Grade 1/2 の副作用(irAE)が出た患者ほど、生存期間が有意に延長するというデータがあります。
アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)は抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体であり、T細胞の免疫チェックポイントを解除することで抗腫瘍免疫応答を活性化します。一方のベバシズマブ(商品名:アバスチン)は抗VEGF(血管内皮増殖因子)モノクローナル抗体で、腫瘍への血管新生を抑制します。それぞれの作用機序が全く異なるため、副作用のプロファイルも「免疫系」と「血管系」の2方向に分かれる点が、この併用療法の管理において最も重要な認識です。
IMbrave150試験(N Engl J Med 2020)では、切除不能肝細胞癌の一次治療として本療法が検討されました。アテゾリズマブ+ベバシズマブ群336例のうち、Grade 3以上の有害事象を経験した患者は56.5%に上りました。ソラフェニブ群の55.1%とほぼ同等の数値ですが、副作用の種類が全く異なります。つまり副作用の「数」だけでなく「内容」を正確に把握することが管理の要です。
2剤の副作用を整理すると、以下のように大別できます。
| 薬剤 | 主な副作用カテゴリ | 代表的な事象 |
|---|---|---|
| アテゾリズマブ | 免疫関連有害事象(irAE) | 間質性肺疾患、肝機能障害、甲状腺機能異常、副腎不全、大腸炎 |
| ベバシズマブ | 血管・腎系副作用 | 高血圧、蛋白尿、出血(鼻血・消化管)、血栓塞栓症、創傷治癒遅延 |
| 共通(両剤) | 全身症状 | 疲労、食欲不振、下痢、注入に伴う反応(infusion reaction) |
アテゾリズマブのirAEは免疫応答の過活性化が本質であり、ステロイドや免疫抑制薬で対処します。ベバシズマブ関連の副作用は血管生物学的機序によるものであり、降圧薬や休薬・中止で対処するという管理の方向性が根本的に異なります。両剤の副作用を混同しないことが原則です。
irAE(免疫関連有害事象)は免疫チェックポイント阻害薬に特有の副作用群であり、従来の細胞傷害性抗がん薬とは全く異なる対処が必要です。これが管理上の最大の難所です。
アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法における主なirAEの発現頻度をまとめると以下の通りです(IMbrave150試験データおよび国内実臨床データを参照)。
irAEの発症時期については「いつでも起こりうる」と理解することが基本です。多くのirAEは投与開始から数週以内に現れますが、甲状腺機能異常や副腎不全は数ヵ月後に発症することもあります。irAEには「決まった発症時期がない」という認識を持つことが大切です。
irAEの重症度(Grade)に応じた対処の原則は以下の通りです。
ステロイドが反応性であることが多い点は重要です。ただしステロイド投与中は、日和見感染・血糖異常・骨粗鬆症に対する予防策も並行して行います。
ベバシズマブ関連の副作用の中で最も発現頻度が高いのが高血圧です。IMbrave150試験では、Grade 3以上の高血圧がアテゾリズマブ+ベバシズマブ群の15.2%に出現しています。15%超という数字はおよそ6〜7人に1人の割合であり、決して無視できない頻度です。
高血圧はVEGFシグナルの抑制による血管拡張機能の低下が主因です。VEGF阻害によって血管内皮から産生される一酸化窒素(NO)が減少し、血管収縮が優位になります。
高血圧の管理の流れとして、投与前から血圧のベースラインを記録しておき、毎コース来院時に必ず測定することが前提です。自宅での血圧手帳記録を患者に促すと、より精度の高い管理が可能になります。ベバシズマブ関連高血圧への第一選択降圧薬としては、ACE阻害薬・ARBが推奨されることが多く、Ca拮抗薬を追加する場合はグレープフルーツなどCYPを介した相互作用に注意が必要です。
Grade 3(収縮期160 mmHg以上または拡張期100 mmHg以上でコントロール不能)となった場合、ベバシズマブは中止となります。再投与については、血圧が安定したうえで主治医・薬剤師・看護師を含むチームで慎重に判断することが求められます。
次いで注意が必要なのが蛋白尿です。ベバシズマブは糸球体の血管内皮細胞にも作用するため、腎機能に影響を及ぼします。尿蛋白が3.5 g/24時間以上(ネフローゼ域)に達した場合は休薬の適応になります。
蛋白尿の早期発見は、その後の腎機能保護と治療継続に直結します。スクリーニングを怠らないことが条件です。
医療従事者が見落としがちな重要な視点があります。それは「Grade 1/2のirAEは、治療効果の発現と正の相関を示す可能性がある」という点です。
