非小細胞肺癌ガイドライン2025の主な変更点と薬物療法

肺癌診療ガイドライン2025年版では、EGFR変異陽性NSCLCの一次治療にラゼルチニブ+アミバンタマブが強く推奨されるなど大きな変更が加わりました。医療従事者として押さえておくべきポイントとは?

非小細胞肺癌ガイドライン2025の変更点と薬物療法の最新推奨

オシメルチニブ単剤で十分と思っているなら、あなたの患者が3年生存率で9%損をしているかもしれません。


🔑 この記事の3つのポイント
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EGFR変異陽性一次治療が大きく刷新

ラゼルチニブ+アミバンタマブ併用療法が「強く推奨(推奨度1)」として新設。MARIPOSA試験でオシメルチニブ単剤に対しOSを有意に延長(HR 0.75)したエビデンスが根拠。

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HER2変異・ROS1融合陽性にも新選択肢

HER2遺伝子変異陽性NSCLCに経口TKI「ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス)」が二次治療以降で強く推奨。ROS1融合遺伝子陽性にはタレトレクチニブも追加。

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CGP検査の位置付けが明確化

標準治療終了(見込み)の肺癌患者に対し、包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査が弱く推奨として新設。マルチ遺伝子検査の偽陰性リスクも明記された。


非小細胞肺癌ガイドライン2025が「ウェブ改訂」のみとなる理由と確認方法

肺癌診療ガイドラインは2011年以降、毎年ウェブ版として公開され、隔年で書籍版が発行される仕組みになっています。2025年版は「ウェブ改訂の年」にあたるため、日本肺癌学会の公式サイトで公開されているWeb版のみが最新の推奨を確認できる場所です。書籍版だけを参照していると、最新の変更点を見落とす可能性があります。


これは見落としやすい点ですね。


改訂の規模は毎年異なりますが、2025年版は薬物療法の領域で特に多くの変更が加えられた年として位置付けられています。治療の選択肢が増え、推奨度の変更も複数発生しています。日本肺癌学会の公式ページでは「2024年版からの主な変更点一覧(PDF)」が無料公開されており、変更箇所を効率よく把握するうえで非常に役立ちます。


ガイドラインはGRADE(Grades of Recommendation, Assessment, Development and Evaluation)システムに基づいて作成されており、推奨の強さは「強く推奨する(推奨度1)」と「弱く推奨する(推奨度2)」の2段階、エビデンスの強さはA・B・C・Dの4段階で評価されています。推奨文の末尾に記載されている〔推奨の強さ〕と〔エビデンスの強さ〕の両方を確認することが、臨床での判断に欠かせません。


なお、ガイドライン全文は会員以外でも閲覧可能です。業務の隙間に一章ずつ確認するだけでも、最新動向の把握に大きく役立ちます。


参考:日本肺癌学会公式ガイドライン(2025年版全文・変更点一覧)
肺癌診療ガイドライン2025年版(日本肺癌学会)


非小細胞肺癌のEGFR変異陽性一次治療:ラゼルチニブ+アミバンタマブが新標準に

2025年版での最大の変更点の一つが、EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失またはL858R変異)陽性、PS 0-1のⅣ期NSCLCにおける一次治療の大幅な刷新です。


これまでオシメルチニブ単剤療法は「強く推奨(推奨度1、エビデンスA)」として揺るぎない地位を占めていました。2025年版ではそのオシメルチニブ単剤の位置付けは維持されつつも、ラゼルチニブ+アミバンタマブ併用療法が「強く推奨(推奨度1、エビデンスB)」として新設されました。また、オシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド3剤併用療法も「弱く推奨」から「強く推奨」へ引き上げられています。つまり、強く推奨される一次治療の選択肢が一気に3つに増えた形です。


この変更の根拠となった試験がMARIPOSA試験です。未治療のEGFR変異(エクソン19欠失またはL858R置換)陽性の局所進行・転移性NSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群(Ami-Laz群)とオシメルチニブ単剤群(Osi群)を比較しました。2025年10月にNEJMで報告された最終OS解析では、追跡期間中央値37.8ヶ月において、Ami-Laz群がOsi群に対してOSを有意に延長(ハザード比0.75、95%CI:0.61〜0.92、P=0.005)することが示されました。3年OS率はAmi-Laz群60%対Osi群51%と、約9ポイントの差がついています。


ただし、Grade 3以上の有害事象の発生率はAmi-Laz群80%、Osi群52%と大きな差があります。とくに皮膚関連イベント、静脈血栓塞栓症(VTE)、注入関連反応の頻度が高く、マネジメントには専門的な知識と経験が求められます。OSの延長という明確なベネフィットと、管理が必要な重篤な有害事象のリスクを天秤にかけ、患者の全身状態や希望を踏まえて治療選択を行うことが原則です。


なお、2025年9月に国内承認が取得され、同年11月にはアミバンタマブ+ラゼルチニブの実臨床での使用が始まっています。有害事象管理に関する最新の情報は日本肺癌学会のウェブサイトで随時更新されています。


参考:MARIPOSA試験の最終OS解析(2025年10月 NEJM掲載)の解説
MARIPOSA試験 最終OS解析の詳細解説(亀田医療センター)


