アセナピンマレイン酸塩の商品名シクレストの特徴と使い方

アセナピンマレイン酸塩の商品名「シクレスト」について、作用機序・剤形・副作用・禁忌・相互作用まで医療従事者向けに解説。糖尿病患者への使用可否や服薬指導の注意点も確認できます。

アセナピンマレイン酸塩の商品名シクレストを正しく使いこなすための知識

糖尿病患者にシクレストを処方すると、翌日の血糖コントロールが崩れることがあります。


この記事の3ポイントまとめ
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商品名はシクレスト舌下錠(5mg・10mg)

アセナピンマレイン酸塩の国内唯一の製品。先発品のみでジェネリックなし。統合失調症に対して日本初の舌下投与型抗精神病薬として2016年に承認。

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MARTAに分類される非定型抗精神病薬

D2・5-HT2A・α1・H1など多種受容体に拮抗。同じMARTAのオランザピン・クエチアピンと異なり、糖尿病患者への投与が可能な唯一のMARTA。

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服薬指導の最重要ポイントは「10分間の飲食禁止」

舌下投与後10分以内の飲水でAUCが19%低下することが確認されており、効果を確保するために飲食・うがい・歯磨きを厳禁。医療従事者が患者に徹底して指導する必要あり。


アセナピンマレイン酸塩の商品名・規格・薬価をまず確認する



アセナピンマレイン酸塩の国内での商品名は「シクレスト舌下錠」のみです。Meiji Seikaファルマ株式会社が製造販売元であり、5mgと10mgの2規格が存在します。米国では同成分の製品が「SAPHRIS(サフリス)」として Allergan社から販売されています。国際的に見ると商品名は異なりますが、有効成分・作用機序はまったく同一です。


薬価は以下の通りです。


| 規格 | 販売名 | 薬価(1錠) |
|------|--------|------------|
| 5mg | シクレスト舌下錠5mg(先発品) | 199.6円 |
| 10mg | シクレスト舌下錠10mg(先発品) | 307.0円 |


現時点ではアセナピンマレイン酸塩のジェネリック医薬品(後発品)は国内未発売です。後発品が発売された場合、一般名「アセナピン錠」として市場に登場する見込みとなっています。先発品のみであることは、患者の薬剤費負担に直結します。1日2回・最高用量20mgで継続服用した場合の月額薬価は約1万8,420円(10mg×2回×30日分)にのぼるため、処方時には患者の経済的負担への配慮も必要です。


2016年3月28日に製造販売承認を取得し、同年5月に発売されました。統合失調症に対して国内で初めての舌下錠として登場した経緯があります。つまり剤形そのものが他の抗精神病薬にはない独自性を持っており、服薬指導の方法も従来薬とは大きく異なる点を医療従事者は押さえておく必要があります。


参考:KEGGデータベース アセナピンマレイン酸塩 商品一覧
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=D02995


アセナピンマレイン酸塩(シクレスト)の作用機序:MARTAとしての特性

アセナピンマレイン酸塩はMARTA(Multi-Acting Receptor Targeted Antipsychotics:多元受容体標的化抗精神病薬)に分類される第二世代抗精神病薬です。これが基本分類です。


MARTAとは、ドパミンD2受容体・セロトニン5-HT2A受容体だけでなく、アドレナリンα1・α2受容体、ヒスタミンH1受容体など複数の受容体に対して拮抗作用を持つ薬剤の総称です。国内で現在使用可能なMARTAは、クエチアピンセロクエル)・オランザピンジプレキサ)・アセナピン(シクレスト)の3剤となっています。


