キナプリル販売中止で知っておくべき代替薬の選び方

キナプリル(コナン錠)が販売中止になったとき、「同じACE阻害薬に切り替えれば大丈夫」と思っていませんか?実は切り替えには注意すべきポイントがあります。正しい知識を確認してみませんか?

キナプリル販売中止の理由と代替薬・切り替えの注意点

空咳が出ていないのに、薬の切り替えで突然咳が止まらなくなることがあります。


この記事のポイント
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キナプリル(コナン錠)は2022年3月に製造中止

1995年の販売開始から約26年、田辺三菱製薬が製造・販売していたACE阻害薬「コナン錠(キナプリル塩酸塩)」は2021年7月に販売中止、2022年3月に経過措置期間が終了しました。

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ジェネリック医薬品は存在しない

キナプリルには後発品(ジェネリック)が存在しません。代替はACE阻害薬の中から構造的に近い「カルボン酸タイプ」を選ぶか、ARBへの切り替えが検討されます。

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切り替え時は副作用・体質の確認が必須

ACE阻害薬全般には空咳の副作用があり、日本人(東洋人)は白人より高頻度に発現します。切り替え後に咳が現れた場合の対処も事前に把握しておくことが大切です。


キナプリル(コナン錠)が販売中止になった背景と経緯

キナプリル塩酸塩を主成分とする「コナン錠」は、1995年9月に田辺三菱製薬(当時)が販売を開始した、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬の一種です。もともとは米国ワーナー・ランバート社(現:ファイザー社)が開発した成分で、日本では1995年6月に承認を取得しました。販売開始から約26年間にわたって高血圧症の治療薬として使われてきた薬です。


「コナン」という名前は某アニメの名探偵を連想させますが、実は薬の名前の由来は全く別です。CONVERT(変換)+ANGIOTENSIN(アンジオテンシン)+ANGIO(血管)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、ACEがアンジオテンシンを変換する作用にちなんでいます。


販売中止の公式な理由は「需要の減少による製造販売継続が困難」とされています。近年、製薬業界では長期収載品のポートフォリオ見直しが加速しており、単一適応(高血圧症のみ)の薬は、複数適応を持つ薬より市場からの撤退リスクが高い傾向にあります。


つまり、ビジネス上の合理化が主な理由ということですね。


キナプリルの販売中止スケジュールは下記のとおりです。


| 時期 | 内容 |
|------|------|
| 2021年7月 | 販売中止(在庫がなくなり次第) |
| 2022年3月 | 経過措置期間終了(薬価基準からの削除) |


注目すべき点は、キナプリルにはジェネリック医薬品(後発品)が存在しなかったという事実です。コナン錠は先発品のまま終売を迎えたため、「同じ成分の安い後発品に切り替える」という選択肢は最初から存在しませんでした。これは患者にとって「ジェネリックに変えればいい」という単純な話ではなく、別の薬剤への本格的な切り替えが必要になるということを意味します。


参考:コナン錠の販売中止と代替品について(薬学専門ブログ・YG研究会)


コナン錠 販売中止と代替品 – YG研究会 賢く生きる


キナプリル販売中止後の代替薬一覧と各薬剤の特徴

キナプリルはACE阻害薬の中でも「カルボン酸タイプ」に分類されます。ACE阻害薬は構造の違いによって、①チオール(SH基)タイプ、②カルボン酸タイプ、③7員環タイプ、の3種類に大別されます。化学構造が似ていると薬理作用も類似するため、代替薬を選ぶ際はカルボン酸タイプから選ぶのがセオリーです。


カルボン酸タイプの主なACE阻害薬は以下のとおりです。


| 一般名 | 主な商品名 | 主な適応 | 備考 |
|--------|-----------|--------|------|
| エナラプリルマレイン酸塩 | レニベース他 | 高血圧症、慢性心不全 | ジェネリックあり/最も処方頻度が高い |
| イミダプリル塩酸塩 | タナトリル他 | 高血圧症、糖尿病性腎症 | 糖尿病性腎症の適応あり |
| ペリンドプリルエルブミン | コバシル | 高血圧症 | 先発品のみ |
| リシノプリル | ロンゲス・ゼストリル | 高血圧症、慢性心不全 | ジェネリックあり |
| テモカプリル塩酸塩 | エースコール | 高血圧症 | 腎実質性・腎血管性高血圧にも適応 |


