カルバペネムが効かないアシネトバクターに、あなたが次に選ぶ薬が患者を救えないことがあります。

*Acinetobacter baumannii*(アシネトバクター・バウマニ)は土壌・水環境に広く分布するグラム陰性桿菌であり、健常者にはほとんど病原性を示しません。 これが「環境菌」という認識につながりますが、問題は免疫不全患者やICU入室患者への院内感染です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001523264.pdf
カテーテル関連血流感染症、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、創部感染症——これらがアシネトバクター感染の典型的な発症形態です。 健常者には無症状でも、集中治療室の重症患者では致命的になりえます。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
乾燥環境に強く、床・医療機器表面での生存期間が長いため、環境汚染から医療従事者の手を介して広がる経路がとくに問題です。 院内伝播が特徴的ということです。
参考)https://www.shizuokahospital.jp/media/sankou1.pdf
市中肺炎としての発症は東南アジア・オーストラリア北部などの特定地域では報告されていますが、日本では稀です。 日本で見るのは、ほぼ院内感染のケースと覚えておけばOKです。
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| 感染形態 | 代表的な病型 | 主なリスク患者 |
|---|---|---|
| 院内感染(主体) | VAP・血流感染・創部感染 | ICU長期入室、人工呼吸管理中 |
| 日和見感染 | 尿路感染・髄膜炎 | 免疫低下(血液疾患・移植後) |
| 市中肺炎(稀) | 重症肺炎 | 東南アジア渡航後など特定状況のみ |
カルバペネム系薬(イミペネム・メロペネム)は古典的にアシネトバクター属菌に対して良好な抗菌活性を有しており、重症感染症の標準治療薬と位置付けられています。 これが基本です。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
ただし、カルバペネム感受性アシネトバクター(CSAB)に対しても、適正使用の観点から代替薬を検討すべき場面があります。実際のJANIS 2019年データでは、全国のアシネトバクター属菌の93.6%がアンピシリン・スルバクタム(SAM)に感性を示しています。 非重症例ではSAMが現実的な選択肢となりえます。
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第3世代・第4世代セフェムへの感受性を示すことも珍しくなく、アシネトバクター菌血症においてセフェピム(第4世代)とカルバペネムが同等の治療効果を示した後方視的研究も報告されています。 これは使えそうです。
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ミノサイクリンは多くのアシネトバクター属菌が感性を示す抗菌薬ですが、臨床効果に関するエビデンスはケースシリーズが主体です。 確立されたエビデンスを待ちながら症例ごとに判断するのが原則です。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
日本における多剤耐性アシネトバクター(MDRA)の定義は、広域β-ラクタム剤・アミノ配糖体・フルオロキノロンの3系統すべてに耐性を示すアシネトバクター属菌です。 3系統の同時耐性が条件です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-43-01.html
一方、米国CDC基準ではセフェム・アミノグリコシド・カルバペネムを基準とするなど、国際的に定義が異なる点に注意が必要です。 文献を読む際に基準のすり合わせが必要ということですね。
参考)1/28-1-10.pdf">http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/28-1/28-1-10.pdf
MDRAは感染症法上の届出対象(5類感染症)であり、医療機関は検出時に保健所への届出義務を負います。 届出が義務です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-43-01.html
日本国内のアシネトバクターのカルバペネム耐性率は約0.4%と低水準です。 これは中国の53.4%と比較すると極めて低い数値です。しかしそれゆえに、日本の臨床現場では経験が少なく、いざ直面したときの対応準備が遅れやすいという別のリスクがあります。
参考)薬剤耐性菌(Antimicrobial resistant …
カルバペネム耐性アシネトバクター(CRAB)になると、治療の難易度は一気に上がります。CSAB株と比べてCRAB株では非β-ラクタム系薬の感受性も劇的に低下します——アミカシンは97.2%→16.1%、ST合剤は91.9%→19.8%と大きく落ちます。 痛いですね。
参考)基礎から臨床につなぐ 薬剤耐性菌のハナシ(48)|中外医学社…