アセナピンの主な受容体プロファイルは次のとおりです。


- D2受容体拮抗:幻覚・妄想などの陽性症状を改善。ドパミン遮断作用はSDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)に近いほど強力です
- 5-HT2A受容体拮抗:陰性症状(感情鈍麻・意欲低下)・認知機能の改善に寄与
- α2受容体拮抗:前頭葉のドパミン・ノルアドレナリン遊離促進により、陰性症状へ追加的に作用
- H1受容体拮抗:鎮静作用・睡眠深化。不眠や焦燥に有効な一方、眠気・体重増加の副作用源にもなる
- M1受容体への親和性はほぼなし:抗コリン作用が極めて少なく、口渇・便秘・尿閉といった副作用が生じにくい


抗コリン作用がほとんどないのがシクレストの大きな特徴です。他のMARTAではしばしば問題となる便秘・口渇・認知機能への悪影響が少ない点は、高齢者や消化管機能に問題のある患者への使用において有利に働く場合があります。


また、5-HT1A受容体に対しては、in vivoで刺激(アゴニスト)作用を示すことも確認されています。この作用が抗うつ・抗不安効果に関連していると考えられており、海外では双極性障害躁状態・混合状態にも適応が認められています(日本国内の承認適応は統合失調症のみ)。意外ですね。


参考:薬師業務情報 シクレスト舌下錠(白鷺病院)
https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/1807.pdf


シクレストが「舌下錠」である理由と服薬指導の核心:10分ルール

アセナピンが舌下錠として開発された背景には、明確な薬物動態上の理由があります。もともと経口錠として開発が進められていましたが、消化管での吸収後に肝臓での初回通過効果(first-pass effect)が非常に大きく、バイオアベイラビリティが経口投与ではほぼ1%前後にとどまることが判明しました。これは実用的な治療薬として成立しない水準です。


舌下投与に変更することで、口腔粘膜→静脈→全身循環というルートをたどり、肝臓の初回通過代謝を回避することに成功しました。その結果、バイオアベイラビリティは約35%にまで改善しています。舌下投与後の最高血中濃度到達時間(Tmax)は約1時間、半減期(T1/2)は約24時間と報告されています。


2分で約80%、5分で約90%が口腔粘膜から吸収されることが研究から示されています。これが基本です。


服薬指導で最も重要なのは「舌下投与後10分間の飲食禁止」です。研究データによれば、投与後2分以内の飲水でAUCが19%低下することが確認されています。5mgを服用した場合に換算すると、飲食タイミングのミスだけで有効成分の約20%が失われてしまう計算になります。痛いですね。


指導時に患者へ伝えるべき内容をまとめると、以下のとおりです。


- 💧 水なしで服用する(水で飲み込まない)
- 👅 舌の下(または頬の粘膜)に置き、完全に溶けるまで保持する
- 🚫 服用後10分間は飲食・うがい・歯磨きを避ける
- ✋ 吸湿性が高いため、乾燥した手でシートから取り出す
- 💊 飲み込んでしまっても大量追加服用はしない(次回のタイミングまで待つ)


また、バッカル(頬と歯茎の間に挟む)投与でも口腔粘膜から吸収されるため、舌下に置くことが難しい患者には代替方法として案内できます。ただしこれはあくまで臨床的な知見であり、添付文書上は舌下投与が原則です。


参考:シクレスト舌下投与後の飲食不可時間(日経DI)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201611/548892.html


アセナピンマレイン酸塩(シクレスト)の副作用プロファイルと糖尿病患者への対応

シクレストの副作用は同クラスの抗精神病薬と比べて特徴的な分布を持っています。承認時の国内臨床試験(157例)で報告された主な副作用の頻度は以下のとおりです。


| 副作用 | 発現頻度 |
|--------|---------|
| 傾眠(眠気) | 11.5%(18/157例) |
| 口の感覚鈍麻(しびれ) | 10.2%(16/157例) |
| 体重増加 | 8.3%(13/157例) |
| アカシジア | 8.4% |
| 錐体外路障害 | 6.3% |
| 浮動性めまい | 5.2% |


口の感覚鈍麻はシクレスト特有の副作用です。アセナピンの化学構造が局所麻酔薬リドカインに類似しており、口腔粘膜に接触した際に神経を一時的に麻痺させることで生じます。この副作用が強く現れた場合、服薬継続困難の一因となることがあります。


