トランスフェリン フェリチン 違いと基準値から読む鉄代謝の診断意義

トランスフェリンとフェリチンは鉄代謝において重要な役割を担うタンパク質ですが、その機能と臨床的意義には明確な違いがあります。両者の違いを理解することで、貧血診断や鉄過剰症の早期発見に繋がるのでしょうか?

トランスフェリン フェリチン 違い

トランスフェリンとフェリチンの基本的差異
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トランスフェリンの役割

血液中で鉄の輸送を担う糖タンパク質で、鉄の運び屋として機能する

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フェリチンの役割

体内の鉄貯蔵を担うタンパク質で、細胞内の鉄を安全に保管する

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臨床的意義の違い

トランスフェリンは鉄利用状態を、フェリチンは鉄貯蔵量を反映する

トランスフェリンの基本構造と輸送機能

トランスフェリンは分子量約80kDaの糖タンパク質で、主に肝臓で産生されます。分子は2つの互いに似たドメインから構成され、それぞれに3価鉄イオン(Fe(III))結合部位が1個ずつあります。各鉄イオンには1個の窒素原子(ヒスチジン残基)と5個の酸素原子(2個のチロシン残基、1個のアスパラギン酸残基、1個の炭酸分子)が配位しています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3

 

鉄イオンと結合したものをホロトランスフェリン、結合していないものをアポトランスフェリンと呼びます。トランスフェリンは血清中の鉄と結合して搬送する働きがあり、腸管から吸収された鉄、組織から放出された鉄を結合して血中を運搬し、造血細胞に引き渡す役割を担っています。通常、トランスフェリンの約1/3が鉄と結合し、残りの2/3は未結合の状態にあります。
参考)https://miyake-naika.com/01sindan/ferritin.html

 

フェリチンの貯蔵機能と基準値

フェリチンは全ての細胞内に存在するタンパク質で、アポフェリチンという蛋白質とFe3+からなる水溶性タンパク質です。血清フェリチンの基準値は一般的に男性で20~250ng/mL、女性で10~150ng/mLとされています。これは男性の方が低値から高値まで幅広い値を示し、女性は低値で範囲が狭くなっているためです。閉経後の女性は男性の値寄りとなり、高値傾向となります。
参考)https://reniya-womens.com/wordpress/wp-content/themes/teamm/newspaper/128.pdf

 

フェリチンはトランスフェリンによって運ばれてくる鉄を細胞内に貯蔵し、鉄が必要な場合は速やかに利用できるように調節しています。血液中には微量のフェリチンが存在し、この血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映して増減します。血清フェリチン自体に鉄はほとんど含まれていませんが、その量は貯蔵鉄と強い相関があるため、貯蔵鉄の量を示すマーカーとして用いられています。

トランスフェリン飽和度と鉄利用状態の評価

トランスフェリン飽和度(TSAT)は、全体のトランスフェリンのうち鉄と結合している部分の割合を示す指標です。TSATは血清鉄とTIBC(総鉄結合能)から算出され、鉄利用の効率性を評価する重要な指標となっています。血液透析患者において最も効率よく造血に鉄が利用される状態は、TSAT20%(できれば22%)以上、血清フェリチン60ng/ml未満とされています。
参考)https://www.biomarker.jp/ronbun/pdf/r02.pdf

 

TSATが低値の場合は鉄欠乏を示し、フェリチンの高値は鉄過剰の指標として適用されます。このことから、TSATは鉄欠乏の指標として適当であり、同時に鉄利用の指標にもなります。特に鉄欠乏性貧血の診断では、血清フェリチンに加えてTSATも確認することが有効とされています。
参考)https://medical.zeria.co.jp/product/ferinject/%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%AE%E8%A8%BA%E3%81%8B%E3%81%9F%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%84.pdf

 

トランスフェリン受容体による細胞内鉄取り込み機構

トランスフェリン受容体(TfR)は、細胞による鉄の取り込みに重要な役割を果たす膜貫通糖タンパク質です。ヒトでは2種類のトランスフェリン受容体、TfR1(TFRC)とTfR2(TFR2)が特性解析されており、細胞による鉄の取り込みは主にこれら2つの受容体を介して行われています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

 

トランスフェリン受容体1は、最近の研究でフェリチンの受容体でもあることが明らかにされました。正常造血系細胞の中では赤芽球が選択的にH鎖主体のフェリチン(Hフェリチン)を取り込みます。一方、トランスフェリン受容体2は肝臓ではヘモクロマトーシス関連蛋白のHFEと複合体を形成して鉄のセンサーとして働き、鉄代謝制御ホルモンのヘプシジンの発現に関わっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/57/7/57_951/_article/-char/ja/

 

トランスフェリンとフェリチンの細胞周期制御における相違性

最新の研究では、輸送鉄であるトランスフェリン結合鉄と貯蔵鉄であるフェリチン結合鉄は細胞周期制御において異なる役割を担っていることが明らかになっています。特に成熟NK細胞リンパ腫における細胞周期制御において、これらの機能的な違いは「輸送」と「貯蔵」という面以外でも詳しく調べられており、細胞の生存や増殖に対する影響が異なることが示されています。
参考)https://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2025/237

 

この発見は、従来の「トランスフェリンは輸送、フェリチンは貯蔵」という単純な理解を超えて、両者が細胞レベルでの鉄代謝制御においてより複雑で特異的な役割を持つことを示唆しています。これらの知見は、鉄代謝異常症の診断や治療法の開発において重要な示唆を与えるものです。