コリスチンは2015年に日本で承認されたポリペプチド系抗菌薬で、CRABに対して活性を維持する(感性率97〜98%台)貴重な選択肢です。 ただし、プロドラッグであるため活性型の血中濃度達成に数日かかること、腎機能正常患者では目標血中濃度の達成が困難なケースがあること、高用量投与では腎障害リスクが高いことが課題です。
参考)基礎から臨床につなぐ 薬剤耐性菌のハナシ(48)|中外医学社…
チゲサイクリン(グリシルサイクリン系)は2012年に日本承認。しかし、血清・肺胞上皮被覆液中の濃度がMICを超えにくいという薬物動態上の欠点があり、ネットワークメタ解析で他の治療レジメンより微生物学的治癒率が低いことが示されています。 つまり単剤使用には慎重さが必要です。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
注目すべきは、コリスチン単剤 vs コリスチン+メロペネム(2g×3回/日、長時間投与)のランダム化比較試験(Lancet Infect Dis, 2018)で、治療失敗率に両群で差がなかった点です。 「組み合わせれば絶対有利」という思い込みを覆すデータです。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
| 薬剤 | CRAB感性率 | 主な懸念点 |
|---|---|---|
| コリスチン | 97〜98% | 腎毒性・血中濃度達成困難 |
| チゲサイクリン | 多くで感性 | 組織移行性の問題・微生物学的治癒率低下 |
| スルバクタム(SAM) | 0〜30%(CRAB株) | 感受性が大きく変動する |
| アミカシン | 約16%(CRAB株) | CRAB株では感受性激減 |
国立感染症研究所(IASR):薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療(2021年3月号) — コリスチン・チゲサイクリン・スルバクタムの臨床データと最新知見をまとめた公的資料
近年承認が進んだセフタジジム・アビバクタムやメロペネム・バボルバクタムは、カルバペネム耐性腸内細菌目感染症には有効です。しかし、CRABには活性を持ちません。 これは重要な見落としポイントです。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
セフィデロコル(Cefiderocol)は鉄イオンをトロイの木馬として利用して菌体内に取り込まれる、シデロフォア型セファロスポリン(カテコール側鎖保有)です。CRABを含む多剤耐性グラム陰性桿菌に活性を有することが示されており、新たな選択肢として国際的に期待されています。 これは使えそうです。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
エラバサイクリン(Eravacycline)は新規合成テトラサイクリンであり、チゲサイクリンの薬物動態的欠点を改善した薬剤として開発されています。 CRABへの活性も期待されていますが、日本での承認状況は確認が必要です。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
感染症学会(IDSA)のAMR治療ガイダンスでは、これら新規薬剤のCRABへの位置づけが随時更新されています。 最新情報のキャッチアップが必要ということですね。
参考)薬剤耐性アシネトバクター感染症の治療|国立健康危機管理研究機…
日本感染症学会:薬剤耐性菌(AMR)解説ページ — アシネトバクターを含む耐性菌の国内外の耐性率データと対策について確認できる
MDRAの院内伝播対策において、「抗菌薬療法の最適化」と「感染制御バンドル」を切り離して考えることが最大の落とし穴です。 個別対応では不十分なのです。
参考)多剤耐性グラム陰性菌における抗菌薬適正使用 多剤耐性アシネト…
日本の研究・施策では、カルバペネム系抗菌薬の適正使用(AMS)を軸に、①接触感染予防策(手指衛生・個人防護具)、②環境清掃の強化(床・医療機器の消毒)、③患者コホーティング——この3要素をセットにしたバンドル実施が有効と報告されています。 バンドルの徹底が原則です。
参考)多剤耐性グラム陰性菌における抗菌薬適正使用 多剤耐性アシネト…
アシネトバクターは乾燥・消毒薬に比較的強く、環境表面で数週間以上生存できるケースもあります。 これは多くの医療従事者の感覚より長い生存期間です。手指衛生だけでなく、病室・ユニット内の定期的な環境培養によるサーベイランスが感染拡大を早期に察知する実践的な手法として推奨されます。
参考)https://www.shizuokahospital.jp/media/sankou1.pdf
さらに、ICUスタッフへの定期的な教育——とくに「カルバペネムが効かなくなった段階で非β-ラクタム系薬も同時に感性を失う(CRAB株のゲノム可塑性)」という知識の共有——が、経験論的な無効治療の継続を防ぐ鍵になります。 知識のアップデートが必要です。
参考)基礎から臨床につなぐ 薬剤耐性菌のハナシ(48)|中外医学社…
厚生労働省:42 薬剤耐性アシネトバクター感染症 — MDRAの定義・届出基準・感染防止策についての公式情報
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