マグミット副作用と高齢者の注意点

マグミット服用中の高齢者における副作用リスクと高マグネシウム血症の初期症状、モニタリング方法について解説します。安全な服用のためのポイントとは?

マグミット副作用と高齢者

マグミット副作用における高齢者リスクの概要
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高マグネシウム血症

高齢者では腎機能低下により血清マグネシウム値が上昇しやすく、重篤な転帰をたどるリスクが高い

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服用管理

長期投与時には定期的な血清マグネシウム濃度測定と用量調整が必須

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初期症状の早期発見

嘔吐、徐脈、筋力低下、傾眠などの症状出現時には直ちに医療機関への受診が必要

マグミット(酸化マグネシウム製剤)は便秘症治療薬として広く使用されていますが、高齢者における副作用リスクには特別な注意が必要です。特に高マグネシウム血症は重大な副作用として位置づけられており、2008年の添付文書改訂以降、厚生労働省から繰り返し適正使用に関する注意喚起が行われています。高齢者は腎機能の生理的低下により、マグネシウムの排泄能力が減弱しているため、通常用量以下の投与であっても高マグネシウム血症を発症し、意識消失や死亡例も報告されています。
参考)医療用医薬品 : マグミット (マグミット錠100mg 他)

マグミット副作用としての高マグネシウム血症の発症機序

 

酸化マグネシウムは消化管からほとんど吸収されない薬剤として知られていますが、長期服用や高齢者への投与では血中濃度が上昇する可能性があります。正常な腎機能を持つ場合でも、食物中のマグネシウムの35~40%が空腸・回腸から吸収されることが報告されており、マグミット服用による追加負荷が問題となります。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/576/matome.pdf

高齢者における高マグネシウム血症の発症リスクが高い理由として、以下の要因が挙げられます。

  • 加齢に伴う糸球体濾過率(GFR)の低下により、マグネシウム排泄能力が減弱する
  • 便秘症による腸管内滞留時間の延長で、マグネシウム吸収量が増加する
  • 腎機能が正常範囲内であっても、加齢による予備能の低下により発症リスクが高まる
  • 複数の薬剤併用により、マグネシウム排泄に影響を及ぼす可能性がある

平成24年4月から平成27年6月までに報告された酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症29例のうち、21例(72.4%)が65歳以上の高齢者でした。さらに注目すべき点として、投与量が2g/日以下の通常用量であった症例が15例あり、うち4例が死亡例という重篤な結果となっています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000185078.pdf

マグミット副作用の初期症状と重症度分類

高マグネシウム血症の初期症状は非特異的であり、早期発見が困難な場合があります。医療従事者は以下の症状に注意を払う必要があります:
参考)マグミット錠の効果・副作用を医師が解説【効果的な飲み方は?】…

血清Mg濃度(mg/dL) 主な臨床症状
4.9以上 悪心・嘔吐、起立性低血圧、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠、全身倦怠感、無気力、腱反射の減弱
6.1~12.2 心電図異常(PR延長、QT延長)
9.7以上 腱反射消失、随意筋麻痺、嚥下障害房室ブロック、低血圧
18.2以上 昏睡、呼吸筋麻痺、血圧低下、心停止

初期症状として特に重要なのは、吐き気、めまい、脱力感、だるさ、眠気でぼんやりするなどの症状です。これらの症状は高齢者では加齢に伴う症状と誤認されやすく、見逃されるリスクが高いため注意が必要です。患者および家族への服薬指導では、これらの初期症状が現れた場合には服用を中止し、直ちに医療機関を受診するよう指導することが重要です。
参考)【薬剤師監修】マグミット®錠*(酸化マグネシウム)に含まれて…

マグミット高齢者投与時の適正使用とモニタリング

高齢者へのマグミット投与では、添付文書において「投与量を減量するとともに定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなど観察を十分に行い、慎重に投与すること」と明記されています。しかし、実臨床では適切なモニタリングが実施されていない現状が報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00010115.pdf

長崎大学病院における調査では、1年以上マグミット製剤を継続投与された613例のうち、血清マグネシウム値が測定されていた症例は214例(34.9%)のみで、65.1%の症例では投与期間中に1回も測定されていませんでした。この調査結果は、臨床現場における薬学的介入の必要性を示唆しています。
参考)酸化マグネシウム製剤の長期投与時の適正使用状況と血清マグネシ…

適正使用のための具体的な推奨事項は以下の通りです。

  • 必要最小限の使用にとどめ、漫然とした長期処方を避ける
  • 長期投与または高齢者への投与では、6ヶ月に1回程度の定期的な血清マグネシウム濃度測定を実施する
  • 腎機能評価として推算GFR(eGFR)を測定し、腎機能低下例では特に慎重な投与量調整を行う
  • 血清マグネシウム値が正常上限(2.5 mg/dL)を超えた場合は、減量または中止を検討する

特に注目すべき点として、eGFRが低下するに従って異常高値の発現件数が有意に増加することが示されており、腎機能に応じた用量調整が重要です。​

マグミット併用注意薬と薬物相互作用

マグミットは多くの薬剤と相互作用を示すため、併用薬の確認は高齢者における安全管理の重要な要素です。特に高齢者では多剤併用(ポリファーマシー)のリスクが高く、薬物相互作用による有害事象の発生頻度が増加します。
参考)酸化マグネシウム(マグミットⓇ錠)には飲み合わせてはいけない…

