アルコール離脱せん妄ガイドラインに基づく診断と治療

アルコール離脱せん妄はガイドライン通りに治療すれば安全、と思っていませんか?無治療では15〜20%が振戦せん妄へ移行し、死亡率は5%以上。現場で役立つCIWA-Arの使い方から薬剤選択まで、最新知見を解説します。

アルコール離脱せん妄のガイドラインによる診断と治療の実際

🔑 この記事の3つのポイント
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無治療だと15〜20%が振戦せん妄に移行

アルコール離脱症候群(AWS)を放置すると、約5人に1人が生命に関わる振戦せん妄へ進行します。早期診断と介入が死亡率を37%下げます。

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第一選択薬はベンゾジアゼピン系薬(BZD)

CIWA-Arスコア10点以上で薬物療法を開始。肝機能や年齢に応じてジアゼパム or ロラゼパムを選択し、原則7日以内に漸減中止。

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CIWA-Ar 16点以上は精神科へコンサルト

重症例はICU管理が必須。チアミン投与はブドウ糖輸液より先に行い、ウェルニッケ脳症を予防することが最優先です。


アルコール離脱せん妄の診断基準とDSM-5の要点



アルコール離脱症候群(AWS)の診断は、DSM-5の基準に従って行います。 核心となるのは「大量かつ長期間の飲酒中止(または減量)」と、その後数時間〜数日以内に出現する2つ以上の症状群です。


関連)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tsukuba-150702.pdf


具体的には以下の症状が診断項目となります。


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  • 自律神経過活動(発汗、脈拍>100回/分)
  • 手指振戦の増加
  • 不眠・嘔気・嘔吐
  • 一過性の視覚性・触覚性・聴覚性の幻覚または錯覚
  • 精神運動興奮・不安
  • 全般性強直間代発作(けいれん)


診断のポイントは飲酒歴の聴取です。 患者本人の自己申告は過少評価される傾向があるため、家族や同居者からも聴取し、「実際の申告量×2倍」で換算するのが現場の経験則として知られています。さらに「最終飲酒からの時間経過」を確認することで、症状の進行を時系列で予測できます。これが基本です。


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多量飲酒の定義についても押さえておきましょう。 純アルコール量で1日平均60g超(ビール中瓶3本、日本酒3合弱、25度焼酎300mlに相当)が目安であり、この基準を超える飲酒歴がある患者は離脱リスクを常に念頭に置く必要があります。


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なお、AWSと鑑別が必要な疾患は多岐にわたります。 甲状腺中毒症・低血糖・電解質異常(低K血症、低Mg血症)などの代謝異常、中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎)、急性膵炎、他の鎮静薬や睡眠薬からの離脱なども除外する必要があります。入院後に初めてAWSが顕在化するケースは整形外科病棟や消化器外科病棟でも起こりえます。意外ですね。


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アルコール離脱せん妄の時系列:最終飲酒からの症状変化

アルコール離脱症状の出現時間帯には一定のパターンがあります。 この時系列を知っているだけで、見落としリスクが大きく変わります。


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最終飲酒からの時間 主な症状 ピーク
6〜24時間 不安・頭痛・発汗・動悸・消化器症状(小離脱) 10〜30時間後
12〜48時間 アルコール関連けいれん(全般性強直間代発作) 12〜48時間
48〜96時間 振戦せん妄(失見当識・幻覚・高体温・血圧上昇) 48〜72時間後


振戦せん妄は断酒後3〜4日目に最も出現しやすいのです。 入院2日目夜間〜3日目にかけて突然興奮状態になった患者を「問題行動」として捉えるのではなく、AWSを鑑別に挙げることが重要です。


関連)https://med.myclimatejapan.com/arukoruridatsusryouyakubutsuryouhou.html


アルコール関連けいれんは断酒後6〜48時間以内に最も多く発症し、AWS全体の約8%に認められます。 単発の短時間けいれんが多いですが、外傷・誤嚥のリスクがあるため、予防的BZD投与の適応になります。


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振戦せん妄のリスクファクターも覚えておきましょう。 高体温(39.9℃超)、頻脈、脱水、合併症(肺炎・膵炎)、低K血症・低Ca血症・低Mg血症、多量飲酒(1日15単位超=ビール500ml換算で15本相当)、過去のAWS既往などが挙げられます。これらを複数持つ患者は特に厳重な監視が必要です。


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アルコール離脱せん妄の重症度評価:CIWA-Arの使い方

CIWA-Ar(Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol, revised)は、アルコール離脱症状の重症度を客観的に評価する10項目のスケールです。 合計67点満点で、治療方針を決めるうえで欠かせないツールです。


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評価項目と重症度分類は以下のとおりです。


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  • 嘔吐・振戦・発汗・不安・興奮・頭痛・見当識障害・聴覚障害・視覚障害・触覚障害の10項目
  • スコア9点以下:軽度 → 支持療法・モニタリング
  • スコア10〜15点:中等度 → 薬物療法(BZD投与)
  • スコア16点以上:重度 → 精神科へコンサルテーション必須


ここに大きな落とし穴があります。 CIWA-Arは「意識のある患者」を前提とした評価ツールであり、意識障害がすでに進んでいる患者では正確な評価ができません。また、けいれん自体の評価項目が含まれていないため、CIWA-Arのスコアだけに頼った治療判断は危険です。


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一方、CIWA-Arには明確なメリットもあります。 ランダム化比較試験では、CIWA-Arを用いた重症度別治療によってBZDの総投与量が減少し、投与期間が短縮されたと報告されています。スコアに基づく「症状誘導型投与(symptom-triggered approach)」は、固定スケジュール投与と同等の効果を維持しつつ、過剰投与を防げる手法として注目されています。これは使えそうです。


