トリヘキシフェニジル副作用とパーキンソン病治療薬の注意点

トリヘキシフェニジルの副作用は認知機能障害や口渇など多岐にわたります。パーキンソン病治療において抗コリン薬として使用されますが、特に高齢者への投与時は慎重な検討が必要です。安全な治療を行うにはどのような点に注意すべきでしょうか?

トリヘキシフェニジル副作用の全体像

トリヘキシフェニジルの副作用概要
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認知機能への影響

記憶力低下、見当識障害、せん妄などの精神神経系副作用

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抗コリン作用

口渇、便秘、排尿困難などの末梢性副作用

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重篤な副作用

悪性症候群、閉塞隅角緑内障の発症リスク

トリヘキシフェニジル副作用の出現頻度と症状

トリヘキシフェニジルの副作用発現率は医薬品再評価資料において392例中80例(20.4%)に報告されています 。最も多い副作用は口渇で10.2%の頻度を示し、これは抗コリン作用による唾液分泌抑制が原因です 。消化器症状として悪心・嘔吐、便秘がそれぞれ2.0%の頻度で発現し、これらも抗コリン作用に起因します 。
参考)https://www.cocorone-clinic.com/column/trihexyphenidyl.html

 

精神神経系の副作用は特に注意が必要で、興奮、神経過敏、気分高揚、多幸症、見当識障害、眠気、運動失調、眩暈、頭痛、倦怠感などが報告されています 。頭重・頭痛は0.8%、眠気・めまいは各0.5%の頻度で発現します 。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=46480

 

循環器系への影響として心悸亢進が認められ、泌尿器系では排尿困難や尿閉が発現する可能性があります 。眼への影響では調節障害や散瞳が起こり、霧視(0.5%)として自覚されることがあります 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070888.pdf

 

トリヘキシフェニジル重篤副作用のメカニズム

重篤な副作用として悪性症候群(頻度不明)があり、抗精神病薬抗うつ薬ドパミン作動系抗パーキンソン病薬との併用時に本剤及び併用薬の減量・中止により発現します 。症状として発熱、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧変動、発汗が現れ、白血球増加や血清CK(CPK)上昇、ミオグロビン尿を伴う腎機能低下を伴うことがあります 。
参考)https://alphaforum.co.jp/free/genyaku38

 

精神錯乱、幻覚、せん妄(頻度不明)は、トリヘキシフェニジルの中枢性抗コリン作用により脳内のアセチルコリン系に影響を与えることで発現します 。特に高齢者で生じやすく、焦躁感や幻視を伴う場合があります 。
参考)https://municipal-hospital.ichinomiya.aichi.jp/data/media/ichinomiya-hp/page/medical/druginformation/dinews2020.3.pdf

 

閉塞隅角緑内障(頻度不明)は長期投与により発現する可能性があり、抗コリン作用により眼圧が上昇し症状を悪化させるメカニズムによります 。このため閉塞隅角緑内障患者には禁忌とされています 。

トリヘキシフェニジル副作用と高齢者の認知機能リスク

高齢者において抗コリン薬の使用は認知機能障害のリスクを高めることが確立されています 。トリヘキシフェニジルは「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」において75歳以上の高齢者で「特に慎重な投与を要する」薬剤に分類されています 。
参考)https://www.cochrane.org/ja/evidence/CD015405_can-reducing-prescriptions-anticholinergic-medicines-improve-cognitive-outcomes-older-adults

 

抗コリン薬による認知機能障害のメカニズムは、脳内のコリン作動性システムがアセチルコリン受容体(ムスカリン受容体)に結合するのを阻害することにより、認知や記憶に重要な役割を果たすコリン作動性システムの機能を低下させることです 。
長期投与によるリスクとして、トリヘキシフェニジル5mg/日を3年以上投与するとアルツハイマー病変(老人斑や神経原線維変化)を生じるという報告があります 。また、抗コリン薬の3年超服用により認知症発症リスクが1.5倍に増加するという疫学データも示されています 。
参考)https://www.m3.com/news/iryoishin/290581

 

トリヘキシフェニジル副作用対策と医療従事者の対応

副作用の早期発見のため、医療従事者は定期的な評価を実施する必要があります。精神神経系症状(興奮、見当識障害、眠気など)が現れた場合は減量または休薬を検討し、重篤な精神症状(精神錯乱、幻覚、せん妄)では即座に適切な処置を行います 。
抗コリン薬の減薬・中止時には離脱症状に注意が必要です。急激な中断により吐き気、嘔吐、発汗、不眠、インフルエンザ様症状、不安焦燥、幻覚などが生じる可能性があります 。消化器症状がない場合、ドパミン過感受性精神病との鑑別が困難なこともあります 。
参考)http://www.comhbo.net/?page_id=10670

 

定期的なモニタリング項目として、認知機能評価、眼圧測定(緑内障スクリーニング)、腎機能検査、血清CK値測定を実施します。特に高齢者では総抗コリン薬負荷の評価を行い、他の抗コリン作用を有する薬剤との併用を避けるか慎重に管理する必要があります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11125000/001266082.pdf

 

トリヘキシフェニジル副作用回避のための処方最適化戦略

処方最適化のためには患者の年齢、併存疾患、他剤併用状況を総合的に評価する必要があります。特に75歳以上の高齢者では認知機能リスクを考慮し、必要最小限の用量と期間での使用を原則とします 。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/sinkei_pdgl_2011_12.pdf

 

代替治療選択肢として、パーキンソン病の振戦に対してはL-ドパ、ドパミンアゴニストを優先し、なお振戦が残る年齢が若く認知症のない症例でのみ抗コリン薬を追加併用します 。薬剤性錐体外路症状に対しては、原因薬剤の減量・変更を優先的に検討します。
投与開始時は第1日目1mg、第2日目2mgから開始し、以後1日につき2mgずつ増量して1日量6-10mgを維持量として3-4回に分割投与します 。しかし高齢者では通常成人より少量から開始し、慎重に増量することが推奨されます。定期的な効果判定と副作用評価により、最適な用量を決定し、不要になった場合は段階的に減量・中止を検討します。
参考)https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/byouin/pos/shourei/shourei17-7.html