トラメチニブ単剤でも使える症例があります

国内で保険承認されているMEK阻害薬は、トラメチニブ(商品名:メキニスト®)、ビニメチニブ(商品名:メクトビ®)、セルメチニブ(商品名:コセルゴ®)の3種類です。
関連)https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG03137
トラメチニブは最も広い適応を持つMEK阻害薬で、BRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫、非小細胞肺癌、進行・再発固形腫瘍に使用されます。薬価はメキニスト錠0.5mgが8,517.6円/錠、2mg錠が31,970.7円/錠です。小児用ドライシロップ製剤も用意されており、薬価は99,852円/瓶となっています。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mekinist
ビニメチニブはBRAF阻害薬エンコラフェニブとの併用で大腸癌に適応を持ち、メクトビ錠15mgの薬価は4,926.4円/錠です。セルメチニブは神経線維腫症1型(NF1)に伴う叢状神経線維腫や動静脈奇形への適応が研究されています。
関連)https://ubie.app/byoki_qa/feature-questions/vzxb5umvp7qr
これら3剤はいずれもMEK1/MEK2を選択的に阻害する分子標的薬ですが、併用するBRAF阻害薬や適応疾患が異なるため、患者の遺伝子変異パターンと疾患に応じた選択が求められます。
MEK阻害薬の保険適用はBRAF遺伝子変異の有無が重要な判断基準となります。
BRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫では、ダブラフェニブ(BRAF阻害薬)+トラメチニブ(MEK阻害薬)、またはベムラフェニブ+コビメチニブの併用療法が保険適用されています。日本人悪性黒色腫患者のBRAF遺伝子変異陽性率は約27%とされ、遺伝子検査が治療選択の前提です。
関連)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001638079.pdf
BRAF V600変異陽性の非小細胞肺癌に対しても、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が承認・保険適用済みです。切除不能な進行・再発例が対象となります。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mekinist
治療開始には遺伝子検査によるBRAF変異確認が必須で、検査費用も保険適用内です。がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで投与判断がなされます。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
BRAF阻害薬単独投与では「パラドキシカルERK活性化」という現象が起こります。
BRAF阻害薬を単独投与すると、阻害されたBRAFの下流でMEK-ERK経路が逆に活性化してしまい、治療効果が限定的になる問題が判明しました。この逆説的活性化により、皮膚扁平上皮癌などの二次発癌リスクも増加します。
関連)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=44223
MAPK経路の再活性化や耐性獲得メカニズムが複数存在することから、複数ポイントの同時阻害が理論的に有効であるという分子生物学的根拠があります。これがBRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用が標準治療となった背景です。
ダブラフェニブ+トラメチニブ、ベムラフェニブ+コビメチニブ、エンコラフェニブ+ビニメチニブという組み合わせが臨床で使われています。
トラメチニブとダブラフェニブ併用時の副作用発現頻度は86~100%に達します。
関連)https://jaspo-oncology.org/file/620
最も頻度が高い副作用は発熱で、併用療法では47~67%の患者に認められます。次いで悪寒が27~28%、悪心が23%程度です。皮膚症状も多く、発疹は単独投与時で56%、併用時でもかなりの頻度で出現します。
関連)https://jaspo-oncology.org/file/620
消化器症状では下痢が33%に認められ、嘔吐、便秘、腹痛も報告されています。疲労感や末梢性浮腫といった全身症状も比較的多く見られる副作用です。
関連)https://jaspo-oncology.org/file/620
重大な副作用として、心機能障害、眼障害、肝機能障害、横紋筋融解症、高血圧クリーゼ、出血などがあります。ビニメチニブでは眼障害と心機能障害が特に注意すべき有害事象とされています。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
副作用の多くは投与開始後早期に出現するため、導入期の綿密なモニタリングが重要です。これは使えそうです。
BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用はBRAF単独より心血管有害事象リスクが高まります。
システマティックレビューとメタ解析の結果、併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較して肺塞栓症のリスクが4.36倍(95%信頼区間:1.23~15.44)に増加することが明らかになりました。はがき約3枚分の確率幅ですが、統計的に有意な差です。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48588
心血管系の有害事象全般において、併用療法群でリスク上昇が認められており、心疾患の既往がある患者では特に慎重な判断が求められます。治療の有益性と心血管疾患発症・死亡リスクとのバランスを個別に評価する必要があります。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48588
