラッシュを軽減させる効果があり、イライラや不安感を伴うホットフラッシュによく使われます。不足している「血」を補う効果も有しています。
参考)【医師監修】更年期障害に効く漢方を症状別に紹介!飲むときの注…

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、血の巡りを改善させる作用がある漢方薬で、比較的体力がある方のホットフラッシュ、上半身ののぼせ、発汗、下半身の冷えなどに適応があります。臨床試験では、桂枝茯苓丸がホットフラッシュの管理に一定の効果を示すことが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3181094/

知柏地黄丸(ちばくじおうがん)は、体内の余分な熱を冷まし、体の栄養を補い、更年期に多いホットフラッシュなど顔や手足のほてりを改善します。特に陰虚体質(ほてり、のぼせ、口渇、乾燥感)のある方に適しており、腎に潤いを与えて余分な体の熱をとる補腎薬として用いられます。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、冷えを伴うホットフラッシュに適していると言われています。漢方薬の選択には、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談することが推奨されます。
参考)更年期にも見られる、ホットフラッシュ・強いほてりなどに|クラ…

日本における中医学的漢方処方の臨床研究データベースには、更年期障害治療における漢方薬の有効性に関する詳細な情報が掲載されています。

ホットフラッシュに対する非ホルモン療法の選択肢

乳がん患者など、ホルモン補充療法が禁忌となる患者に対しては、非ホルモン療法が選択肢となります。セロトニン作動性抗うつ薬パロキセチン(商品名パキシル)やベンラファキシン(商品名イフェクサー)、抗てんかん薬ガバペンチン(商品名ガバペン)、降圧薬のクロニジン(商品名カタプレス)等によってホットフラッシュの頻度が30~60%低下するという報告があります。ただし、これらの薬はホットフラッシュに対しては保険適用外であり副作用もあるため、担当医と十分に相談する必要があります。​
認知行動療法(CBT)は、血管運動神経症状のホットフラッシュや発汗への治療効果が証明されています。今の状況を正しく理解して、認知のゆがみや考え方のクセに気づき、自分の行動を修正することによって症状を改善していく心理療法です。ホットフラッシュや発汗が起きたときに、自分の状況を俯瞰して把握できると冷静になれ、それが症状緩和に結びつくと考えられています。
参考)専門医に聞く、ホットフラッシュの原因と症状および対策

催眠療法も注目されており、研究によるとホットフラッシュの頻度が50%超から80%ほど減ることがわかっています。催眠状態に入った女性が冷たさに関する後催眠暗示を受けると、視床下部が冷たさを知覚するようになり、それによってホットフラッシュの頻度が減り始めると推測されています。ストレスや不安もホットフラッシュの主要な引き金であるため、催眠によるリラックス状態を経験すると、その効果は催眠を受けていないときにまで持続し、ストレス反応や自律神経系を調節する助けとなります。
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ホットフラッシュ発症時の急性期対処法

ホットフラッシュが起こった際の対処として、保冷剤などを使って顔や首を冷やす方法が有効です。首元には太い血管があるため、首周りを冷やすことで、即座に冷えた血液を全身に巡らせることができます。外出時には冷却シートや携帯用の冷却グッズを携帯することで、症状出現時に迅速に対応できます。​
腹式呼吸も効果的な対処法の一つです。ホットフラッシュは交感神経が優位になり過ぎることで起こるため、副交感神経を優位にする効果のある腹式呼吸がおすすめです。楽な姿勢で座り、みぞおちの辺りに手を当て、ゆっくりと鼻から息を吸い、みぞおちの辺りが膨らむよう意識し、ゆっくりと鼻から息を吐き、みぞおちのあたりが凹んでいることを意識します。ホットフラッシュが起こりそうだと感じた段階で腹式呼吸ができれば、回避効果も期待できます。​
副交感神経の働きを優位にするツボを押す方法もおすすめです。強い力で押さず、適度な力加減で刺激することが重要です。これらの対処法は、患者への生活指導において具体的な実践方法として提示できる内容であり、セルフケアの一環として指導することが推奨されます。衣服の調整も重要で、重ね着により体温調節しやすい服装を心がけるよう指導します。​

ホットフラッシュ予防のための生活習慣改善

ホットフラッシュを予防するためには、規則正しい生活を送ることが重要です。睡眠時間確保と生活習慣改善で、ホットフラッシュの発生リスクを下げられます。運動も重要であり、適度な有酸素運動により自律神経のバランスが改善され、症状の軽減につながります。ストレスを避けるためにリラックスする時間を取ることも有効です。
参考)ホットフラッシュに効く食べ物は?セルフケアで症状を緩和しよう…

バランスのよい食生活も予防に重要です。特に、大豆製品、ビタミンE類、ハーブティーなどの摂取が推奨されています。野菜や果物、魚などの栄養素が豊富な食品も積極的に摂取するようにします。一方で、刺激物やカフェイン、アルコール、精白された炭水化物や糖分などは要注意です。過剰摂取によりホットフラッシュが悪化する恐れがあり、適量の意識が重要といえます。​
食べ過ぎや空腹状態も好ましくなく、適度な食事と食事の時間を守ることも大切です。喫煙習慣、過度な飲酒、睡眠不足などの生活習慣がある方はより症状が出やすいといわれており、これらの改善が重要です。急激な体重変動や肥満傾向も関連することがあるため、適正体重の維持を目指した指導が必要です。これらの生活習慣改善は、薬物療法と併用することでより効果的な症状管理につながります。​

 

 


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