ACE阻害薬の種類と一覧:効果と副作用を解説

ACE阻害薬は高血圧治療の重要な薬剤として広く使用されています。現在12種類が使用可能で、それぞれ異なる特徴を持ちます。効果的な治療選択のためには各薬剤の特性を理解することが重要ではないでしょうか?

ACE阻害薬の種類と一覧

ACE阻害薬の基本情報
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薬剤数

現在12種類のACE阻害薬が臨床使用されています

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作用機序

アンジオテンシンⅡの産生を阻害し血管収縮を抑制

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主な副作用

空咳と血管性浮腫が特徴的な副作用として知られています

ACE阻害薬の主な種類と特徴

ACE阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素を阻害することでアンジオテンシンⅡの産生を抑制し、血管収縮と血圧上昇を防ぐ降圧薬です。現在、日本で使用可能なACE阻害薬は12種類存在し、それぞれ異なる薬物動態学的特性を持っています。

 

ACE阻害薬は作用機序により以下のように分類されます。
未変化体が直接作用するタイプ

  • カプトプリル(カプトリル)
  • リシノプリル(ロンゲス、ゼストリル)

プロドラッグタイプ(代謝物が活性を示す)

  • エナラプリル(レニベース)
  • イミダプリル(タナトリル)
  • テモカプリル(エースコール)
  • シラザプリル(インヒベース)

これらの薬剤は、レニン-アンジオテンシン系において血圧上昇に関与するアンジオテンシンⅡの働きを抑制することで降圧効果を発揮します。また、ACE阻害薬はブラジキニンの分解も阻害するため、NO(一酸化窒素)の遊離促進による血管拡張作用も降圧効果に寄与しています。

 

ACE阻害薬一覧表と商品名

以下に、現在臨床で使用されているACE阻害薬の詳細な一覧を示します。

一般名 商品名 規格 主な適応症
カプトプリル カプトリル 細粒5%、錠12.5mg/25mg、Rカプセル18.75mg 本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧
エナラプリル レニベース 錠2.5mg/5mg/10mg、細粒 高血圧症、慢性心不全
アラセプリル セタプリル 錠25mg 本態性高血圧症、腎性高血圧症
デラプリル アデカット 錠7.5mg/15mg/30mg 本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症
リシノプリル ロンゲス 錠5mg/10mg/20mg 高血圧症、慢性心不全
ベナゼプリル チバセン 錠2.5mg/5mg/10mg 高血圧症
イミダプリル タナトリル 錠2.5mg/5mg/10mg 高血圧症、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症
テモカプリル エースコール 錠1mg/2mg/4mg 高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症
トランドラプリル オドリック 錠0.5mg/1mg 高血圧症
ペリンドプリル コバシル 錠2mg/4mg 高血圧症

注目すべき点として、シラザプリルとキナプリルは現在販売中止となっており、臨床では他の薬剤への切り替えが行われています。

 

各薬剤の排泄経路にも違いがあり、テモカプリルは胆汁中および尿中に排泄される一方、その他のACE阻害薬は主に尿中に排泄されます。この特性により、腎機能障害患者における薬剤選択において重要な考慮事項となります。

 

ACE阻害薬の副作用と注意点

ACE阻害薬の最も特徴的な副作用は**空咳(乾性咳嗽)**です。この副作用は、ACE阻害薬がブラジキニンの分解を阻害することで、ブラジキニンの蓄積が起こり、気道刺激症状として現れます。特に日本人を含むアジア人に多く見られる副作用として知られており、発症率は10-15%程度とされています。

 

主な副作用一覧

  • 空咳(乾性咳嗽):10-15%の患者に発症
  • 血管性浮腫:稀だが重篤な副作用
  • 高カリウム血症:腎機能低下時に注意
  • 急性腎障害:特に脱水時や腎血管性高血圧患者
  • 低血圧:初回服用時や用量増加時

血管性浮腫は、顔面、唇、舌、咽頭などに起こる浮腫で、気道閉塞を引き起こす可能性がある重篤な副作用です。発症頻度は低いものの、生命に関わる可能性があるため、投与開始時には十分な観察が必要です。