投与前の心血管系評価、投与中の定期的な心電図・心エコー検査、血圧モニタリングが推奨されます。高血圧や高血圧クリーゼも重大な副作用として添付文書に記載されており、血圧管理が治療継続の鍵となります。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
緊急時に対応できる医療施設での投与が添付文書で義務付けられているのは、こうした心血管リスクへの対応も含まれます。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
トラメチニブとダブラフェニブ併用療法の奏効率は83%(5/6例)に達した試験結果があります。
関連)https://jaspo-oncology.org/file/620
臨床試験MEK115306の第2相パートでは、副作用発現頻度が100%(12/12例)だった一方で、高い治療効果が確認されました。別の試験では副作用発現頻度91%(320/350例)で、主な副作用は発熱47%、悪寒28%、悪心23%でした。
関連)https://jaspo-oncology.org/file/620
無増悪生存期間(PFS)の延長効果も示されており、ある臨床試験では併用療法群で18.7ヶ月を記録し、ハザード比0.71(95%信頼区間:0.55-0.92)という有意な改善が得られています。つまり、併用により病勢進行リスクが約3割減少したということですね。
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BRAF阻害薬単独と比較して、併用療法は奏効率、奏効期間(DoR)、全生存期間(OS)すべての指標で優れた成績を示す傾向があります。ただし副作用マネジメントが治療継続の前提となるため、支持療法の適切な実施が不可欠です。
関連)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=44223
治療効果は高いが副作用も高頻度という特徴を理解し、患者教育と早期対応体制の構築が求められます。
投与前にBRAF阻害剤またはMEK阻害剤の治療歴を必ず確認してください。
治療歴のある患者は禁忌または慎重投与対象となる場合があり、添付文書で明記されています。活性化RAS変異が確認された悪性腫瘍の既往がある患者も投与対象外です。RAS変異陽性例ではMAPK経路の下流活性化により効果が期待できないためです。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
症候性の脳転移を有する患者(神経膠腫を除く)も投与適応の判断が慎重になります。脳血管障害のリスクや全身状態を総合的に評価する必要があります。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
心血管系の既往歴も重要なチェック項目で、心筋梗塞、不整脈、心不全の既往がある場合は投与リスクとベネフィットを慎重に比較します。併用療法による肺塞栓症リスク上昇を考慮し、血栓症リスク因子の有無も確認が必要です。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48588
妊娠可能性のある女性では避妊指導が必須で、催奇形性リスクについて十分な説明と同意取得が求められます。患者選択の適切性が治療成功の第一歩です。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
眼科検査、心機能評価、肝機能検査を定期的に実施する必要があります。
MEK阻害薬では眼障害が重大な副作用として知られており、網膜剥離や網膜静脈閉塞が報告されています。投与前と投与中は定期的な眼科受診により、視力変化や視野異常の早期発見に努めます。異常を感じたら直ちに眼科受診を促すことが大切です。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
心機能モニタリングでは、心電図、心エコー検査、BNPなどのバイオマーカー測定を定期的に行います。特に併用療法では心血管有害事象リスクが高いため、投与開始前にベースライン評価を取得し、投与中も継続的に追跡します。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48588
肝機能検査(AST、ALT、ALP、ビリルビン)も必須モニタリング項目で、肝機能障害は比較的高頻度に認められます。AST増加は副作用として66.7%の報告もあり、Grade 3以上の上昇では減量や休薬が必要です。
関連)https://www.hiroshima-u.ac.jp/hosp/sinryoka/chuoshinryo/melanoma
血中CK(クレアチンキナーゼ)の上昇も報告されており、横紋筋融解症のリスクがあるため定期測定が推奨されます。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
トラメチニブは通常成人に1日1回2mgを空腹時経口投与します。
関連)https://www.novartis.com/jp-ja/sites/novartis_jp/files/pr20231124.pdf
ダブラフェニブとの併用では、ダブラフェニブ150mgを1日2回、トラメチニブ2mgを1日1回投与するのが標準です。いずれも空腹時投与が原則で、食事の影響を避けるため食前1時間または食後2時間以上の間隔を空けます。
関連)https://www.novartis.com/jp-ja/sites/novartis_jp/files/pr20231124.pdf
術後補助療法の場合、投与期間は12ヶ月間までと制限されています。進行・再発例では病勢進行または忍容できない毒性が出現するまで継続投与します。
関連)https://www.novartis.com/jp-ja/sites/novartis_jp/files/pr20231124.pdf
副作用が出現した場合は、患者の状態に応じて適宜減量します。減量ステップは添付文書に段階的に規定されており、Grade 3以上の副作用では休薬または減量が必要です。回復後に1段階減量して再開するのが原則です。
