バイオアベイラビリティと初回通過効果の関係

経口投与した薬物の全身循環への到達率を決定するバイオアベイラビリティと初回通過効果について、その仕組みや計算方法、臨床上の重要性を解説します。あなたの処方する薬物の生体内利用率を正確に理解できていますか?

バイオアベイラビリティと初回通過効果

この記事のポイント
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バイオアベイラビリティの定義

投与された薬物が未変化体として全身循環血中に到達する割合を示す指標

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初回通過効果の仕組み

消化管吸収後に肝臓や小腸で薬物が代謝され、生体利用率が低下する現象

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臨床的意義

薬物選択や投与経路の決定、用量設定において重要な薬物動態学的パラメータ

バイオアベイラビリティの定義と薬物動態における位置づけ

 

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は、投与された薬物のうち未変化体として全身循環血中に到達する割合を示す薬物動態学の基本的パラメータです。静脈内投与では薬物が直接血液中に入るため、バイオアベイラビリティは100%となりますが、経口投与などその他の投与経路では消化管吸収や代謝の影響を受けるため、通常100%未満となります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00398.html

薬物動態学(ADME)において、バイオアベイラビリティは吸収(Absorption)と代謝(Metabolism)の両過程に深く関連しています。経口投与された薬物は消化管から吸収され、門脈を経由して肝臓に到達するまでの間に、小腸上皮細胞および肝臓に存在する代謝酵素の影響を受けます。この過程で薬物の一部が不活性化されるため、全身循環に到達する薬物量が減少し、バイオアベイラビリティが低下することになります。
参考)薬物動態学 - Wikipedia

バイオアベイラビリティは次の式で表されます。F=Fa×Fg×Fhとなり、Faは消化管吸収率、Fgは小腸上皮細胞を通過する際に初回通過代謝を免れた割合、Fhは肝臓における初回通過代謝を免れた割合を示します。例えば、消化管で90%吸収され、小腸で20%、肝臓で50%代謝される薬物の場合、バイオアベイラビリティはF=0.9×0.8×0.5=0.36(36%)となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/64/6/64_342/_pdf/-char/ja

バイオアベイラビリティの初回通過効果による消失メカニズム

初回通過効果(first-pass effect)とは、薬物が投与部位から吸収されて全身循環血に移行する過程で起こる代謝や分解のことを指します。経口投与された薬物は小腸から吸収された後、門脈を通って肝臓に到達し、その過程で代謝酵素によって構造が変化します。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00387.html

小腸上皮細胞には、チトクロームP450(CYP)3A4/5、グルクロン酸抱合酵素、硫酸抱合酵素などの代謝酵素が豊富に発現しており、これらの基質となる薬物は小腸での初回通過効果を受けます。さらに、小腸上皮細胞の管腔側にはP糖タンパク質(P-gp)などのABCトランスポーターが発現しており、吸収された薬物を管腔側に再排出する働きを持ちます。このトランスポーターと代謝酵素の協奏効果により、初回通過効果がさらに増強されることが知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/44/3/44_268/_pdf/-char/ja

日本臨床薬理学会の薬物動態学に関する資料では、初回通過効果が大きい薬物ほど消失率が高く、バイオアベイラビリティが低くなることが詳細に解説されています。​
肝臓での初回通過効果も同様に重要であり、肝臓には多くの薬物代謝酵素が存在するため、薬物によっては大半が代謝されてしまいます。CYP3A4は現在臨床で使用されている医薬品の50%以上の代謝に関与しており、小腸と肝臓の両方に豊富に発現しているため、経口投与した薬物の初回通過代謝に極めて重要な役割を果たしています。
参考)https://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/byoyaku/Research/Transporter.html

バイオアベイラビリティの計算方法とAUC評価

バイオアベイラビリティの定量的評価には、血中濃度-時間曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)を用いた計算が標準的に行われます。絶対的バイオアベイラビリティ(F)は、静脈内投与時と経口投与時のAUCを比較することで算出されます。
参考)薬物動態 経口投与と静脈内投与の違い、バイオアベイラビリティ…