マグミットの効果を減弱させる薬剤として、以下のものが挙げられます。

  • 骨粗鬆症薬(ビスホスホネート系製剤):服用タイミングを2時間以上ずらす必要がある
  • 抗生剤(テトラサイクリン系、ニューキノロン系):キレート形成により抗菌薬の吸収が低下する
  • 強心薬(ジギタリス製剤):マグネシウムによる吸着により効果が減弱する
  • 胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプインヒビター、H2ブロッカー):胃酸との反応が必要なマグミットの緩下作用が減弱する

一方、高マグネシウム血症のリスクを高める薬剤として、活性型ビタミンD3製剤があります。この組み合わせでは服用タイミングをずらしても回避できないため、下剤の種類変更を検討する必要があります。
参考)マグミットの効果・効能/飲み合わせ・併用禁忌を解説~一緒に使…

市販薬との併用では、解熱鎮痛薬や総合感冒薬に酸化マグネシウムが配合されている場合があり、1日総量が1,650mgを超えないよう注意が必要です。また、花粉症治療薬のフェキソフェナジンアレグラ)もマグミットとの併用で効果が減弱するため、服用時間の管理が重要です。​

マグミット高マグネシウム血症の治療と緊急対応

高マグネシウム血症が疑われる場合の治療アプローチは、重症度と腎機能に応じて選択されます。医療従事者は迅速な対応が求められ、以下の治療戦略を理解しておく必要があります。​
軽度から中等度の高マグネシウム血症の場合。

  • マグミット製剤の即座の投与中止
  • 十分な補液による腎血流量の維持と利尿促進
  • 腎機能が十分であれば、フロセミドの静注によりマグネシウム排泄を増加させる

重度の症候性高マグネシウム血症の緊急治療。

  • 10%グルコン酸カルシウム10~20mLの静注:呼吸抑制などマグネシウム誘発性の変化を一時的に回復させる
  • 循環および呼吸の補助:必要に応じて経皮ペーシングやアトロピン投与を実施
  • 血液透析:マグネシウムは約70%が非結合型であり透析で除去可能なため、重度の高マグネシウム血症では有効
  • 血行動態が不安定で血液透析が施行不能な場合は、腹膜透析を選択

実際の臨床例では、グルコン酸カルシウム投与後に一時的に正常洞調律となり血圧が安定したケースが報告されており、緊急時の循環動態安定化に有効です。また、高マグネシウム血症は筋層間神経叢を遮断し、腸管平滑筋の興奮収縮連関を阻害することで腸管蠕動を低下させるため、腸閉塞を増悪させる可能性があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/27/1/27_27_19/_pdf

持続的血液透析濾過(CHDF)導入により高マグネシウム血症が改善した後、腸閉塞症状も改善した症例が報告されており、透析療法の有効性が確認されています。​

マグミット高齢者投与における患者教育と多職種連携

高齢者へのマグミット投与では、患者および家族への適切な服薬指導が副作用の早期発見に不可欠です。医療従事者は以下の点について、理解しやすい言葉で説明する必要があります。
参考)https://magmitt.com/wp-content/uploads/2022/09/%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%82%92%E6%9C%8D%E7%94%A8%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%83%BB%E3%81%94%E5%AE%B6%E6%97%8F%E3%81%AE%E6%96%B9%E3%81%B8%E3%80%802022%E5%B9%B410%E6%9C%88_A6_4%E6%9E%9A.pdf

患者・家族への指導内容。

  • 高マグネシウム血症の初期症状(吐き気、立ちくらみ、めまい、脈が遅くなる、力が入りにくい、体がだるい、傾眠)について具体的に説明する
  • 症状出現時には服用を中止し、直ちに医療機関を受診するよう指導する
  • 下痢症状が出現した場合は用量が多すぎるサインであり、医師や薬剤師に相談して1錠減らすなど調整する
  • 他の医療機関や薬局でマグネシウムを含む薬剤を処方される可能性があるため、お薬手帳の活用を徹底する

多職種連携による適正使用の推進も重要です。薬剤師は処方監査時に以下の点をチェックし、必要に応じて処方提案を行うべきです:​

  • 血清マグネシウム値および腎機能(eGFR)の測定状況の確認
  • 長期処方例における定期的なモニタリング計画の確認
  • 併用薬との相互作用チェックと服用時間の調整提案
  • 必要最小限の用量での処方を推奨し、漫然とした長期投与を避ける

厚生労働省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、酸化マグネシウム製剤の適正使用について繰り返し注意喚起を行っており、医療現場での適切な対応が求められています。特に便秘症の患者では腎機能が正常な場合や通常用量以下の投与であっても重篤な転帰をたどる例が報告されているため、高リスク例の特徴(長期服用、腎障害、高齢、便秘症)を認識し、定期的なマグネシウムモニタリングを実施することが重要です。
参考)便秘ガイドライン〈医師・医療従事者〉〈酸化マグネシウム製剤服…

高齢者人口の増加に伴い、マグミット製剤の使用患者数も増加していることから、医療従事者は副作用の早期発見と適切な対応のための知識を常にアップデートし、患者安全の確保に努める必要があります。​
厚生労働省「酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」
マグミット製剤の適正使用に関する厚生労働省の公式ガイダンス。高マグネシウム血症の発現状況、症例別データ、使用上の注意改訂内容が詳細に記載されています。

 

PMDA「酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い」
医薬品医療機器総合機構による適正使用に関する資料。血清マグネシウム濃度ごとの臨床症状一覧表と、高リスク例の特徴について解説されています。

 

 


【第3類医薬品】マグミットK 100錠