ジメチルスルホキサイドとは何?医療用途から安全性まで徹底解説

医療従事者向けにジメチルスルホキサイド(DMSO)の基本情報から安全性、医療用途まで詳しく解説します。未承認薬として注目される理由は何でしょうか?

ジメチルスルホキサイドとは

ジメチルスルホキサイドの基本情報
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化学構造と物性

分子式C₂H₆SOの有機溶媒で無色無臭の吸湿性液体

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医療用途

間質性膀胱炎治療薬として2021年に日本で承認

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特殊性質

皮膚浸透性が極めて高く他物質の吸収促進作用

ジメチルスルホキサイドの基本的性質

ジメチルスルホキサイド(Dimethyl sulfoxide、略称DMSO)は、分子式C₂H₆SOで表される有機化合物です。CAS番号は67-68-5、分子量は78.13で、化審法における官報公示整理番号は2-1553として登録されています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%9B%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%89

 

この物質の最も特徴的な性質は以下の通りです。

純度の高いDMSOは無色無臭ですが、長期間保存したものは分解物である硫黄化合物の臭気(磯の香りに似ている)を持つようになります。化学構造の観点から、DMSOは理想的なCs対称性を持つ三角錐形分子構造を有し、四面体形硫黄原子上に非結合性電子対があります。

ジメチルスルホキサイドの生体への浸透性

DMSOの最も注目すべき特性の一つは、その極めて高い皮膚浸透性です。この特性は医療分野において重要な意味を持ちます。
皮膚浸透のメカニズムは以下のような特徴があります。

  • 高浸透性:皮膚バリア機能を容易に通過
  • 運搬体効果:他の物質の皮膚浸透を促進
  • 安全性上の注意:他物質混入時の浸透促進リスク

環境省のリスク評価書によると、DMSOは植物プランクトンにより硫化ジメチル(DMS)として生成され、海水へ放出される天然由来の物質でもあります。
参考)https://www.env.go.jp/content/900411187.pdf

 

体内での代謝について、主な尿中代謝物は酸化によって生じたジメチルスルホン(DMSO₂)ですが、呼気中には還元によって生じたジメチルスルフィド(DMS)が排泄されます。このDMSが特有の磯の香りの原因となっています。

ジメチルスルホキサイドの医療用途と承認状況

2021年1月22日、日本において間質性膀胱炎治療薬としてジメチルスルホキサイド(商品名:ジムソ膀胱内注入液50%)の製造販売が承認されました。これは医療従事者にとって重要な進展です。
参考)https://www.chem-station.com/molecule/2021/07/dmso.html

 

承認内容の詳細

  • 適応症:間質性膀胱炎(ハンナ型)の諸症状改善
  • 用法用量:1回50mL、2週間間隔で6回膀胱内注入
  • 保持時間:膀胱内に15分間以上保持後排出

間質性膀胱炎(ハンナ型)は指定難病の一つであり、膀胱に原因不明の炎症が生じて頻尿や疼痛などの不快な症状を繰り返します。細菌性膀胱炎とは異なり、抗菌剤では治療できない疾患です。
海外での承認状況
米国では1978年に商品名Rimso-50®として承認・販売されており、長年の使用実績があります。一方、日本では間質性膀胱炎に有効な薬剤が一つも承認されていなかったため、2012年の医療上の必要性の高い未承認薬検討会議において医療上の必要性が高いと判断され、2017年にオーファンドラッグに指定されました。
その他の医療用途
オーソモレキュラー医学会の報告によると、DMSOには以下のような幅広い治療効果が報告されています:
参考)https://isom-japan.org/article/article_page?uid=irPER1731015898

 

  • 脳卒中および脳内出血
  • 脳および脊髄の損傷
  • 心臓発作
  • 認知症およびアミロイドーシス
  • 自己免疫疾患(ループス、多発性硬化症等)
  • 慢性疼痛、関節炎、線維筋痛症

ジメチルスルホキサイドの作用機序

DMSOの治療効果における作用機序は、主に以下の複数の薬理作用によるものとされています:

  • 抗炎症作用:炎症を抑制する効果
  • 筋弛緩作用:筋肉の緊張を和らげる効果
  • 鎮痛作用:疼痛を軽減する効果
  • コラーゲン分解作用:組織の線維化を抑制

活性酸素消去メカニズム
最も有力視されている作用機序は、活性酸素種(ROS)であるヒドロキシルラジカル(- OH)を消去することで炎症を抑制するというものです。
具体的な反応は以下の通りです。

  1. ヒドロキシルラジカルとの反応

    DMSO + - OH → メタンスルフィン酸 + メチルラジカル

  2. メチルラジカルの酸化

    メチルラジカル + O₂ → メチルペルオキシラジカル

  3. 最終産物の生成

    2メチルペルオキシラジカル → ホルムアルデヒド + メタノール + O₂

このプロセスにより、生体にとって有害なヒドロキシルラジカルが無害化され、炎症部位での組織損傷が軽減されます。
投与濃度の科学的根拠
医薬品としてのDMSOは50%水溶液として用いられますが、これはヒドロキシルラジカルと生体分子よりも優先的に反応させるために必要な高濃度です。膀胱という局所投与部位であることも、全身への影響を最小限に抑える上で重要な要素となっています。

ジメチルスルホキサイドの安全性評価と注意点

DMSOの安全性について、環境省のリスク評価書では詳細な毒性試験結果が報告されています。
急性毒性データ

吸入毒性試験結果
ラットを用いた13週間反復吸入毒性試験では、NOAEL(無毒性量)が954mg/m³(曝露状況で補正:240mg/m³)と設定されています。高濃度曝露群では鼻道の呼吸上皮に偽腺形成や扁平上皮の過形成が認められましたが、重篤な全身毒性は観察されていません。
臨床試験における有害事象
間質性膀胱炎の臨床試験では、以下の有害事象が報告されています:

  • 発現率:DMSO群59.2%、プラセボ群27.7%
  • 主な症状:膀胱痛などの投与時反応
  • 特異的症状:3/49例で臭いに関する有害事象

この臭いは、DMSOが体内で還元されて生成するジメチルスルフィドによるもので、磯の香りに似た特徴的な臭いです。
ヒトへの影響事例
環境省の報告書には、脊髄損傷患者への静脈内投与事例が記載されています:

  • 投与条件:10-40%濃度、3日間静脈内投与(1,000mg/kg/day)
  • 観察された症状:20-40%濃度でヘモグロビン尿症
  • 回復性:投与中止後2-3時間以内に症状消失
  • 腎機能:腎臓への影響は認められず

取り扱い上の注意点
医療従事者が知っておくべき重要な注意事項は以下の通りです。

  • 皮膚浸透促進:他物質混入時の浸透促進リスク
  • 純度管理:不純物による毒性増加の可能性
  • 保存条件:吸湿性が高いため密封保存が必要
  • 分解物対策:長期保存による硫黄化合物臭の発生

DMSOは現存する中で最も安全な薬剤の1つとされており、ビタミンCにも匹敵する安全性を持つとの報告もありますが、適切な取り扱いと患者の状態把握は不可欠です。
特に医療現場では、DMSOの皮膚浸透促進作用により、他の薬剤や化学物質の吸収が増強される可能性があるため、併用薬剤や皮膚の状態について十分な注意が必要です。