非小細胞肺癌のEGFR変異陽性二次治療:オシメルチニブ耐性後の新選択肢

一次治療でオシメルチニブを使用した後の耐性・増悪後の治療は、長らく明確なエビデンスが乏しい領域でした。2025年版ではこの領域にも大きな変化があります。


MARIPOSA-2試験では、オシメルチニブ単剤療法に耐性または増悪を認めたEGFR変異陽性・PS 0-1のⅣ期NSCLC患者を対象に、①カルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ群、②同上+ラゼルチニブ群、③カルボプラチン+ペメトレキセド群の3群を比較しました。アミバンタマブ追加群では主要評価項目のPFSがハザード比0.48(95%CI:0.36〜0.64、p<0.001)で有意に延長しました。これを受け、2025年版ではオシメルチニブ耐性または増悪後の二次治療としてカルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ療法が「弱く推奨(推奨度2、エビデンスB)」として新設されました。


オシメルチニブ耐性後には対応策があります。


一方、注意すべき点があります。このCQが対象とするのは「オシメルチニブを一次治療で使用した場合」です。一次治療でオシメルチニブ以外のEGFR-TKIを使用していた場合や、一次治療EGFR-TKI耐性後にT790M変異陽性の場合はこのCQの適用外となるため、状況を正確に確認することが条件です。


EGFR変異陽性NSCLCの治療においては、耐性機序の解析もますます重要になっています。耐性後に液体生検や再生検によるT790M変異・METアンプリ・その他の耐性機序の同定を行い、次治療の選択に活かすことが実臨床でも推奨されています。これは必須のアプローチです。


参考:MARIPOSA-2試験の解説(CareNet)
EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療選択肢(CareNet)


非小細胞肺癌のHER2・ROS1変異陽性治療:2025年版で初めて推奨に加わった新薬

2025年版のもう一つの注目改訂点が、これまで標的治療の選択肢が限られていたHER2遺伝子変異陽性NSCLCとROS1融合遺伝子陽性NSCLCへの新規推奨の追加です。


HER2遺伝子変異陽性NSCLCは肺腺癌全体の約2〜4%を占めるとされる希少サブタイプです。これまでは二次治療以降でトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)単剤療法が強く推奨されていましたが、2025年版ではゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス、120mg 1日1回経口投与)が二次治療以降において「強く推奨(推奨度1、エビデンスC)」として新設されました。ゾンゲルチニブは国内初の経口HER2チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であり、2025年9月に承認、同年11月12日に発売されています。薬価は1錠13,881.90円です。経口投与可能であることから、外来診療でのアクセスが高まる点が大きなメリットです。


ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対しては、従来の推奨薬(クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブ)に加えて、タレトレクチニブが新たに追加されました。TRUST-I試験・TRUST-II試験の統合解析に基づくもので、推奨文はROS1-TKI単剤療法(クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブ、タレトレクチニブのいずれか)を行うよう「強く推奨(推奨度1、エビデンスC)」と更新されています。なお、タレトレクチニブは2025年7月時点で国内未承認です。脳転移への効果が期待される薬剤として今後の承認動向を注視する必要があります。


これらのサブタイプは、診断時に遺伝子検査を実施しなければ見落とされる可能性があります。2025年版では「薬物療法を考慮する非小細胞肺癌の場合は、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2の遺伝子検査およびPD-L1 IHCを行うよう強く推奨する(推奨度1、エビデンスB)」と明記されており、一括した遺伝子プロファイリングが原則です。


参考:ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス)の承認・発売に関する公式情報
HER2変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブ発売の解説(CareNet)


非小細胞肺癌のCGP検査と周術期治療:2025年版の独自視点での整理

2025年版では、診断・治療の「入り口」と「出口」にあたる2つの領域にも見逃せない改訂が行われています。


包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査に関する新規CQの設置が一つ目です。従来、CGP検査(がん遺伝子パネル検査)は保険診療上「標準治療がない、または標準治療が終了(見込みを含む)」の固形癌が対象でした。2025年版では新設CQ28として「肺癌診療においてCGP検査は有用か?」が設けられ、「稀ながらマルチ遺伝子検査で偽陰性となる場合や、CGP検査でなければ検出できない検査項目もあるため、標準治療が終了となった肺癌患者(終了が見込まれる者を含む)に対してCGP検査を行うよう弱く推奨する(推奨度2、エビデンスC)」という推奨文が追加されました。


ここで注目すべきは「マルチ遺伝子検査の偽陰性リスク」への言及です。マルチ遺伝子パネル検査(NGSパネル)は高い感度を誇りますが、稀なバリアントやCGP検査固有の検出項目では偽陰性になるケースがあります。治療機会の損失を防ぐために、適切なタイミングでCGP検査を検討することが求められています。京都大学病院の研究では、CGP検査を標準治療前に実施した場合、治療後タイミングに比べ約3倍の患者に推奨治療を提供できたという報告もあります。これは使えそうです。


周術期治療の領域でも変更があります。切除可能な臨床病期II-IIIB期(第9版)のNSCLCに対する術前・術後治療推奨において、ペムブロリズマブを含む推奨文がPD-1/PD-L1阻害薬全体を指す表現に変更され、デュルバルマブ(AEGEAN試験)を含む選択肢が明示されました。推奨度はエビデンスAとなり、免疫チェックポイント阻害薬を組み込んだ周術期治療の位置付けがより強固になっています。


さらに、EGFR遺伝子変異陽性切除不能III期NSCLCに対して「同時化学放射線療法後にオシメルチニブを用いた維持療法を行うよう弱く推奨(推奨度2、エビデンスB)」という新規CQ42も設置されました。LAURA試験の結果に基づくもので、デュルバルマブ維持療法が標準的なパシフィックレジメンの時代において、EGFR変異陽性例への対応が整理された形です。


結論として、2025年版は薬物療法と分子診断の両方が同時に更新された、臨床インパクトの大きな改訂です。定期的なガイドライン確認が欠かせません。


参考:肺癌診療ガイドライン2025年版の改訂ポイントをまとめた論文(J-Stage掲載)