計算式は次のように表されます。F=(AUC経口投与×投与量静脈内)÷(AUC静脈内×投与量経口)×100(%)となります。静脈内投与では投与した薬物がすべて血液中に入るため、このときのAUCを100%の基準とし、経口投与時のAUCと比較することで、実際に全身循環に到達した薬物の割合を算出できます。
参考)薬物の体内動態:分布容積・バイオアベイラビリティ

投与量が異なる場合には、上記の式のように投与量の補正を行う必要があります。例えば、静脈内投与100mgでAUCが200mg・h/L、経口投与200mgでAUCが144mg・h/Lの場合、F=(144×100)÷(200×200)×100=36%となります。​
AUCのほかに最高血中濃度(Cmax)や血中濃度半減期(T1/2)などのパラメータも、薬物動態の評価において重要な指標となります。特にCmaxは薬効発現や副作用リスクの評価に直結するため、バイオアベイラビリティとともに総合的に判断する必要があります。
参考)バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線下面積…

バイオアベイラビリティが高い薬物と低い薬物の臨床例

医療従事者にとって、各薬物のバイオアベイラビリティを理解することは適切な薬物選択と投与設計において極めて重要です。バイオアベイラビリティが90%以上で経口投与時の効果が静脈内投与とほぼ同等とみなせる薬物には、以下のようなものがあります。

 

抗菌薬では、アモキシシリン(90%)、セファレキシン(99%)、レボフロキサシン(99%)、モキシフロキサシン(90%)、ミノサイクリン(95%)、ドキシサイクリン(93%)、ST合剤(98%)、クリンダマイシン(90%)などが高いバイオアベイラビリティを示します。これらの薬物は外来治療において静注薬に近い効果が期待できるため、第一選択として推奨されています。
参考)感染症の治療 プライマリ・ケアのための感染症情報サイト

一方、バイオアベイラビリティが著しく低い薬物として、ニトログリセリン、プロプラノロール、リドカイン、ペンタゾシンなどが知られています。ニトログリセリンは経口投与時に肝臓での初回通過代謝により大部分が分解されるため、生体利用率が極めて低く、経口では効果を発揮しにくいことが知られています。そのため舌下投与や経皮投与など、肝初回通過効果を回避できる投与経路が選択されます。
参考)発初心者のためのバイオアベイラビリティ(生体利用率)入門─ …

日本プライマリ・ケア連合学会の感染症治療に関する資料では、第3世代セフェムのバイオアベイラビリティが20%前後、マクロライドが30~50%程度と低いことが指摘されており、抗菌薬適正使用の観点から使用の見直しが提案されています。​
ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症治療薬)も生物学的利用率が非常に低く、フォサマック錠(アレンドロン酸)では約2.5~2.8%しか吸収されません。このため服用方法に細かい注意が必要であり、添付文書で詳細な指示が記載されています。​

バイオアベイラビリティと初回通過効果を回避する投与経路

初回通過効果が大きくバイオアベイラビリティが著しく低い薬物では、肝初回通過効果を受けない投与経路を選択することで薬効を確保できます。消化管を通過しない投与経路として、経皮投与、舌下投与、鼻腔内投与、直腸下部からの投与(坐剤)などがあり、これらは肝臓の代謝による初回通過効果の影響を受けません。
参考)経皮吸収型製剤使用マニュアル 1.薬物吸収について

経皮吸収型製剤は皮膚から直接血液中に吸収されるため、経口摂取時に消化管から吸収後に肝臓を通過する際に受ける初回通過効果を回避できます。ニトログリセリンは舌下錠や貼付剤として投与されることで、肝初回通過効果を避けて有効血中濃度を維持できます。
参考)初回通過効果 − 歯科辞書|OralStudio オーラルス…

直腸内投与では、直腸内粘膜から吸収された薬物は下大静脈を経て直接全身循環に入るため、初回通過効果を受けません。ただし、直腸上部で吸収された場合は門脈経路を経て肝臓に到達するため、挿入部位によって効果が異なる可能性があります。
参考)初回通過効果 - Wikipedia

また、最近では薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)技術の発展により、難水溶性薬物の溶解性改善やイオン液体を用いた製剤化など、バイオアベイラビリティを向上させる様々なアプローチが研究されています。これらの技術は薬物の吸収性を高め、初回通過効果の影響を軽減することで、経口投与時の生体利用率を改善する可能性を持っています。
参考)イオン液体を利用した薬物送達システム