 

絶対禁忌・慎重投与

  • 妊娠中・授乳中の女性:胎児・新生児への悪影響
  • 両側腎動脈狭窄または片腎で腎動脈狭窄
  • 過去にACE阻害薬で血管性浮腫の既往
  • 重篤な腎機能障害

興味深いことに、ACE阻害薬による咳の副作用を逆手に取り、誤嚥性肺炎の予防目的で意図的に咳反射を促進させる治療法も存在します。これは高齢者における嚥下機能低下に対する新しいアプローチとして注目されています。

 

ACE阻害薬の適応疾患と使い分け

ACE阻害薬は「高血圧治療ガイドライン2014」において、カルシウム拮抗薬、ARB、利尿薬とともに第一選択薬として位置づけられています。しかし、合併症の種類によって積極的使用が推奨される場面があります。

 

積極的使用が推奨される合併症

特に、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症に対しては、イミダプリル(タナトリル)が唯一適応を有しており、腎保護作用が期待されています。これは、ACE阻害薬が糸球体内圧を低下させることで、腎機能の進行性悪化を抑制する効果によるものです。

 

心不全に対するACE阻害薬の使用では、エナラプリルとリシノプリルが適応を有しており、心筋リモデリングの抑制や予後改善効果が確認されています。

 

ARBとの使い分け
エビデンスの観点から、心筋梗塞抑制効果についてはACE阻害薬の方がARBよりも優位性があるとされています。一方、空咳や血管性浮腫の副作用を考慮すると、ARBの方が忍容性に優れています。

 

したがって、心血管イベントの高リスク患者では初回選択としてACE阻害薬を考慮し、副作用で継続困難な場合にARBへの変更を検討するのが一般的な戦略です。

 

ACE阻害薬の薬物動態と代謝経路の臨床的意義

ACE阻害薬の薬物動態学的特性は、臨床における薬剤選択において重要な判断材料となります。この観点は従来あまり注目されてこなかった分野ですが、個別化医療の観点から重要性が増しています。

 

薬物動態による分類

  1. 腎排泄型薬剤
    • カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、イミダプリル
    • 腎機能低下時には用量調節が必要
    • クレアチニンクリアランス30mL/min未満では慎重投与
  2. 肝胆道排泄型薬剤
    • テモカプリル:胆汁中排泄が50%、尿中排泄が50%
    • 腎機能障害患者により適している
    • 肝機能障害時には注意が必要
  3. プロドラッグタイプの代謝特性
    • エナラプリル → エナラプリラト(活性代謝物)
    • イミダプリル → イミダプリラト
    • テモカプリル → テモカプリラト
    • 肝機能による活性化が必要

臨床的な薬剤選択への応用
高齢者では腎機能低下を伴うことが多いため、テモカプリルのような胆汁排泄型薬剤の選択が有利となる場合があります。また、肝硬変などの肝機能障害患者では、未変化体で活性を示すカプトプリルやリシノプリルが適している可能性があります。

 

相互作用の観点
利尿薬との併用時には、ナトリウム排泄低下により代償的にレニン-アンジオテンシン系が亢進するため、ACE阻害薬併用により過度の血圧低下が起こる可能性があります。これは配合剤の有効性を示す根拠でもあり、現在多くのACE阻害薬と利尿薬の配合剤が開発されています。

 

効果発現時期と評価タイミング
ACE阻害薬は即効性ではなく、有効性の評価は投与開始から4-8週後に行われます。この特性を理解することで、患者への適切な説明と治療継続率の向上につながります。

 

薬物動態学的特性を考慮した薬剤選択により、副作用の軽減と治療効果の最大化を図ることができ、これは精密医療の実現において重要な要素となっています。

 

高血圧治療における降圧薬の種類と副作用について詳細な情報
https://fuelcells.org/topics/31776/
ACE阻害薬の作用機序と構造に関する詳細な研究情報
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7097707/