器質化肺炎は、肺胞から肺胞近くの細気管支にかけて炎症が生じ、気腔内にポリープ状の器質化組織が特徴的に形成される疾患です。この疾患は50歳代から60歳代に多く発症し、性別による差や喫煙との関連は認められていません。
発症メカニズムについては完全には解明されていませんが、何らかの吸入物質によりフィブリンという線維性のタンパク質が出現し、それが適切に吸収されない場合に線維化が進行して器質化肺炎に至ると考えられています。
主要な症状:
特徴的なのは、約半数の患者が市中肺炎に似た病態を経験することです。すなわち、咳嗽、発熱、倦怠感、疲労および体重減少を特徴とするインフルエンザ様の症状が持続し、通常の細菌性肺炎の治療では改善しません。
ただし、検診で無症状のうちに発見されるケースも少なくないため、必ずしも全ての患者が顕著な症状を呈するわけではありません。
器質化肺炎の診断において、胸部CT検査の所見は極めて重要な役割を果たします。典型的な画像所見としては、肺内に多発する濃い影と淡い影が認められ、しばしば細菌性肺炎の陰影と類似した外観を呈します。
特徴的な画像所見:
移動性の影は器質化肺炎の特徴的な所見の一つで、一部の影が改善する一方で他の部位に新たな影が出現し、あたかも影が移動したように見える現象です。この所見は診断において重要な手がかりとなります。
確定診断には気管支内視鏡検査による気管支肺胞洗浄や肺生検が必要で、顕微鏡的観察によって診断が確定されます。組織学的には、肺胞管および肺胞腔内に肉芽組織が充満している所見が特徴的です。
診断のプロセス:
鑑別診断として、特に細菌性肺炎、他の間質性肺疾患、悪性疾患などを除外することが重要です。
器質化肺炎の治療において、コルチコステロイド(ステロイド薬)が第一選択薬として位置づけられています。治療適応は、咳や息切れなどの症状が出現している場合、または画像上で影の範囲が拡大するなどの進行性変化が認められる場合です。
基本的な治療方針:
重症例や急速に悪化する場合には、ステロイドパルス療法(短期間での大量ステロイド点滴投与)が実施されることもあります。この治療法により、多くの患者で2週間以内に臨床的改善が認められます。
治療効果と予後:
一方で、HRCT上で線状および網状陰影として現れる場合は、比較的治療反応性が低いとされています。
特筆すべきは、無症状で肺の影の広がりが大きくない場合は、まれに自然改善することもあるため、無治療で経過観察を行うこともあります。
器質化肺炎の予後は一般的に良好で、適切なステロイド治療により80%以上の患者が改善します。しかし、再発率の高さが臨床上の重要な課題となっています。
再発に関する重要な知見:
再発予防のためには、十分な治療期間の確保が重要です。通常6-12ヶ月の治療期間が推奨されており、急激な減量は避けるべきです。
長期管理のポイント:
予後良好群の特徴として、HRCT上でコンソリデーションやすりガラス陰影を呈する症例が挙げられます。一方、線状・網状陰影を呈する症例では治療反応性が劣る傾向があります。
ステロイド治療中の器質化肺炎患者では、免疫機能の低下により感染症リスクが増大するため、包括的な感染予防対策が不可欠です。
基本的な感染予防策:
特に重要なのは、風邪や肺炎などの呼吸器感染症の予防です。器質化肺炎患者では、軽微な感染症でも重篤化するリスクが高いため、予防接種の積極的な活用が推奨されます。
推奨される予防接種:
また、薬剤性器質化肺炎の可能性も考慮し、新規薬剤の導入時には十分な注意が必要です。患者には服用中の全ての薬剤・サプリメントを記録するよう指導し、定期的に見直しを行うことが重要です。
生活指導の要点:
医療従事者として特に注意すべき点は、患者の症状変化を見逃さないことです。咳の増悪、息切れの悪化、新たな発熱などは再発や感染症の兆候である可能性があり、早期の医学的評価が必要となります。
器質化肺炎の管理における医療チームアプローチも重要で、呼吸器内科医、薬剤師、看護師、理学療法士などが連携し、患者の包括的なケアを提供することが求められます。
日本呼吸器学会による器質化肺炎の診療ガイドライン
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/d-04.html
MSDマニュアルの特発性器質化肺炎に関する専門情報
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/05-肺疾患/間質性肺疾患/特発性器質化肺炎