ジメチルスルホキサイド(Dimethyl sulfoxide、略称DMSO)は、分子式C₂H₆SOで表される有機化合物です。CAS番号は67-68-5、分子量は78.13で、化審法における官報公示整理番号は2-1553として登録されています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%9B%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%89
この物質の最も特徴的な性質は以下の通りです。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/report/h21-01/pdf/chpt1/1-2-2-12.pdf
参考)https://www.bmsci.com/products/?id=1557211194-894548amp;pca=4
純度の高いDMSOは無色無臭ですが、長期間保存したものは分解物である硫黄化合物の臭気(磯の香りに似ている)を持つようになります。化学構造の観点から、DMSOは理想的なCs対称性を持つ三角錐形分子構造を有し、四面体形硫黄原子上に非結合性電子対があります。
DMSOの最も注目すべき特性の一つは、その極めて高い皮膚浸透性です。この特性は医療分野において重要な意味を持ちます。
皮膚浸透のメカニズムは以下のような特徴があります。
環境省のリスク評価書によると、DMSOは植物プランクトンにより硫化ジメチル(DMS)として生成され、海水へ放出される天然由来の物質でもあります。
参考)https://www.env.go.jp/content/900411187.pdf
体内での代謝について、主な尿中代謝物は酸化によって生じたジメチルスルホン(DMSO₂)ですが、呼気中には還元によって生じたジメチルスルフィド(DMS)が排泄されます。このDMSが特有の磯の香りの原因となっています。
2021年1月22日、日本において間質性膀胱炎治療薬としてジメチルスルホキサイド(商品名:ジムソ膀胱内注入液50%)の製造販売が承認されました。これは医療従事者にとって重要な進展です。
参考)https://www.chem-station.com/molecule/2021/07/dmso.html
承認内容の詳細。
間質性膀胱炎(ハンナ型)は指定難病の一つであり、膀胱に原因不明の炎症が生じて頻尿や疼痛などの不快な症状を繰り返します。細菌性膀胱炎とは異なり、抗菌剤では治療できない疾患です。
海外での承認状況。
米国では1978年に商品名Rimso-50®として承認・販売されており、長年の使用実績があります。一方、日本では間質性膀胱炎に有効な薬剤が一つも承認されていなかったため、2012年の医療上の必要性の高い未承認薬検討会議において医療上の必要性が高いと判断され、2017年にオーファンドラッグに指定されました。
その他の医療用途。
オーソモレキュラー医学会の報告によると、DMSOには以下のような幅広い治療効果が報告されています:
参考)https://isom-japan.org/article/article_page?uid=irPER1731015898
DMSOの治療効果における作用機序は、主に以下の複数の薬理作用によるものとされています:
活性酸素消去メカニズム。
最も有力視されている作用機序は、活性酸素種(ROS)であるヒドロキシルラジカル(- OH)を消去することで炎症を抑制するというものです。
具体的な反応は以下の通りです。
DMSO + - OH → メタンスルフィン酸 + メチルラジカル
メチルラジカル + O₂ → メチルペルオキシラジカル
2メチルペルオキシラジカル → ホルムアルデヒド + メタノール + O₂
このプロセスにより、生体にとって有害なヒドロキシルラジカルが無害化され、炎症部位での組織損傷が軽減されます。
投与濃度の科学的根拠。
医薬品としてのDMSOは50%水溶液として用いられますが、これはヒドロキシルラジカルと生体分子よりも優先的に反応させるために必要な高濃度です。膀胱という局所投与部位であることも、全身への影響を最小限に抑える上で重要な要素となっています。
DMSOの安全性について、環境省のリスク評価書では詳細な毒性試験結果が報告されています。
急性毒性データ。
参考)http://www.kokusan-chem.co.jp/sds/D002141.pdf
吸入毒性試験結果。
ラットを用いた13週間反復吸入毒性試験では、NOAEL(無毒性量)が954mg/m³(曝露状況で補正:240mg/m³)と設定されています。高濃度曝露群では鼻道の呼吸上皮に偽腺形成や扁平上皮の過形成が認められましたが、重篤な全身毒性は観察されていません。
臨床試験における有害事象。
間質性膀胱炎の臨床試験では、以下の有害事象が報告されています:
この臭いは、DMSOが体内で還元されて生成するジメチルスルフィドによるもので、磯の香りに似た特徴的な臭いです。
ヒトへの影響事例。
環境省の報告書には、脊髄損傷患者への静脈内投与事例が記載されています:
取り扱い上の注意点。
医療従事者が知っておくべき重要な注意事項は以下の通りです。
DMSOは現存する中で最も安全な薬剤の1つとされており、ビタミンCにも匹敵する安全性を持つとの報告もありますが、適切な取り扱いと患者の状態把握は不可欠です。
特に医療現場では、DMSOの皮膚浸透促進作用により、他の薬剤や化学物質の吸収が増強される可能性があるため、併用薬剤や皮膚の状態について十分な注意が必要です。