インフリキシマブは、マウス由来の抗体とヒト由来の抗体を組み合わせたキメラ型モノクローナル抗体です。この薬剤の主要な作用機序は、体内の炎症を引き起こす重要な物質であるTNF-α(腫瘍壊死因子α)に特異的に結合し、その活性を中和することにあります。
TNF-αは正常な免疫システムの一部として機能していますが、関節リウマチやクローン病などの炎症性疾患では過剰に産生されることがあります。この過剰なTNF-αは、正常な細胞まで攻撃してしまい、持続的な炎症や組織損傷を引き起こします。インフリキシマブはこのTNF-αの働きを強力に抑制することで、様々な炎症性疾患に対して効果を発揮します。
インフリキシマブの臨床効果は以下の疾患で確認されています。
特に乾癬に対しては、皮膚のターンオーバーが異常に早まることで生じる赤い発疹や鱗屑を効果的に抑制します。広範囲に及ぶ乾癬や関節症状を伴うケースでは、インフリキシマブの効果が高いとされています。
投与方法は通常、初回注射後、2週、6週、以後8週間間隔での点滴静注となっており、治療効果は投与開始後数週間で現れることが多いですが、個人差があります。
インフリキシマブは高い治療効果を示す一方で、様々な副作用が報告されています。主な副作用(5%以上の頻度で報告されているもの)には以下が含まれます。
特に注意すべき副作用として、インフュージョンリアクション(点滴投与に伴う反応)があります。これは投与中または投与後2時間以内に発生する可能性があり、症状としては以下が挙げられます。
重篤なインフュージョンリアクションは約0.6%の頻度で発生すると報告されており、症状の重症度は様々です。そのため、インフリキシマブの投与は緊急時に十分な措置ができる医療施設で行う必要があります。
また、遅発性過敏症として、インフリキシマブ使用3日以上経過した後に以下のような症状が現れることもあります。
これらの副作用が現れた場合には、速やかに医師に相談することが重要です。
インフリキシマブのTNF-α阻害作用は、免疫系の一部を抑制することにより治療効果をもたらしますが、同時に感染症のリスクを高める可能性があります。重大な副作用として、様々な感染症が報告されています。
これらの感染症は重篤化する恐れがあり、適切な治療が行われない場合は致命的となる可能性もあります。感染症を示唆する症状としては、以下が挙げられます。
インフリキシマブ投与時の感染症リスクを軽減するための対策
インフリキシマブによる治療を受ける患者さんには、これらの感染症リスクと症状について十分な説明を行い、異常を感じた際には速やかに医師に相談するよう指導することが重要です。
インフリキシマブを長期間使用する場合、いくつかの特有の安全性の問題と注意点があります。長期治療を受ける患者さんにおいては、以下の点に注意が必要です。
長期投与の安全性を確保するためには、定期的かつ包括的な健康評価が不可欠です。
また、症状がほぼ抑えられた患者においては、インフリキシマブの減量や投与間隔の延長、場合によっては中止を検討することも一つの選択肢となります。臨床試験では、中止後も約半数の患者が1年間は良好な状態を維持したことが報告されています。
ただし、中止後に再発した場合、再投与時にアレルギー反応などの副作用が生じる可能性や、中止前と同等の効果が得られない可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
インフリキシマブには先発品(レミケード®)だけでなく、複数のバイオシミラー製剤が開発・承認されています。バイオシミラーとは、既に承認されているバイオ医薬品(先行バイオ医薬品)と同等性・同質性が示された後続のバイオ医薬品を指します。
日本で承認されているインフリキシマブのバイオシミラー製剤には、「インフリキシマブBS点滴静注用100mg「NK」」「インフリキシマブBS点滴静注用100mg「CTH」」「インフリキシマブBS点滴静注用100mg「あゆみ」」などがあります。
これらのバイオシミラー製剤は、先発品と以下の点で共通しています。
バイオシミラー製剤を選択する際の主な利点は、コスト面での優位性です。インフリキシマブのバイオシミラー製剤の薬価は24,994円と設定されており、先発品と比較して経済的負担を軽減できる可能性があります。
一方で、バイオシミラーへの切り替えや選択にあたっては、以下の点に注意が必要です。
インフリキシマブのバイオシミラー製剤は、外観上は白色の塊(凍結乾燥ケーキ)として提供され、使用前に適切な溶解液で溶解して点滴静注します。
医療機関がバイオシミラーを選択する主な理由は医療経済的な観点からですが、患者個々の状態や治療歴、アレルギー歴なども考慮した上で、最適な製剤を選択することが重要です。また、バイオシミラーへの切り替えを行う場合には、患者への十分な説明と同意が必要であり、切り替え後も慎重な経過観察が求められます。
インフリキシマブのバイオシミラー製剤に関する詳細な情報はPMDAの審査報告書で確認できます
インフリキシマブによる治療で症状がコントロールされた後、投与の中止や間隔延長を検討するケースがあります。特に感染症リスクや医療経済的負担の観点から、長期継続投与の必要性を再評価することは重要です。
関節リウマチ患者を対象とした臨床試験では、症状がほぼ抑えられた後にインフリキシマブを中止した場合、約55%の患者が中止後1年間、概ね落ち着いた状態を維持できたことが報告されています。この結果は、適切な症例選択によって投与中止が検討できる可能性を示唆しています。
しかし、インフリキシマブ中止後の再発リスクについても理解しておく必要があります。
インフリキシマブ投与中止を検討する際には、以下の要素を総合的に評価することが重要です。
また、インフリキシマブ中止後も定期的な経過観察を継続し、早期に再発の兆候を捉えることが重要です。再発の初期症状を患者自身が認識できるよう、適切な情報提供と教育も必要です。
長期寛解を維持できている患者において、個別化された中止戦略を立てることは、リスク・ベネフィットバランスを最適化する上で重要なアプローチと言えるでしょう。