関連)https://www.novartis.com/jp-ja/sites/novartis_jp/files/pr20231124.pdf
小児には体表面積に基づいた用量調整が行われ、小児用ドライシロップ製剤が使用可能です。用量調整だけ覚えておけばOKです。
関連)https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG03137
治療開始前に有効性と危険性を患者または家族に十分説明し、文書同意を得る必要があります。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
説明すべき内容には、期待される治療効果(奏効率、生存期間延長効果)、高頻度で起こりうる副作用(発熱、発疹、下痢、疲労感など)、重大な副作用(心機能障害、眼障害、肝機能障害など)が含まれます。副作用発現頻度が80%以上と高いことを伝え、支持療法の重要性も説明します。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
治療費用についても事前情報提供が望ましく、トラメチニブ2mg錠の薬価が1錠約32,000円であることから、1ヶ月の薬剤費が高額になることを伝えます。高額療養費制度の利用を案内し、医療ソーシャルワーカーとの面談を調整するのも有用です。
関連)https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG03137
妊娠可能性のある女性には催奇形性リスクを説明し、治療中および治療終了後一定期間の避妊を指導します。男性患者にも精子形成への影響可能性を伝え、パートナーの妊娠計画がある場合は治療開始前に相談するよう促します。
関連)https://jsn-o.com/PDF1/20231211.pdf
インフォームドコンセントは医療従事者の法的・倫理的義務であるだけでなく、患者の治療アドヒアランス向上にもつながります。厳しいところですね。
外来化学療法で投与される場合、薬剤師による服薬指導と看護師による副作用モニタリングが重要です。
トラメチニブやビニメチニブは経口薬のため、患者が自宅で服用します。このため、正しい服用タイミング(空腹時)、飲み忘れ時の対応、保管方法について薬剤師が詳しく指導する必要があります。飲み忘れに気づいた時点で12時間以上経過していたら次回分から再開するなど、具体的な行動指針を示します。
関連)https://oogaki.or.jp/hifuka/medicines/trametinib-dimethyl-sulfoxide/
外来受診時には看護師が副作用チェックリストを用いて系統的に聴取し、発熱、発疹、下痢、視力変化、息切れなどの症状を早期に拾い上げます。患者自身が記録する副作用日誌の活用も有効で、症状の経時変化を把握しやすくなります。
関連)https://oncolo.jp/drugs/mektovi
緊急時の連絡体制を明確にし、高熱(38.5℃以上)、呼吸困難、胸痛、視力低下などの症状が出たら直ちに連絡するよう指導します。休日・夜間の対応窓口も事前に案内しておく必要があります。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/48588
多職種チームでの情報共有も不可欠で、医師・薬剤師・看護師が定期的にカンファレンスを行い、患者の状態や治療継続可否を検討します。これは使えそうです。
MEK阻害薬は動静脈奇形などBRAF変異以外の疾患への応用研究が進んでいます。
セルメチニブやトラメチニブが動静脈奇形に対して非常に高い効果を示しており、今後の開発が期待されています。動静脈奇形はMAPK経路の異常活性化が関与する疾患で、MEK阻害により病変進行を抑制できる可能性があります。
関連)https://cure-vas.jp/glossary/%E5%8B%95%E9%9D%99%E8%84%88%E5%A5%87%E5%BD%A2/p5839/
同種造血幹細胞移植における移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療にもMEK阻害薬の応用が研究されています。セルメチニブやトラメチニブがT細胞の選択的抑制を介してGVHDを軽減できることが、ヒト細胞とマウスモデルで示されました。複数のMEK阻害薬が既に保険収載され安全性が確立されているため、適応拡大の可能性があります。
関連)https://iact.kuhp.kyoto-u.ac.jp/bridging/seeds-list/file/B39j_kyotouniv2020.pdf
婦人科がんに対するMEK阻害薬の臨床試験も進行中で、PD-0325901、セルメチニブ、コビメチニブ、レフメチニブ、トラメチニブ、ピマセルチブ、MEK162、WX-554などが臨床環境で評価されています。MAPK/MEK/ERK経路は婦人科がんの病因にも関与しており、新たな治療選択肢となる可能性があります。
関連)https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/32329688?click_by=rel_new_abst_translated
KRAS変異やMAP2K1変異を持つがんに対してもMEK阻害薬が有効である可能性が示唆されており、BRAF変異以外への適応拡大が期待されます。意外ですね。
関連)https://cure-vas.jp/glossary/%E3%82%B7%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%82%B9%E4%BB%A5%E5%A4%96%E3%81%AE%E5%88%86%E5%AD%90%E6%A8%99%E7%9A%84%E8%96%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/p6057/
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