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CIWA-Arスコアの詳細と投与プロトコール解説(筑波大学附属病院 総合診療グループ資料)


アルコール離脱せん妄の薬物療法:ガイドラインに基づく薬剤選択

主な選択薬の特徴を整理します。


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薬剤 半減期 特徴 推奨場面
ジアゼパム(ホリゾン®) 約20〜100時間 静注可能、作用発現が速い 精神運動興奮の治療、けいれん予防
クロルジアゼポキシド(バランス®) 長時間 イギリスのガイドラインで推奨、内服のみ 軽〜中等症の外来・入院治療
ロラゼパム(ワイパックス®) 約12〜20時間 肝代謝なし、肝障害合併例に推奨 肝硬変・肝機能低下例、高齢者


投与スケジュールの例(CIWA-Ar 10〜15点の場合) :


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  • 1日目:クロルジアゼポキシド 20mg × 4回
  • 2日目:15mg × 4回
  • 3日目:10mg × 4回
  • 4〜5日目:5mg に漸減して終了


補助療法として使われる抗精神病薬ハロペリドールリスペリドンなど)は、幻覚・妄想への対処に有効ですが、痙攣閾値を下げる・錐体外路症状を起こすリスクがあります。 あくまでBZDの補助であり、単独での使用はガイドラインで推奨されていません。β遮断薬カルバマゼピンも同様に、振戦せん妄やけいれんの予防効果は限定的です。


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厚生労働省研究班によるアルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン(PDF)


ウェルニッケ脳症の予防:チアミン投与はブドウ糖より先に行う

アルコール離脱治療の現場で、看過されやすい重要ポイントがチアミン(ビタミンB1)の投与タイミングです。 慢性大量飲酒者はチアミン欠乏に陥りやすく、そこにブドウ糖輸液を先行させるとブドウ糖代謝にチアミンが消費され、相対的欠乏がさらに悪化します。


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ウェルニッケ脳症の三主徴は次のとおりです。


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  • 眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)
  • 失調歩行
  • 意識障害(錯乱・傾眠


チアミン投与はブドウ糖輸液より先が原則です。 治療が遅れると不可逆的な記憶障害(コルサコフ症候群)へと進行するリスクがあります。ASAMガイドライン2020では100mg/日を3〜5日間が基準とされていますが、日本の施設によっては500mgを1日1〜2回、3日間投与するプロトコールが採用されているところもあります。


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また、電解質異常も離脱症状を悪化させる因子として見逃せません。 低マグネシウム血症低カリウム血症低リン血症は定期的な血液検査で確認し、異常があれば速やかに補正します。電解質補正が基本です。


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さらに、慢性アルコール多飲者ではアルコール代謝にナイアシン(ビタミンB3)が大量に消費されるため、ナイアシン欠乏症(ペラグラ)のリスクも存在します。 ビタメジン(ビタミンB1)の補充に加え、ナイクリンニコチン酸アミドの投与を検討することも現場では重要な視点です。


関連)https://sk-kumamoto.jp/assets/pdf/medical_quality/team_medicine/delta/detail/no_2_1_alchol.pdf


アルコール離脱せん妄における独自視点:「他科入院中の見落とし」リスクと多職種連携

アルコール離脱せん妄の特殊な難しさは、精神科以外の診療科(整形外科・外科・内科など)で入院中に発症するケースが多いことです。 骨折で入院した患者が翌日・翌々日に突然興奮状態となるケースは珍しくありません。


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米国のデータでは、DSM-Ⅳ診断基準を満たして入院加療を行った「アルコール離脱症候群」はAWS全体の10〜20%にすぎず、大部分が診断・治療介入を受けていなかったと推測されています。 つまり、現場での見落とし率は80〜90%に達する可能性があります。厳しいところですね。


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この見落としを防ぐために有効なのが入院時スクリーニングです。 AUDITやCAGEを用いたアルコール問題のスクリーニングを入院時に実施する体制づくりが、他科の医師・看護師にも求められます。


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多職種連携も欠かせません。 急性期の薬物管理だけでなく、退院後の再飲酒防止・社会復帰支援のために、医師・看護師・薬剤師・栄養士・精神保健福祉士・ソーシャルワーカーが一体となって動くことが患者の長期予後を改善します。


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具体的には以下の役割分担が現場で機能します。


  • 🩺 医師:CIWA-Arによる重症度評価、薬剤選択と漸減スケジュール立案
  • 👩‍⚕️ 看護師:継続的なバイタル・精神状態モニタリング、安全な療養環境の整備
  • 💊 薬剤師:BZD投与量管理、相互作用・副作用のチェック
  • 🥗 栄養士:チアミン・ナイアシン欠乏に対する栄養プランの立案
  • 🤝 PSW/SW:家族支援・退院後の専門治療機関への連携


新ガイドラインでは「完全断酒」に加え「飲酒量低減」も治療目標として認められています。 男性で1日平均40g以下、女性で20g以下を目標とする飲酒量低減療法は、断酒への動機づけが不十分な患者の治療離脱を防ぐ有効な手段です。重症例であっても断酒に同意しない場合は、暫定目標として飲酒量低減を設定することが推奨されています。


関連)https://med.myclimatejapan.com/arukoruridatsusryouyakubutsuryouhou.html


アルコール離脱せん妄は、適切な介入さえ行えば死亡率を37%下げられることがデータで示されています。 飲酒歴の聴取、CIWA-Arによる評価、BZDの適切な使用、チアミンの早期投与、多職種連携——この流れを押さえておくことが、医療従事者として最も患者を守れる実践です。


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