不妊症の原因と初期症状を医療従事者が解説

不妊症の原因は女性因子と男性因子に分かれ、排卵障害や卵管異常、造精機能障害など多岐にわたります。初期症状の見極めと適切な検査による早期発見が重要ですが、あなたは患者の症状を正しく評価できていますか?

不妊症の原因と初期症状

不妊症の主要因子
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女性因子(約49%)

排卵障害、卵管異常、子宮因子、頸管因子など

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男性因子(約33%)

造精機能障害、精路通過障害、性機能障害など

原因不明(約49%)

現在の検査では特定できない潜在的要因

不妊症の女性因子による原因と症状

女性の不妊症において最も頻度が高いのは排卵因子で、全体の30~47%を占めています。排卵障害は月経周期の異常として現れることが多く、正常な月経周期である25~38日から逸脱した稀発月経や無月経が主要な初期症状です。

 

排卵因子の主な原因:

  • 高プロラクチン血症:ゴナドトロピンの分泌を抑制し排卵障害を引き起こす
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):ホルモンバランス異常による排卵不全
  • 甲状腺疾患甲状腺機能低下症により精子数や精液量が減少
  • 体重異常:BMI≧27の過体重やBMI≦17の低体重で排卵障害が発生

卵管因子は不妊症女性の32~42%を占める重要な原因です。卵管閉塞や卵管狭窄により、精子と卵子の出会いが阻害されます。特にクラミジア感染症は無症状で進行することが多く、気づかないうちに卵管周囲の癒着を引き起こします。

 

子宮因子では、子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)や子宮内膜ポリープが受精卵の着床を阻害します。月経量の異常な増加や貧血症状が初期症状として現れることがあります。

 

不妊症の男性因子による原因と症状

男性不妊の約90%を占めるのが造精機能障害です。これには精子無力症、乏精子症、無精子症の3つの主要な病態があります。

 

造精機能障害の分類:

  • 精子無力症:精子数は正常だが運動率が低下
  • 乏精子症:精液中の精子数が基準値を下回る状態
  • 無精子症:精液中に精子が存在しない最も重篤な状態

精索静脈瘤は男性不妊の重要な原因の一つで、心臓へ戻る血液が逆流して精巣内にコブができた状態です。温かい血液が静脈瘤に溜まることで精子機能が低下し、陰嚢内の温度上昇により精巣の発育不全を引き起こします。

 

逆行性射精では、精液が尿道ではなく膀胱へ戻るため、射精された精液量が極端に少なくなります。これは前立腺や骨盤内手術の後遺症として発生することがあります。

 

甲状腺機能低下症や糖尿病などの全身疾患も男性不妊の原因となり、精子数減少や勃起不全などの性機能障害を引き起こします。

 

不妊症の初期症状を見分ける検査方法

不妊症の診断には系統的な検査アプローチが必要です。初期検査として以下の4つの評価が基本となります。
女性に対する基本検査:

  • 排卵の評価:基礎体温測定、ホルモン検査(採血)、超音波検査
  • 卵管疎通性の評価:子宮卵管造影検査(HSG)、クラミジア検査
  • 卵巣予備能の評価:採血検査、超音波検査による卵胞数の計測
  • 子宮形態の評価:経膣超音波検査、子宮鏡検査

男性に対する基本検査:

  • 精液検査:2~7日間の禁欲後に採取し、精子濃度・運動率・形態を評価
  • 精巣の検査:触診による精索静脈瘤の確認
  • 血液検査:ホルモン値の測定、染色体検査

子宮頸管粘液検査では、排卵期における頸管粘液の牽糸性や量、色調を確認し、精子の通過性を評価します。抗精子抗体検査では、精子を外敵とみなして動きを妨げる抗体の有無を確認します。

 

日本生殖医学会による不妊症Q&Aでは、詳細な検査手順と診断基準が解説されています

不妊症の原因別治療アプローチ

不妊症の治療は原因に応じた段階的アプローチが重要です。排卵因子に対しては排卵誘発剤を用いた治療が第一選択となります。クロミフェンやゴナドトロピン製剤により排卵を促進し、タイミング法から開始します。

 

卵管因子や子宮因子、ピックアップ障害、受精障害では体外受精が適応となります。特に重度の卵管閉塞や子宮内膜症による癒着では、自然妊娠の可能性が極めて低いため、早期の体外受精移行が推奨されます。

 

男性因子に対する治療選択:

  • 精子無力症・乏精子症:人工授精から体外受精、顕微授精へのステップアップ
  • 無精子症:精子採取術(MESA、micro-TESE等)による精子回収後の顕微授精
  • 閉塞性無精子症:精管吻合術または精子採取術
  • 性機能障害:心理的サポートと薬物療法の併用

受精障害では顕微授精(ICSI)が必須で、卵子が活性化しない場合には電気刺激やカルシウムイオノフォアによる人工的活性化も行われます。

 

済生会の不妊症解説では、最新の治療法と成功率について詳しく説明されています

医療従事者が知るべき不妊症の心理的要因

不妊症患者への対応において、医療従事者が見落としがちなのが心理的要因の影響です。ストレスは視床下部-下垂体-卵巣軸に直接作用し、排卵障害を引き起こす重要な因子となります。

 

心理的ストレスが与える生理学的影響:

  • コルチゾール分泌増加によるゴナドトロピン分泌抑制
  • 交感神経系の活性化による卵巣血流の減少
  • 免疫系の変調による着床環境の悪化
  • 睡眠障害による成長ホルモン分泌の低下

不妊治療中の夫婦は、月単位での治療結果への期待と失望を繰り返すため、慢性的な心理的負荷を抱えています。特に体外受精の反復不成功例では、抑うつ症状の発現率が一般人口の3倍以上に上昇するという報告があります。

 

医療従事者には、単に生物学的な不妊原因の追求だけでなく、患者の心理状態への配慮と適切な精神的サポートの提供が求められます。カウンセリングの導入や患者支援グループへの紹介は、治療成功率の向上にも寄与することが示されています。

 

また、不妊症診断時の患者への情報提供方法も重要です。過度に医学的詳細を説明することで患者の不安を増大させる場合もあるため、個々の患者の理解度と心理状態に応じた説明技術の習得が必要です。

 

不妊症治療において、医学的治療と心理的サポートの両輪が機能することで、患者のQOL向上と治療成功率の改善が期待できます。医療従事者は常に患者の全人的ケアを念頭に置いた診療姿勢を保持することが重要です。