テノホビル・アラフェナミドとは:プロドラッグ設計による抗ウイルス薬

テノホビル・アラフェナミドはHIVとB型肝炎治療に用いる核酸逆転写酵素阻害剤です。プロドラッグ化により従来薬より低用量で効果を発揮し、副作用軽減が期待されます。どのような仕組みで薬効を発揮するのでしょうか?

テノホビル・アラフェナミドとは

テノホビル・アラフェナミドの特徴
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核酸逆転写酵素阻害剤

HIVとB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬

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プロドラッグ設計

体内で活性代謝物に変換される前駆体形式の医薬品

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低用量での効果

従来薬の1/10以下の用量で同等の抗ウイルス効果

テノホビル・アラフェナミド(Tenofovir alafenamide:TAF、GS-7340)は、核酸逆転写酵素阻害剤に分類される抗ウイルス薬です。ギリアド・サイエンシズ社によって開発され、テノホビルのプロドラッグとして設計されました。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%8E%E3%83%9B%E3%83%93%E3%83%AB_%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8A%E3%83%9F%E3%83%89

 

プロドラッグとは、薬理学的に不活性または低活性の化合物で、体内で代謝されることにより活性型に変換される医薬品のことです。テノホビル・アラフェナミドは、親水性のテノホビルに側鎖を導入することで細胞透過性を高めるようにデザインされました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5683768/

 

2016年11月に日本でB型肝炎治療薬として承認され、製品名「ベムリディ」として2017年2月より販売開始となりました。また、HIV感染症に対しても配合剤として使用されています。
参考)https://www.miraio.com/medical/bkanen/vocab/cure/details/cure-025/

 

テノホビル・アラフェナミドの基本構造と化学的性質

テノホビル・アラフェナミドは、テノホビルをホスホンアミデートで修飾したプロドラッグです。この構造的特徴により、血漿中での安定性が向上し、より効率的に標的細胞へ薬剤を送達することが可能になりました。
従来のテノホビル・ジソプロキシル・フマル酸塩(TDF)と比較して、テノホビル・アラフェナミドは以下の特徴を持ちます。

テノホビル・アラフェナミドの分子量は476.47で、フマル酸塩として製剤化されています。ヒト血漿蛋白結合率は約80%と高く、主に血漿中ではアルブミンに結合した状態で存在します。

テノホビル・アラフェナミドの作用機序と薬物動態

テノホビル・アラフェナミドの作用機序は、細胞内での段階的な代謝過程を経て活性代謝物であるテノホビル二リン酸(TFV-DP)に変換されることから始まります。

 

代謝過程

  1. 初回加水分解: 主として肝細胞内でカルボキシルエステラーゼ1により加水分解され、テノホビル・アラニンとなる
  2. 二次加水分解: 末梢血単核球(PBMC)やHIV標的細胞内でカテプシンAにより加水分解され、テノホビルとなる
  3. リン酸化: アデニル酸キナーゼ及びヌクレオシド二リン酸キナーゼにより連続的にリン酸化され、活性代謝物のテノホビル二リン酸に変換される

この活性代謝物テノホビル二リン酸は、ウイルスの逆転写酵素を競合的に阻害し、ウイルスDNAの合成を阻止します。特にHIVやB型肝炎ウイルスの複製を効果的に抑制し、細胞内濃度がTDFと比較して90%以上高くなることが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7163232/

 

薬物動態の特徴

テノホビル・アラフェナミドの臨床効果と適応症

テノホビル・アラフェナミドは、HIV感染症とB型慢性肝炎の両方に対して高い抗ウイルス効果を示します。複数の第3相臨床試験において、従来のTDFと同等以上の効果が確認されています。

 

B型肝炎に対する効果

  • HBV DNA抑制: 48週時点でHBV DNA < 29 IU/mLを達成する患者割合がTDFと非劣性
  • HBeAg陽性・陰性患者: いずれでも高い抗ウイルス効果を示す

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8495544/

     

  • HBsAg低下: 特にALT値が高い患者群でHBsAg(B型肝炎表面抗原)の有意な低下を認める

日本における実臨床データでは、治療未経験のB型慢性肝炎患者において以下の結果が報告されています:

