システマティックレビューとメタアナリシスの違い

システマティックレビューとメタアナリシスはエビデンスに基づく医療において重要な研究手法ですが、その定義や特徴にはどのような違いがあるのでしょうか?

システマティックレビューとメタアナリシスの違い

システマティックレビューとメタアナリシスの基本概念
📊
システマティックレビュー

明確な方法論に基づいて文献を体系的に収集・評価する研究手法

🔢
メタアナリシス

複数の研究結果を統計学的に統合する解析手法

⚖️
両者の関係性

メタアナリシスはシステマティックレビューの一部として位置づけられる

システマティックレビューの定義と特徴

システマティックレビューとは、明確に作られたクエスチョンに対し、系統的で明示的な方法を用いて適切な研究を同定、選択、評価を行なうことで作成するレビューです。従来のナラティブレビューが「偉い先生の御意見」として主観的であったのに対し、システマティックレビューは客観的な基準に基づいて実施されます。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/clinicaljournalclub8.html

 

📌 システマティックレビューの主な特徴

  • 事前に明確に定義された手法に従って文献収集を実施
  • 網羅的な情報収集を行う(Medline、Cochrane、EMBASE等を活用)
  • 批判的吟味という過程を重視
  • エビデンスに基づくことが必須
  • 定性的評価が中心となる場合もある

システマティックレビューでは、ランダム化比較試験(RCT)などの質の高い複数の臨床研究を、複数の専門家や研究者が一定の基準と一定の方法に基づいてとりまとめます。このプロセスにおいて重要なのは、「都合の悪い」エビデンスも含めて評価することで、バイアスの排除を図ることです。
参考)https://www.jspt.or.jp/ebpt_glossary/systematic-review.html

 

メタアナリシスの定義と統計手法

メタアナリシスとは、特定の臨床上の疑問に答えるために、収集した効果指標の値を統計学的に統合する解析手法です。過去に行われた複数の臨床試験の結果を統計学の手法を用いて統合し、全体としてどのような傾向が見られるかを解析する研究方法と定義されています。
🔬 メタアナリシスの統計的特徴

  • 効果量(リスク差、リスク比、オッズ比など)を抽出
  • サンプルサイズに合わせた重み付けを実施
  • Fixed effect modelまたはRandom effect modelを使用
  • 統計的な統合と信頼区間の計算を実施
  • 定量的統合が必須要件

従来のfixed effect modelが研究間の差に偶然誤差を仮定していたのに対し、近年では各研究間の異質性をモデル化したrandom effect modelやBayesian modelが中心となってきています。さらに、3種以上の薬剤を比較するネットワーク・メタアナリシスなどの新しい統計手法も登場し、医学分野で数多くの報告がなされています。
参考)https://www.showa-kokyuki.com/medical_treatment/75/

 

システマティックレビューとメタアナリシスの関係性

両者の関係を理解する上で重要なのは、「メタアナリシスはシステマティックレビューの一部分である」という点です。広義には、システマティックレビューもメタアナリシスと同義であるが、狭義には、システマティックレビューの一部、すなわち個々の論文の結果を統合するための統計的方法がメタアナリシスです。
参考)https://waidai-csc.jp/updata/2018/11/EZRmeta.pdf

 

📋 研究方法の比較表

項目 ナラティブレビュー システマティックレビュー メタアナリシス
主観性・客観性 主観的 客観的 客観的
文献検索方法 記載なし 系統的・明示的 系統的・明示的
評価方法 質的 質的または量的 量的(必須)
統計手法 なし あり・なし 必ずあり
再現性 低い 高い 高い

システマティックレビューの中には、メタアナリシスを含むものもあれば含まないものもあります。例えば、Brugada症候群患者に対するカテーテルアブレーションの研究では、数値の統計学的な統合は行われていないため、タイトルはシステマティックレビューのみとなっています。
参考)https://sunrise-lab.net/overseas-reports/h_kawakami/%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%B9/

 

システマティックレビューにおける質的評価の重要性

システマティックレビューにおいて特に重要なのは、定性的評価の段階です。研究や除外された研究の数、対象者の特性と人数、比較と介入の方法、バイアスリスクの評価などを記述し、深い理解を与えるために定性的にまとめることが求められます。
🔍 定性的評価の主要項目

  • 研究の適格性基準の設定
  • 研究の質の評価(バイアスリスク評価)
  • 異質性(heterogeneity)の検討
  • 統合可能性の判断
  • エビデンスの強さの判定

特に無作為化比較試験のメタアナリシスを行う場合、含まれた一次研究にバイアスがあるかどうかのリスク評価を行う必要があります。この評価により、定量的統合が適切かどうかを判断し、メタアナリシス実施の妥当性を検討します。
参考)https://www.jahbs.info/journal/pdf/vol38_1/vol38_1_5.pdf

 

システマティックレビューとメタアナリシスの歴史と発展

システマティックレビューとメタアナリシスの歴史は、1904年にPearsonが腸チフスに対するワクチンの既存データを再検討し、統合を試みたことに始まるとされています。しかし、臨床試験の評価にメタアナリシスが急速に広まる契機となったのは、1985年のYusufらによる心筋梗塞後のβブロッカーの長期投与に関するメタアナリシスです。
📈 発展の歴史的変遷

  • 1904年:Pearsonによる最初の統合解析の試み
  • 1985年:Yusufらのβブロッカー研究で臨床応用が拡大
  • 1990年代:コクラン共同計画の設立
  • 2000年代以降:より高度な統計手法の導入
  • 現在:ネットワーク・メタアナリシスなど新手法の発展

コクラン共同計画の設立により、システマティックレビューの標準化が進み、現在では質の高いエビデンス統合の代表的な手法として確立されています。また、PRISMA声明(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)により、報告の質の向上が図られています。
参考)http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/54/5/54_5_254/_article/-char/ja/

 

近年では、ベイズ統計学の枠組みの下でのBayesian modelが注目されており、事前信念(prior belief)を分析に組み込むことが可能になっています。これにより、より柔軟で包括的な統合解析が実現されています。
参考)https://jp.edanz.com/blog/bayesian-analysis

 

コクラン・ライブラリー:世界最大規模のシステマティックレビューデータベース