2024年12月に発刊された『アミロイドーシス診療ガイドライン2025』は、日本アミロイドーシス学会監修による8年ぶりの大幅改訂版です。この間に、アミロイドーシスの各病型における病態理解と治療法は大きく進歩し、もはや治癒しうる疾患へと変貌を遂げています。
参考)https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=200490
本ガイドラインは厚生労働省「アミロイドーシスに関する調査研究班」を中心とした作成委員会により編集され、日本神経学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血液学会からの承認を取得しています。
核酸医薬や抗体薬などの画期的な新薬の登場と、イメージング技術の進歩により、日進月歩で発展するアミロイドーシス診療の現状を反映した必須の内容となっています。
アミロイドーシスの早期診断は、疾患修飾療法の効果を最大化するために極めて重要です。近年開発された各種治療法は、いずれも発症早期からの介入が最も進行抑制効果を示すため、適切かつ迅速な病型診断が求められます。
参考)https://amyloidosis-center.com/discrimination/
全身性アミロイドーシスの診断には、以下の要素が必要です:
参考)https://hattramyloidosis.jp/guideline/JCS2020/diagnosis/diagnostic-criteria-for-ATTRv-amyloidosis
アミロイドの確定診断には、組織におけるアミロイド沈着を病理組織学的に証明する必要があります。具体的には、コンゴーレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈する物質として同定されます。
2020年に公表された全身性アミロイドーシス改定診断基準では、以下の病型が対象となっています:
参考)http://amyloidosis-research-committee.jp/wp-content/uploads/2020/03/diagnostic_200313.pdf
この診断基準により、各学会の承認を得た統一的な診断アプローチが可能となりました。
参考)http://amyloidosis-research-committee.jp/diagnostic/
全身性アミロイドーシスにおける鑑別診断は、適切な治療選択のために不可欠です。主要な病型は、トランスサイレチン型(ATTRアミロイドーシス)と免疫グロブリン型(ALアミロイドーシス)に大別されます。
現在の診療では、以下の3疾患を正確に鑑別する必要があります:
近年の診断技術の発展により、非侵襲的な診断アプローチが大きく進歩しています。特に核医学検査を用いた心アミロイドーシスの診断では、組織生検を行わずに病型診断が可能になるケースが増えています。
参考)https://hattramyloidosis.jp/guideline/JCS2020/diagnosis/nuclear-imaging
ALアミロイドーシスでは、ネフローゼ範囲の蛋白尿、拡張機能が保たれた心不全、非糖尿病性末梢神経障害、原因不明の肝腫大や下痢などの症状を呈することが多く、これらの症状を呈する患者では本疾患を疑うことが重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8124067/
アミロイドーシスの診断は、曖昧な症状や臨床的重複、診断上の落とし穴により、しばしば見逃されたり遅延したりします。特に多発性骨髄腫の経過観察中や、意義不明の単クローン性ガンモパチー(MGUS)の患者では、原因不明の体重減少、下肢浮腫、早期満腹感、労作時呼吸困難などの非典型的特徴がある場合、軽鎖アミロイドーシスのリスクを考慮すべきです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10299430/
アミロイドーシス治療は近年劇的な変化を遂げ、画期的な新薬の登場により治療成績が大幅に改善されています。2025年には新たな治療選択肢が加わり、治療環境が大きく変わりました。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000074822.html
2025年3月に承認されたアコラミジス(ビヨントラ®)は、ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)患者の治療において重要な前進をもたらしました。この薬剤は、トランスサイレチンタンパク質の90%超の安定化を達成し、心血管死および入院を低減することが臨床試験で示されています。
現在の治療目標は以下の通りです。
トランスサイレチンを安定させることで、ミスフォールドしたアミロイド線維の臓器への沈着を防ぐことが可能になり、患者の予後改善に大きく寄与しています。
ALアミロイドーシスの治療では、ダラツムマブとシクロホスファミド、ボルテゾミブ、デキサメタゾンの併用療法(Dara-CyBorD)の有効性が報告されています。この治療法により、従来困難であった進行例においても良好な治療反応が期待できるようになりました。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/13/6/1744/pdf?version=1710750999
腎アミロイドーシスにおいては、Pavia腎病期分類モデルによる透析移行リスクの層別化が可能となり、より個別化された治療アプローチが実現されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10971215/
核医学検査は、アミロイドーシスの診断において革命的な進歩をもたらし、従来必須であった組織生検を回避できる症例が増加しています。この検査法は特に心アミロイドーシスの診断において重要な役割を担っています。
核医学検査では、特定の放射性同位体標識化合物を用いて、心筋に沈着したアミロイドを画像化します。この技術により、非侵襲的にアミロイドの存在と分布を確認することが可能です。
従来の診断プロセスでは、確定診断のために組織生検が必要でしたが、核医学検査の導入により以下の利点が得られています。
心アミロイドーシス診療ガイドラインでは、核医学検査を組み込んだ診断アルゴリズムが提示されています。このアルゴリズムでは、臨床症状、画像所見、血液検査結果を総合的に評価し、核医学検査の結果と組み合わせることで、より確実な病型診断が可能になっています。
参考)https://hattramyloidosis.jp/guideline/JCS2020
特にATTRアミロイドーシスの診断では、核医学検査の陽性所見と血清中のM蛋白の陰性確認により、組織生検を行わずに診断確定できるケースが増えています。
参考)https://www.pfizerpro.jp/medicine/vyndaqel/disease/attr-cm-disease/04
実際の診療現場では、以下の手順で核医学検査が活用されています:
神経系アミロイドーシス、特にATTR-FAP(家族性アミロイドポリニューロパチー)の早期診断において、表皮内神経線維密度(IENFD)測定は画期的な診断ツールとなっています。この検査法は、従来の神経伝導検査では検出困難な小径線維障害を早期に同定することが可能です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/35/3/35_174/_pdf/-char/ja
IENFDは、皮膚生検により得られた表皮内の神経線維密度を定量的に評価する検査法です。この検査の重要性は以下の点にあります:
ATTR-FAPは多くの場合、小径線維ニューロパチー(SFN)にて発症するため、早期の小径線維障害の証明が診断の鍵となります。従来の神経伝導検査は主に大径線維の機能を評価するため、小径線維障害の早期変化を捉えることが困難でした。
IENFDの測定により、以下の臨床情報が得られます。
この検査では、皮膚の小片を採取し、特殊な染色により表皮内神経線維を可視化します。測定は標準化されたプロトコールに従って行われ、年齢や性別による正常値が設定されています。
検査結果は神経線維の密度として数値化され、正常値との比較により神経障害の程度を客観的に評価できます。この定量的アプローチにより、治療効果の判定や疾患進行の監視にも活用できる優れた診断ツールとなっています。
近年の疾患修飾療法の発達により、早期治療の重要性が増している中で、IENFDのような早期診断技術の価値はますます高まっています。特に無症状の遺伝子保因者における予防的治療の適応判定にも応用が期待される、将来性の高い診断法です。