  • ALT値によって患者を3群(正常群、軽度上昇群、高度上昇群)に分類した場合、ALT値が高いほど治療効果が顕著
  • 24週時点で高度上昇群(ALT ≥2倍正常上限値)では著明なHBsAg低下を認めた
  • 長期投与(144週)における安全性と有効性も確認されている

    参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1111/jvh.13912

     

HIV感染症に対する効果
テノホビル・アラフェナミドは、他の抗HIV薬との配合剤として使用されます。プロテアーゼ阻害剤や非核酸系逆転写酵素阻害剤との併用により、HIV-1に対する強力な抗ウイルス効果を発揮します。
治療効果の持続性も良好で、アドヒアランス(服薬遵守)の向上にも寄与しています。1日1回の投与で維持でき、患者のQOL向上にも貢献しています。

 

テノホビル・アラフェナミドの副作用と安全性プロファイル

テノホビル・アラフェナミドの最大の利点の一つは、従来のTDFと比較して副作用が軽減されることです。特に腎機能と骨密度に関する安全性の改善が顕著に認められています。

 

腎機能への影響
テノホビル・アラフェナミドは血漿中のテノホビル濃度が低いため、腎毒性のリスクが大幅に軽減されます。重度腎機能障害患者での薬物動態試験では、テノホビル・アラフェナミドのAUC(血中濃度-時間曲線下面積)は1.9倍の上昇にとどまりました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4997827/

 

  • クレアチニン・クリアランス: TDFと比較して腎機能への影響が軽微
  • 近位尿細管機能: 尿蛋白や尿糖などの指標でも改善が認められる
  • 維持血液透析患者: 末期腎不全患者でも比較的安全に使用可能

骨密度への影響
TDFでは骨密度低下が問題となることがありましたが、テノホビル・アラフェナミドではこのリスクが大幅に軽減されています。長期投与試験においても骨密度の有意な低下は認められていません。
参考)https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/2325958220919231

 

その他の副作用
一般的な副作用としては以下が報告されています。

  • 消化器症状: 悪心、下痢、腹痛など軽微な症状
  • 頭痛やめまい: 軽度で一過性のものが多い
  • 肝機能検査値の変動: 一時的な上昇が見られることがある

肝機能障害患者での使用については、軽度から中等度の肝機能障害では用量調整は不要とされていますが、重度肝機能障害では慎重な監視が必要です。

テノホビル・アラフェナミドの薬剤相互作用と特殊な投与状況

テノホビル・アラフェナミドは主に肝細胞内のカルボキシルエステラーゼ1で代謝されるため、CYP酵素系との相互作用は限定的です。しかし、いくつかの重要な薬剤相互作用が知られています。

 

主要な薬剤相互作用

  • 結核治療薬: リファンピンなどの強力なCYP誘導薬との併用では血中濃度の低下が起こる可能性
  • 制酸薬: アルミニウム・マグネシウム含有制酸薬は吸収を阻害する可能性
  • プロトンポンプ阻害薬: 胃酸分泌抑制により吸収に影響を与える可能性

特殊患者群での使用
高齢者: 一般的に用量調整は不要ですが、腎機能や肝機能の低下を考慮した慎重な投与が推奨されます。
妊娠・授乳婦: 妊娠カテゴリーBに分類されており、動物実験では催奇形性は認められていません。しかし、ヒトでの安全性データは限定的なため、妊娠中の使用は慎重に検討する必要があります。
小児: HIV感染症に対しては小児適応が承認されていますが、B型肝炎に対する小児での使用経験は限定的です。
投与方法と用量

  • B型肝炎: 25mg を1日1回経口投与
  • HIV感染症: 配合剤として投与(用量は配合内容により異なる)

食事の影響については、空腹時投与と比較して食後投与でわずかに吸収が増加しますが、臨床的に意義のある差ではないとされています。そのため、食事に関係なく投与することが可能です。
継続投与時の注意点
長期投与においては、定期的な肝機能検査、腎機能検査、骨密度測定などのモニタリングが重要です。特にB型肝炎患者では、治療中断により肝炎の急性増悪が起こる可能性があるため、患者教育と継続的な服薬支援が必要です。
また、薬剤耐性の発現を防ぐため、単剤療法ではなく適切な併用療法を行うことが推奨されています。HIV感染症では必ず他の抗HIV薬との併用が必要であり、B型肝炎でもケースによっては複数薬剤の併用が検討されます。