2021年、ジメチルスルホキシド(DMSO)は日本で医療用医薬品として承認され、商品名「ジムソ膀胱内注入液50%」として使用されています。適応症は間質性膀胱炎(ハンナ型)で、指定難病に認定されている疾患の治療に用いられます。
間質性膀胱炎(ハンナ型)は、膀胱の粘膜にハンナ病変と呼ばれる特徴的な異常が見られる疾患です。正常な毛細血管構造を欠き、粘膜が赤くなった状態が観察され、患者は慢性的な骨盤部の疼痛、圧迫感、不快感、尿意亢進や頻尿などの症状に苦しみます。
参考)https://www.toho-u.ac.jp/press/2022_index/20230213-1269.html
治療効果のメカニズム
DMSOの治療効果は以下の作用によるものとされています。
最新の研究では、DMSOが活性酸素種であるヒドロキシルラジカル(- OH)を消去することで、炎症の増悪を防ぐメカニズムが注目されています。
投与方法と効果
治療は2週間間隔で6回、膀胱内に50mLを直接注入する方法で行われ、可能な限り15分間以上膀胱内に保持してから排出させます。この局所投与により、全身への副作用を最小限に抑えながら、患部に直接作用させることができます。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00069227
再生医療分野において、DMSOは細胞凍結保護材料として長年使用されてきました。しかし、DMSOには細胞毒性の問題があることから、新しい高分子系細胞凍結保護材料の開発も進められています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/8021f1856bc772568769efcde1a87e396d232fb3
凍結保護における役割
クライオザーブ(DMSO含量99.0%以上)などの製品は、医薬品GMPに準じて製造された細胞プロセッシング用薬剤として使用されています。細胞を凍結保存する際の凍害を防ぐ重要な役割を果たしており、幹細胞治療や組織工学において不可欠な存在です。
参考)https://med.nipro.co.jp/med_eq_category_detail?id=a1U1000000b535KEAQ
代替材料への取り組み
DMSOの細胞毒性を克服するため、新しい高分子系細胞凍結保護材料の開発が活発に行われています。これにより、より安全で効果的な細胞保存技術の確立が期待されています。
最新の研究では、DMSOの結膜下注射による糖尿病性網膜症の治療効果が検討されています。この研究は2024年12月に発表された最新の知見で、DMSOの新たな医療応用として注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11705140/
糖尿病性網膜症への効果
糖尿病性網膜症は糖尿病の合併症として網膜血管に損傷を与え、視力障害を引き起こす疾患です。持続的な高血糖がこの損傷に寄与するとされ、効果的な治療選択肢は限られています。
DMSOは以下の特性により、糖尿病性網膜症の進行抑制に期待されています。
臨床応用への可能性
結膜下注射という投与方法により、全身への影響を最小限に抑えながら、眼組織に直接薬物を届けることができます。この研究成果により、DMSOの新たな医療用途として糖尿病性網膜症治療への応用が期待されています。
医療用DMSOの使用において、適切な副作用管理と安全性の確保は重要な課題です。臨床試験では、DMSO群で59.2%、プラセボ群で27.7%の有害事象発現率が報告されており、適切な管理が必要です。
主な副作用
臨床使用における主な副作用は以下のとおりです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12005388/
濃度による毒性の違い
DMSOの毒性は濃度に依存することが知られています。高濃度(20-40%)の静脈内投与では血管内溶血によるヘモグロビン尿症が報告されていますが、低濃度(10%)では稀とされています。
適切な使用法
以下の点を考慮した使用が推奨されます。
医療現場でのDMSO使用には、適切な管理体制と知識が必要です。特に医療従事者は、DMSOの特性を理解し、安全な取り扱いを心がける必要があります。
医療従事者への教育
DMSOの医療使用において、医療従事者は以下の知識を身につける必要があります。
品質管理と保管
医療用DMSOは以下の管理が重要です。
また、DMSOはアミロイドーシスや認知症などの神経変性疾患に対する研究も進められており、今後の医療応用拡大が期待される分野でもあります。医療従事者は常に最新の研究動向を把握し、適切な医療提供に努める必要があります。
安全な医療提供のために
DMSOの医療使用は、その多様な生物学的活性から大きな治療可能性を秘めています。しかし、適切な知識と技術、管理体制なしには安全な医療提供はできません。医療従事者一人ひとりがDMSOの特性を理解し、患者の安全と治療効果の最大化を目指すことが重要です。