ニューロパチー(末梢神経障害)は末梢神経または神経根に病変を有する疾患の総称で、運動神経、感覚神経、自律神経に及ぶ広範囲な障害を引き起こします 。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC
症状は障害される神経の種類によって異なります:
感覚神経障害の症状 🔥
運動神経障害の症状 💪
自律神経障害の症状 ⚖️
症状の進行パターンは月・年単位のゆっくりとした進行から、数日単位の急速進行まで様々です 。病理学的には、軸索変性型と脱髄型に分類され、障害部位により単神経炎、多発性単神経炎、多発神経炎に区分されます 。
参考)https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h01873/
神経伝導検査(NCS)は、ニューロパチーの診断において最も重要な検査の一つです。皮膚の上から末梢神経に電気刺激を与え、電気刺激の伝わる速度(伝導速度)や伝導ブロックの有無を測定します 。
参考)https://www.takeda.co.jp/patients/cidp_mmn_navi/diagnosis/
検査で分かる重要な所見 ⚡
CIDP(慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー)では、運動神経の2箇所以上で脱髄を示す結果が得られた場合に診断されます。また、感覚神経の異常もCIDPとの診断を支持する重要な所見とされています 。
糖尿病性ニューロパチーにおいては、神経伝導検査による重症度分類が治療方針決定に重要な役割を果たします 。近畿大学医学部附属病院では、末梢神経伝導検査の参考基準値を設定し、病態診断への貢献を報告しています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/27bb0faae7b02ecc54b2bc63874a63e503d4a9c3
興味深いことに、神経伝導検査では軸索再生の特異性についても評価が可能で、後根神経節障害では経過が長期でもaxonal sproutingが認められないのが特徴です 。
ニューロパチーの原因は非常に多様で、適切な診断と治療のためには病因の特定が重要です。
代謝性疾患による原因 🍯
糖尿病性ニューロパチーは最も頻度の高い原因の一つです。持続的な高血糖状態により末梢神経が徐々に損傷を受けて発症します。初期は足先のしびれ感として現れ、進行すると手の指先まで症状が広がります 。
参考)https://maruoka.or.jp/brain-and-nerve/brain-and-nerve-disordrs/diabetic-neuropathy/
免疫・炎症性疾患 🛡️
薬剤性ニューロパチー 💊
特に頻度が多いのは:
その他の原因 ⚠️
特に注目すべきは、ピリドキシン(ビタミンB6)の高用量摂取(116mg/day以上)が重篤な感覚性運動失調を伴うニューロパチーを引き起こすという意外な事実です 。
ニューロパチーの治療は病因により大きく異なりますが、免疫介在性末梢神経障害では経静脈免疫グロブリン療法(IVIg)が中心的な役割を果たしています。
IVIg療法の実際 💉
CIDPに対するガンマグロブリン製剤は、総量2g/kgを5日間で点滴投与する方法で良好な症状改善を認めることが多いです。しかし、その後の再増悪のため2-3ヶ月程度の間隔で繰り返し投与が必要となることも少なくありません 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/4/37_558/_pdf/-char/ja
本邦では現在5種の免疫グロブリン製剤がCIDPに対して適応となっており、導入療法または維持療法への適応、投与経路、製剤濃度、投与速度などの特徴が各製剤で異なります 。
参考)https://www.shinryo-to-shinyaku.com/db/pdf/sin_0058_01_0001.pdf
病態別治療アプローチ 🎯
病態 | 主な治療法 | 特徴 |
---|---|---|
炎症性・免疫介在性 | IVIg、ステロイド、免疫抑制剤 | 再発予防が重要 |
糖尿病性 | 血糖コントロール、疼痛管理 | 進行抑制が目標 |
圧迫性 | 手術、理学療法 | 早期介入が効果的 |
ギラン・バレー症候群の治療 ⚡
免疫グロブリン400mg/kg/日、5日間連日点滴静注する治療法で、自己の末梢神経に対する免疫異常に対処します 。
参考)http://www.ketsukyo.or.jp/disease/immunity/imm_04.html
興味深い治療の進歩として、MAG抗体陽性ニューロパチーに対しては十分に有効性が確立された治療がまだ存在せず、新たな治療アプローチの開発が進められています 。
ニューロパチーの診療において、急性期治療だけでなく長期的な予後管理が患者のQOL向上に重要な役割を果たします。
糖尿病性ニューロパチーの進行管理 📊
糖尿病性ニューロパチーは長期の経過で無症候期から症候期へと進行します。初期-中期には疼痛、しびれ、筋痙攣などの陽性症状が主体となりますが、進行期には脱落症状が出現します 。
参考)https://iryogakkai.jp/2009-63-02/107-9.pdf
進行段階に応じた管理戦略:
段階 | 症状の特徴 | 管理のポイント |
---|---|---|
初期 | 足先のしびれ、チクチクする痛み | 血糖コントロールの強化 |
中期 | 感覚鈍麻、温度感覚低下 | 疼痛管理、転倒予防 |
後期 | 感覚脱失、持続的痛み | 足病変予防、ADL支援 |
CIDP患者の長期管理 🔄
CIDP では IVIg維持療法により症状を維持し病勢進行を抑制する治療が重要です。しかし、再増悪の反復により二次性の軸索変性が進行するリスクがあり、適切な維持療法の調整が必要です 。
圧迫性ニューロパチーの予後 🛠️
手根管症候群などの圧迫性ニューロパチーでは、筋萎縮が明らかになる前に手根管開放術を行うのが良いとされています。泥酔後の橈骨神経麻痺(Saturday night palsy)などは比較的回復しやすい特徴があります 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC
意外な予後因子 🔍
遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)患者では、バックパックを背負う、肘でもたれる、短時間足を組むなどの些細な神経圧迫で症候性の単ニューロパチーが突然起こり、改善に数週から数ヶ月を要することがあります 。
このように、ニューロパチーの長期管理では病因に応じた個別化されたアプローチと、患者教育を含む包括的なケア戦略が不可欠です。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の詳細な病態と治療選択肢について - 難病情報センター
CIDP・MMN診断の実際的な検査手順と判定基準 - 武田薬品
末梢神経障害の包括的な診断・治療アプローチ - 国立精神・神経医療研究センター