重大な副作用として添付文書に記載されているのは、悪性症候群・遅発性ジスキネジア・肝機能障害・ショック/アナフィラキシー・舌腫脹・高血糖/糖尿病性ケトアシドーシスなどです。なお、同じMARTAであるオランザピン(ジプレキサ)やクエチアピン(セロクエル)は糖尿病患者への投与が禁忌となっています。これはH1・M受容体拮抗によるインスリン抵抗性の増大が主因です。


一方、シクレストはMARTAの中で唯一、糖尿病患者への使用が可能です。抗コリン作用が弱く、代謝系への悪影響が相対的に少ない点が理由です。ただし、血糖・脂質代謝への影響がゼロではないため、投与中は定期的な血糖値モニタリングが必要です。口渇・多飲・多尿・頻尿が現れた場合はただちに精査することが推奨されます。糖尿病リスクのある患者への処方では、これを怠らないことが条件です。


アカシジアは「静坐不能」とも呼ばれ、患者が「じっとしていられない」「脚がむずむずして落ちつかない」と訴える状態です。精神症状との鑑別が重要で、見落とすと患者のQOLが著しく低下します。疑われる場合は抗不安薬・β遮断薬・抗コリン薬の併用を検討し、必要に応じて減量または薬剤変更を行います。


参考:シクレスト添付文書情報(QLifePro)
https://meds.qlifepro.com/detail/1179056F1021/シクレスト舌下錠5mg


シクレストの禁忌・相互作用・用量設定で見落としがちなポイント

添付文書に記載された禁忌は次のとおりです。


- 本剤成分に過敏症の既往歴がある患者
- 昏睡状態の患者(中枢抑制作用が増強されるリスク)
- バルビツール酸誘導体・麻酔剤などの中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者
- アドレナリンを投与中の患者(αブロッカー作用によりアドレナリン昇圧反転が生じ、血圧が逆に急落するリスクがある)


特に最後の「アドレナリン禁忌」は救急場面での見落としリスクがあります。ショック時にアドレナリンを使用しようとした際、シクレスト服用中の患者では血圧降下が増強される可能性があり、別の昇圧薬(ノルアドレナリンなど)を選択する必要があります。これが原則です。


相互作用で特に重要なのがCYP1A2阻害薬との組み合わせです。アセナピンは主にCYP1A2によって代謝されます。強力なCYP1A2阻害薬であるフルボキサミン(デプロメールなど)を併用すると、アセナピンの血中濃度が著しく上昇し、副作用が増強するリスクがあります。外国人データでは、フルボキサミン100mg/日との併用でアセナピンのAUCが約29%上昇したことが確認されています。


統合失調症にうつ症状を合併している患者へフルボキサミンを追加処方する場面は少なくなく、この組み合わせは現場で遭遇する可能性が十分あります。


用量設定については以下のとおりです。


| 段階 | 用量 |
|------|------|
| 開始用量 | 1回5mg、1日2回(計10mg/日)舌下投与 |
| 維持用量 | 1回5mg、1日2回(開始量と同一)|
| 最高用量 | 1回10mg、1日2回(計20mg/日)|


注意すべき点として、開始用量と維持用量が同一(5mg×2回)である点が挙げられます。他の多くの抗精神病薬では開始用量を低めに設定して漸増するパターンが多いですが、シクレストは最初から治療用量での投与が設計されています。これは使えそうな特徴です。


増量は症状に応じて行いますが、最高用量の20mg/日を超えることはできません。肝機能障害のある患者では代謝が遅延する可能性があるため、特に慎重に観察する必要があります。腎機能障害への影響については現時点で明確な制限はありませんが、重篤な腎機能障害患者への投与には注意が必要です。


参考:シクレスト 医療用医薬品情報(KEGG JAPIC)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066293






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