大腸癌のステージと症状

大腸癌は進行度によって異なる症状を呈し、早期発見が予後を大きく左右します。ステージごとの症状の特徴や転移の状態を理解することで、適切な治療選択が可能になりますが、早期大腸癌はほとんど無症状であることをご存知でしょうか?

大腸癌のステージと症状

大腸癌のステージ別特徴
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ステージ分類の基本

TNM分類に基づき、腫瘍の深達度・リンパ節転移・遠隔転移の3要素から病期を決定します

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早期の症状

ステージ0~Iでは無症状が多く、検診での偶然の発見が重要です

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進行期の症状

ステージII以降では血便・腹痛・便通異常などの症状が顕在化します

大腸癌のステージ0~I期の症状と深達度

 

ステージ0の大腸癌は粘膜内癌とも呼ばれ、がんが大腸の最も内側の粘膜層に限局している状態です。この段階では腫瘍は非常に小さく、自覚症状はほとんど現れません。内視鏡検査で偶然発見されることが多く、内視鏡的治療により完治が期待できます。
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ステージI期では、がんが粘膜下層まで浸潤しているものの、固有筋層には達していない状態です。TNM分類ではT1またはT2に相当し、リンパ節転移や遠隔転移は認められません。この段階でも自覚症状は乏しいことが多いですが、便の形状の変化(細くなる、硬くなるなど)、血便や粘液便、排便習慣の変化(便秘や下痢など)が現れることがあります。5年生存率は90%以上と非常に良好で、内視鏡的治療や外科的手術により治癒が期待できます。
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早期大腸癌の発見には便潜血検査が有効です。便中の微量な血液を検出することで、無症状の段階でがんを発見する契機となります。特に40歳以上を対象に、多くの自治体でがん検診として実施されており、陽性の場合には大腸内視鏡検査による精密検査が推奨されます。
参考)進行大腸がんとは

大腸癌のステージII~III期の臨床症状

ステージII期では、がんが固有筋層を超えて浸潤しているものの、リンパ節転移や遠隔転移はない状態です。TNM分類ではT3またはT4に相当し、がんが大腸壁の深部まで達しています。この段階では血便や粘液便、便の形状の変化、排便習慣の変化、腹痛や腹部不快感、貧血による倦怠感や息切れなどの症状が現れることが増えます。5年生存率は80~90%とされ、外科的手術により治癒が期待できます。
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ステージIII期では、がんが近傍のリンパ節に転移している状態です。リンパ節転移の程度によってN1(1~3個の転移)、N2(4個以上の転移)、N3(主リンパ節への転移)に分類されます。この段階では、ステージII期と同様の症状に加えて、体重減少や食欲不振、腸閉塞による強い腹痛・嘔吐・腹部膨満感などが現れることがあります。5年生存率は約76%とされ、外科的手術とリンパ節郭清、術後の補助化学療法を組み合わせた集学的治療により治癒が期待できます。
参考)Table: 大腸癌の病期分類*-MSDマニュアル プロフェ…

大腸がんの症状は発生部位によっても異なります。右側大腸(盲腸~横行結腸)では腸内容が液状のため症状が出にくく、貧血や軽度の腹痛で見つかることが多いです。一方、左側大腸(下行結腸~直腸)では便が固形になるため、がんの部分で便が通りにくくなり、便が細くなる・腹痛・嘔吐・血便などの症状が出やすい傾向があります。
参考)大腸がんの原因・症状・ステージ・治療を【専門医が徹底解説】 …

大腸癌のステージIV期における遠隔転移と症状

ステージIV期の大腸癌は、肝臓や肺など他の臓器に遠隔転移がある状態です。TNM分類ではM1(遠隔転移あり)に分類され、原発巣の深達度やリンパ節転移の有無にかかわらず最も進行した病期とされます。大腸癌の血行性転移は門脈を経由して肝臓に最も多く、次いで肺への転移が認められます。
参考)大腸がんのステージ分類と生存率

この段階では便秘や下痢が続く、便に血が混じる、腹部の不快感や腹痛などの局所症状に加えて、全身症状が顕著になります。腸閉塞を引き起こし、便秘や下痢が繰り返されることもあります。また、進行に伴い食欲不振や体重減少、倦怠感といった全身症状も現れ、転移先の臓器によっては特異的な症状も出現します。
参考)【定期的な大腸カメラ検査】大腸癌の手遅れの症状?|港南区の上…

