ノルエチステロンは、標的臓器(子宮内膜等)の細胞内に存在する特定のレセプター蛋白を介してホルモン効果を発揮する合成黄体ホルモン薬です 。細胞内のレセプター蛋白と結合してその立体構造を変え、DNAの特定領域に結合することで遺伝子が活性化され、特定のmRNAが生成され、特異蛋白の合成が起こります 。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/estrogen-and-progesterone-preparations/2479002F1026
この薬剤は、プロゲステロンの生理作用のうち、未熟卵胞の成熟を抑制し、排卵・月経を起こさなくする作用、子宮粘膜に分泌腺を発達させる作用、および脳下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の分泌を抑制する作用を強力に保有しています 。
参考)http://qws-data.qlife.jp/meds/interview/2482003F1042/
動物実験では、ウサギにおけるMiyake-Pincus法(経口投与)でノルエチステロンの黄体ホルモン作用は、ノルエチノドレルの約3倍と報告されています 。また、幼若マウスの子宮重量増加を指標とした試験において、わずかながら卵胞ホルモン作用も有することが確認されています 。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=2479002F1026
ノルエチステロンは、無月経、月経周期異常(稀発月経、多発月経)、月経量異常(過少月経、過多月経)、月経困難症、卵巣機能不全症、黄体機能不全による不妊症、機能性子宮出血、月経周期の変更(短縮及び延長)に対して有効であることが実証されています 。
参考)http://www.fpmaj-saihyoka.com/cgi-bin/efficacy/efficacy.cgi?action=detail_viewamp;seq_no=788
通常の治療では、成人にノルエチステロンとして1日5~10mgを1~2回に分割経口投与します 。月経周期の調整では、延長の場合は1日5mgを月経予定5日前から投与し始め、月経周期延長希望日まで連続投与し、短縮の場合は1日5mgを卵胞期に投与し、数日間連続投与します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00001430.pdf
生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整においても重要な役割を担っており、不妊治療に十分な知識と経験のある医師のもとで使用することが推奨されています 。近年の不妊治療の発展に伴い、この適応での使用頻度が増加している傾向にあります。
ノルエチステロンの使用において最も注意が必要な副作用は血栓症です 。下肢の急激な疼痛・腫脹、突然の息切れ、胸痛、激しい頭痛、四肢の脱力・麻痺、構語障害、急性視力障害等の症状があらわれた場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061805.pdf
消化器系の副作用として、吐き気、嘔吐、食欲不振、胃の不快感、胃痛、下痢、便秘が報告されています 。精神神経系では頭痛、眠気、だるさ(倦怠感)、めまいが見られることがあります 。
参考)https://uchikara-clinic.com/prescription/norluten-tablet/
その他の副作用として、むくみ(浮腫)、体重増加、乳房の張りや痛み、少量の出血(点状出血)や予期せぬ時期の出血(破綻出血)、月経量の変化、皮膚の発疹、にきび、肌荒れなどが挙げられます 。長期服用により肝腫瘍が発生したとの報告もあるため、定期的な肝機能検査が重要です 。
ノルエチステロンは、本剤の成分に対し過敏性素因のある患者、エストロゲン依存性悪性腫瘍(乳癌、子宮内膜癌等)、子宮頸癌及びその疑いのある患者には投与禁忌です 。診断の確定していない異常性器出血のある患者も禁忌とされています 。
血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患又はその既往歴のある患者、重篤な肝障害のある患者、妊婦又は妊娠している可能性のある女性にも投与してはいけません 。
慎重投与が必要な患者として、血栓症の家族歴を持つ患者、前兆を伴わない片頭痛の患者、心臓弁膜症の患者(一部を除く)、軽度の高血圧のある患者、耐糖能の低下している患者、ポルフィリン症の患者、心疾患・腎疾患又はその既往歴のある患者、てんかん患者、テタニーのある患者が挙げられます 。
女性にノルエチステロン10mgを単回経口投与したとき、投与2時間後に最高血中濃度に達し、消失半減期は約5時間と報告されています 。この比較的短い半減期により、1日1~2回の分割投与が推奨されています。
ノルエチステロンは主に肝臓で代謝され、一部が17α-エチニルエストラジオールに転換されることが証明されています 。この代謝特性により、ノルエチステロンが生物学的に臨床的に黄体ホルモン作用と同時に卵胞ホルモン作用を示すことが説明されます 。
参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/mdoc/iform/2g/i1617952203.pdf
排泄に関しては、子宮癌末期患者に3H-標識ノルエチステロン5.0mgを単回経口投与したとき、尿中から投与量の約30%が5日間で排泄され、6日目以降は尿中から放射活性は認められませんでした 。これらの薬物動態情報は、適切な投与間隔や用量調整の根拠となる重要な知見です。
現在の医療現場では、薬物動態を考慮した個別化医療が重視されており、患者の肝機能や腎機能に応じた用量調整が必要な場合があります。特に高齢患者や併用薬の多い患者では、薬物相互作用や蓄積による副作用リスクを十分に評価することが求められています。