ドロキシドパは神経伝達物質であるノルアドレナリンやアドレナリンのプロドラッグとして作用する合成アミノ酸前駆体です 。本薬剤の最も重要な特徴は、通常のノルアドレナリンやアドレナリンとは異なり、血液脳関門を通過可能であることです 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%91
体内では芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼによってL-ノルアドレナリンに変換され、末梢神経系と中枢神経系の両方でノルアドレナリンとアドレナリンの濃度を上昇させます 。この作用により、心拍数の上昇と血圧の維持が可能となり、起立時や立位保持時の血流維持を実現します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003530.pdf
神経性起立性低血圧の患者では、ノルアドレナリンやアドレナリンの不足が起立時低血圧の主要原因となっており、ドロキシドパはこの根本的な神経伝達物質の不足を補完する治療戦略として有効性を発揮します 。
パーキンソン病治療におけるドロキシドパの効果は、多施設共同プラセボ対照無作為化試験によって科学的に実証されています 。600mg/日の投与により、運動症状全般とすくみ足がプラセボに比して有意に改善することが明らかになっています 。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/sinkei_pdgl_2011_08.pdf
運動症状の改善効果を詳細に検討すると、著明改善と中等度改善以上の症例は、ドロキシドパ群で7.8%と19.0%を占め、プラセボ群(0%と12.7%)よりも明らかに優れた結果を示しました(p<0.05)。特にすくみ足に対する効果は顕著で、著明改善と中等度改善がドロキシドパ群で5.4%と19.6%、プラセボ群で0%と9.4%となり、統計学的に有意な差が認められています(p<0.05)。
臨床応用においては、すくみ足がオフ時に生じる場合はオフ時間短縮を優先し、オン時に生じる場合にはリハビリテーションと併用してドロキシドパの使用を考慮することが推奨されています 。ただし、約半数の患者では無効であることから、患者により効果が大きく異なる可能性があることも報告されています 。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_15.pdf
起立性低血圧に対するドロキシドパの治療効果は、特に自覚症状の改善において優れた結果を示しています。パーキンソン病患者における起立時のふらつき感を有意に改善することが確認されており、プラセボに比べてドロキシドパが優れていることが群間比較で明らかにされています 。
血圧測定値の変化を見ると、投与により拡張期血圧が上昇し、起立時の血圧低下が投与前よりも有意に改善されることが示されています 。しかし、血圧測定値や血圧変化値に対する効果がプラセボと比較して優れているかについては十分な検証が行われていないという課題も指摘されています 。
シャイ・ドレーガー症候群や家族性アミロイドポリニューロパチーにおける起立性低血圧、失神、たちくらみの改善にも適応が認められており 、幅広い自律神経障害による症状に対して治療選択肢を提供しています 。
参考)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/yakuzaiMenu/doYakuzaiInfoKobetsuamp;1169006C1039;jsessionid=3E7949DDE4FFB3F5AEFC497BD234EF15
血液透析患者における起立性低血圧は、透析中の急激な血圧低下や透析終了後の血圧変動として現れ、予後不良の要因となることが知られています 。ドロキシドパは、透析開始30分から1時間前の投与により、めまい、ふらつき、たちくらみ、倦怠感、脱力感などの症状改善効果を示します 。
参考)https://www.m.chiba-u.jp/dept/nephrology/files/8016/0818/1405/5ad1924be7fb665afffc8ed94fac629c.pdf
通常成人に対しては、1回量200~400mgを透析開始前に経口投与し、年齢や症状により適宜減量調整を行います 。重要な点は、1回量が400mgを超えないことと、用法・用量を遵守して透析後の追加投与など過剰投与による過度の昇圧反応を避けることです 。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=1169006C1055
透析低血圧症に対する初期第II相多施設臨床試験では、経口投与が可能なノルアドレナリン前駆アミノ酸として、Shy-Drager症候群などに見られる起立性低血圧への臨床応用で培われた知見を透析患者にも適用できることが実証されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1985/24/7/24_7_897/_article/-char/ja/
ドロキシドパの副作用発現頻度は比較的低く、主な副作用として頭痛・頭重感(3.4%)、血圧上昇(2.2%)、幻覚、悪心、食欲不振、胃痛などが報告されています 。頻度別では、1%以上の副作用として精神神経系症状(幻覚、頭痛・頭重感、めまい)と消化器症状(悪心、食欲不振、胃痛)が挙げられます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066383.pdf
重要な相互作用として、モノアミン酸化酵素阻害剤との併用では本剤の作用が増強され、血圧の異常上昇をきたす可能性があるため注意が必要です 。三環系抗うつ剤(イミプラミン、アミトリプチリンなど)との併用でも、神経終末でのノルアドレナリンの再吸収が阻害され、ノルアドレナリン濃度の増加により血圧の異常上昇が起こる可能性があります 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051739
一方で、α1-受容体遮断作用のある薬剤(タムスロシン、ドキサゾシン、イフェンプロジルなど)やレセルピン誘導体では本剤の作用が減弱される可能性があり、フェノチアジン系薬剤やブチロフェノン系薬剤では抗ドパミン作用と末梢のα受容体遮断作用により本剤の効果が減弱することがあります 。
慎重投与が必要な患者として、高血圧、動脈硬化症、甲状腺機能亢進症、重篤な肝・腎障害、心疾患、重篤な肺疾患・気管支喘息、内分泌系疾患、慢性開放隅角緑内障、重度の糖尿病を合併した血液透析患者が挙げられており 、これらの基礎疾患を有する患者では症状悪化のリスクを十分に評価した上で投与を検討する必要があります。