バイオアベイラビリティと初回通過効果に影響を与える患者背景要因

バイオアベイラビリティは患者の年齢、肝機能、腎機能などの生理学的要因によって変化します。高齢者では肝血流量の減少や代謝酵素活性の低下により、初回通過効果が減弱し、結果としてバイオアベイラビリティが上昇する傾向があります。​
アムロジピンでは、高齢高血圧患者の最高血中濃度(Cmax)とAUCが若年健常者の約2倍になることが報告されており、高齢者では血圧降下作用が強く出やすく、めまいやふらつきなどの副作用に注意が必要です。同様にメトホルミンも健康高齢者では健康非高齢者よりもCmaxとAUCが高くなることが知られています。​
肝疾患患者では肝臓の代謝能力が低下するため、初回通過効果が大きい薬物を服用すると血中濃度が予想以上に高くなり、副作用のリスクが増大します。そのため肝機能障害を有する患者では、投与量の調整や薬物選択の変更が必要となる場合があります。​
薬物相互作用も初回通過効果とバイオアベイラビリティに大きな影響を与えます。CYP3A4を阻害する薬物を併用すると、小腸や肝臓での初回通過代謝が抑制され、被験薬のバイオアベイラビリティが増大して予期しない有害事象につながる可能性があります。逆にCYP3A4を誘導する薬物を併用すると、初回通過代謝が促進されて血中濃度が低下し、期待する治療効果が得られなくなることがあります。
参考)301 Moved Permanently

京都大学薬学部の薬物代謝とトランスポーターに関する研究では、P糖タンパク質とCYP3A4の協奏効果について詳細に解説されており、両者が同じ基質を認識することで初回通過効果が相乗的に増強されることが示されています。​
食事の影響も無視できません。特に脂溶性の高い薬物では、食後投与により胆汁分泌が促進されて吸収率が向上し、バイオアベイラビリティが変化することがあります。このため添付文書では食前・食後の服用タイミングが指定されている薬物も多く存在します。​

バイオアベイラビリティ向上の臨床応用戦略

薬物開発の段階から初回通過効果を考慮した設計が行われており、プロドラッグ化や製剤工夫によってバイオアベイラビリティを改善する試みが続けられています。プロドラッグとは、体内で代謝されて初めて活性型となる薬物であり、吸収性や安定性を高めることができます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11510342/

例えば、カンデサルタンシレキセチルはBCS(生物薬剤学的分類システム)クラスIIのプロドラッグであり、水溶性の低さとP糖タンパク質による排出、肝初回通過代謝により生物学的利用率が制限されています。このような薬物では、生物学的同等性評価において生理学的薬物速度論(PBPK)モデリングを用いた予測が活用されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12030460/

小腸における薬物代謝酵素の発現量は部位によって異なり、十二指腸から回腸にかけて徐々に減少し、結腸では急激に低下することが報告されています。このため放出制御型製剤により薬物の吸収部位を調整することで、初回通過効果を軽減できる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1379081/

ナノテクノロジーを応用した薬物送達システムでは、薬物をナノ粒子に封入することで吸収性を向上させ、初回通過代謝を受けにくくする技術が開発されています。また、3Dプリンティング技術を用いた個別化製剤や刺激応答性薬物放出システムなど、新しいアプローチも研究されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9495787/

医療現場では、バイオアベイラビリティの高い薬物を優先的に選択することで、治療失敗のリスクを低減できます。特に外来治療では入院治療と異なり悪化時の迅速な対応が困難なため、バイオアベイラビリティが60%未満の薬物による治療失敗を避けることが重要です。​
TDM(治療薬物モニタリング)により個々の患者における血中濃度を測定し、バイオアベイラビリティの個人差を把握することも、適切な薬物療法の実現に貢献します。特に治療域が狭い薬物や、肝機能・腎機能障害のある患者では、TDMに基づいた用量調整が推奨されます。

 

参考文献。
日本薬学会 バイオアベイラビリティ用語解説では、初回通過効果によりバイオアベイラビリティが影響を受けるメカニズムが詳細に説明されています。​
経口投与と静脈内投与の違い、バイオアベイラビリティに関する解説記事では、AUCを用いた計算方法が図解入りでわかりやすく紹介されています。​

 

 


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