ステージIV期の5年相対生存率は約16~19%とされています。しかし、発見・診断時には切除できないと判断されたがんに対しても、抗がん薬を用いた薬物療法を行うことで切除が可能になることがあります。薬物療法には化学療法・分子標的療法・免疫療法があり、外科的切除が難しいと判断された場合の全身治療や、外科手術ができるように病変を縮小させる術前補助療法、術後の転移リスクを下げるための術後補助療法として用いられます。
参考)大腸がんの余命や生存率は?ステージ別に解説

大腸癌の腫瘍マーカーCEAと病期診断

CEA(癌胎児性抗原)は、大腸癌の診断や治療経過のモニタリングに用いられる代表的な腫瘍マーカーです。もともと胎児の腸に見られるたんぱく質で、成人では通常血中濃度が非常に低いですが、がんの発生や成長に伴って増加することがあります。CEAの基準値は0~5.0ng/mLとされ、これを超える場合には精密検査が推奨されます。
参考)腫瘍マーカー「CEA」とは?CEAの基準値と高値で疑う疾患に…

CEAは大腸癌に反応しやすい腫瘍マーカーとして知られていますが、胃癌、肺癌、乳癌などでも増加することがわかっており、比較的多くの種類の癌に反応します。そのため、CEAが高値であっても単独では癌の診断にはならず、他の検査(画像診断や組織検査)と組み合わせて評価することが重要です。
参考)腫瘍マーカーのCEAとは何ですか? |健康診断・人間ドック

大腸癌の病期診断には、内視鏡検査による直接観察と生検に加えて、CT検査やMRI検査などの画像検査が用いられます。これらの検査により、がんの位置や深達度、他臓器浸潤、リンパ節転移、遠隔転移の有無を確認し、正確な病期(ステージ)を判定して治療方針を決定します。リンパ節転移の有無はCT、MRIの画像所見から予測できますが、最終的には手術で切除したリンパ節を顕微鏡で検査する病理検査で確定診断となります。
参考)大腸がんのステージ(病期)について

大腸癌の早期発見のための検診システムと医療従事者の役割

大腸癌は早期に発見すれば高い確率で治るがんですが、進行すると命に関わることもあります。早期の段階ではほとんど自覚症状がなく、進行するにつれて症状が現れるようになるため、無症状のうちに検診で発見することが理想的です。
参考)大腸がんとは

便潜血検査は大腸癌検診の一次スクリーニングとして広く実施されており、便中に微量な血液が混じっていないかを検出します。人間ドックや大腸癌検診、企業健診などで実施され、陽性の場合には大腸内視鏡検査による精密検査が推奨されます。便潜血検査陽性の精査で早期癌が発見されることもしばしば経験されており、早期発見・早期治療につながる有効な手段です。
参考)大腸がん、気にしすぎ?実は見逃しやすい初期症状とは│むらた内…

大腸内視鏡検査は大腸全体を観察し、がんの有無や病変の詳細(大きさ、深達度、位置など)を診断する最も重要な検査です。必要に応じて組織を採取し(生検)、病理検査でがん細胞の有無や性質などを詳しく調べます。また、日帰り治療で対応できる範囲の病変については当日切除を行うこともでき、早期大腸癌の治療にも用いられます。
参考)大腸がんの内視鏡治療とは、どのような治療ですか?

医療従事者は患者に対して、便通異常(便秘や下痢の繰り返し)、血便、便が細くなる、残便感、腹部の強い張り、腹痛、貧血などの症状がみられた場合には速やかに医療機関を受診するよう啓発することが重要です。これらの症状があっても痔だと思い込んで発見が遅れたり、便秘や下痢があっても大腸癌とは思わなかったりすることが多く、大腸癌のサインは見逃されることが多いためです。放置すると腸閉塞となり非常に危険ですので、早期の医療介入が患者の予後を大きく改善します。
参考)大腸がんだと気づくきっかけは?初期症状について医師が解説

 

 


患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版 大腸癌について知りたい人のために 大腸癌の治療を受ける人のために