神奈川県立がんセンターを含む複数施設の共同研究(Morimoto M et al., Oncologist 2023)では、アテゾリズマブ+ベバシズマブで治療を受けた進行肝細胞癌患者150例を対象に、irAE発症と生存期間の関係が後ろ向きに検討されました。
結果として、irAEを発症した患者群(21.3%)と非発症群を比較すると、全生存期間(OS)の中央値はirAE群で「未到達」、非irAE群では458日でした(p=0.036)。Grade 1/2のirAEに絞った多変量解析では、無増悪生存期間(PFS)のハザード比0.339(95%CI:0.166-0.691)、OSのハザード比0.086(95%CI:0.012-0.641)と、劇的なリスク低下が示されています。
つまり、軽度〜中等度のirAEを発症した患者はむしろ長く生き延びている可能性があります。これは一見して副作用が「悪いもの」という常識に反するデータです。
なぜこのような関係が生じるのか、そのメカニズムについては「免疫チェックポイント阻害薬が十分に免疫系を活性化できている証拠がirAEとして現れる」という解釈が有力とされています。抗腫瘍免疫とirAEはいずれも「免疫の過活性」を反映する現象であり、コインの裏表ともいえます。
ただし重要な留意点があります。Grade 3/4の重篤なirAEは生存に寄与するという明確なエビデンスはなく、むしろ治療中断・長期ステロイド使用による免疫抑制で予後が悪化するリスクがあります。したがって「irAEを出ないようにコントロールするのではなく、Grade 1/2の段階で早期発見・早期対応して治療を継続できる状況を作ること」が真の目標といえます。Grade 1/2のirAEを適切に管理して継続投与できる状態を保つことが原則です。
よく知られた高血圧・蛋白尿・間質性肺疾患以外にも、この療法には医療従事者が特別な注意を払うべき副作用が存在します。
B型肝炎ウイルス(HBV)再活性化のリスクは見過ごせません。 肝細胞癌患者にはHBs抗原陽性者が一定数存在します。免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)は免疫を活性化する一方で、HBV既往感染者(HBs抗原陰性・HBc抗体陽性)においてもウイルスの再活性化を誘導する可能性があることが知られています。ガイドライン上は投与前にHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体のスクリーニングを行い、適切なケースでは核酸アナログによる予防的投与を行うことが推奨されています。HBV再活性化による肝不全は一旦発症すると致死率が極めて高く、スクリーニングと予防が絶対に必要です。
消化管穿孔・瘻孔もベバシズマブ固有の重大リスクです。 ベバシズマブは創傷治癒遅延作用を持つため、消化管穿孔・瘻孔形成(腸管瘻、気管食道瘻など)があらわれることがあり、死亡例も報告されています。腹痛・発熱・嘔吐が持続する場合には、急速な対応が必要になります。
血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)にも注意が必要です。 ベバシズマブは血管内皮細胞の恒常性を乱すことで血栓形成リスクを高めます。長期臥床・長距離移動・手術既往のある患者ではリスクが一層高まります。患者への指導として、片側の下肢腫脹・疼痛、突然の息切れ・胸痛が現れた際にはすぐに連絡するよう説明することが必要です。
傍腫瘍性神経症候群という稀なirAEへの注意も現場では求められます。 2025年に日本肝臓学会誌に報告された症例では、アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法開始後数日で発熱が持続し、傍腫瘍性神経症候群と診断された維持透析中の80代男性の事例が記載されています。透析患者では通常とは異なる免疫環境下にあるため、副作用の現れ方が非典型的になることがあります。稀な副作用でも可能性を念頭に置いた観察が求められます。
これらの特殊な副作用は、定期的な問診と検査だけでなく、患者本人やその家族が「いつもと違う」と感じた際に速やかに医療機関に連絡できる体制を構築することで、早期発見・早期対応が可能になります。患者指導を充実させることが医療現場での安全管理と直結します。
参考資料として、中外製薬の適正使用ガイド(PMDA掲載)にはアテゾリズマブのirAE管理の詳細なアルゴリズムが記載されており、臨床現場での判断基準として活用できます。
テセントリク適正使用ガイド(PMDA):irAEの種類・管理フロー・投与要件が詳述されています
また、日本臨床腫瘍学会によるがん免疫療法ガイドライン第3版(案)はirAE全般の管理原則を網羅しており、各臓器別の副作用対処フローが参照できます。
がん免疫療法ガイドライン第3版(案)(日本臨床腫瘍学会):irAEの臓器別管理と推奨ステロイドレジメンを確認できます