代替薬として特に選ばれやすいのはエナラプリルです。理由として、処方シェアが最も高く(ACE阻害薬の中でシェア首位)、高血圧症のほかに慢性心不全の適応も持つため将来的に市場から消えにくいと考えられています。ジェネリックも豊富に揃っており、薬価が安価で管理しやすい点も医師・患者双方にとってメリットとなります。


糖尿病性腎症を合併している患者には、イミダプリル(タナトリル)が適切な選択肢の一つになります。このように、代替薬の選択は患者の合併症や背景疾患によって変わります。主治医への相談が条件です。


参考:ACE阻害薬の商品一覧と薬価情報


高血圧の薬(ARBとACE阻害薬)一覧 ~管理薬剤師.com


キナプリル販売中止後の切り替えで知っておくべき空咳のリスク

ACE阻害薬全般に共通する、最もよく知られた副作用が「空咳(からぜき)」です。この副作用の発現率は5〜35%とかなり幅があり、薬剤によって多少の差はありますが、クラス全体として起こりうる反応とされています。


この咳が起こるメカニズムはこうです。ACE(アンジオテンシン変換酵素)は肺においてブラジキニンという物質を分解する役割も担っています。ACE阻害薬でこの酵素を抑えてしまうと、ブラジキニンが分解されずに蓄積し、気道を刺激して乾いた咳が引き起こされます。痰がからまない「乾性咳嗽」が特徴で、夜間に多く、女性・非喫煙者に起こりやすいとされています。


特に重要なのは民族差です。


白人(欧米人)における空咳の発現率が概ね5〜10%程度なのに対し、東洋人(日本人を含む)では10〜20%と約2倍程度の頻度で起こりやすいことが研究で報告されています。これはACE阻害薬全般に共通する特徴です。


つまり、「欧米で問題なかったから大丈夫」という認識は危険です。


キナプリルから別のACE阻害薬に切り替えた場合でも、同様に空咳が出る可能性は十分にあります。もし空咳が出た場合は、一般的にはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)への変更が検討されます。ARBはACE阻害薬と同様に降圧作用を持ちながら、ブラジキニンへの影響が少ないため、空咳の副作用はほとんど現れません。空咳に悩んでいる場合、ARBへの切り替えで症状が改善されるケースが多いです。


空咳は投薬中止後、通常1週間以内に消失するとされています。これは覚えておくとよいポイントです。


キナプリル販売中止に伴うARBへの切り替えで注意すべきポイント

ACE阻害薬からARBへの切り替えは比較的スムーズに行われるケースが多いです。ただし、特定の状況では厳格なルールが存在します。注意が必要なのは、エンレスト(サクビトリルバルサルタン)という心不全治療薬への切り替え時です。


エンレストはARBとネプリライシン阻害薬を組み合わせた薬(ARNI)で、ブラジキニンを分解する酵素の働きも抑えます。ACE阻害薬と併用するとブラジキニンが過剰に蓄積し、生命を脅かすほどの重篤な血管性浮腫(顔や喉の腫れ)を引き起こすリスクがあります。そのため、ACE阻害薬からエンレストに切り替える際は、少なくとも36時間の休薬期間が義務付けられています。


血管性浮腫は怖い副作用です。


✅ ARBへ切り替えるときの主なチェックポイント


- 💬 主治医・薬剤師に必ず申告する:飲んでいた薬の名前(コナン錠・キナプリル)を正確に伝える
- ⏰ エンレストへの切り替えは36時間の間隔:ACE阻害薬の最終服用から36時間以上空けることが必須
- 🩺 腎機能・カリウム値の確認:ARB・ACE阻害薬はどちらも高カリウム血症・腎機能低下のリスクがある
- 🔄 切り替え直後の血圧変動に注意:降圧薬の変更直後は血圧が一時的に変動することがある


また、ACE阻害薬とARBの「併用は推奨されない」点も重要な知識です。どちらもレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS系)を抑える薬であり、同系統の2剤を重ねることで腎機能障害・高カリウム血症のリスクが高まります。切り替えの場合でも、一方を完全に中止してから次の薬を開始するのが原則です。


参考:エンレスト適正使用ガイド(PMDA)


エンレスト 適正使用ガイド(PMDA)


キナプリル販売中止が示す「薬の終売」と患者が取るべき対応策

キナプリルの販売中止は決して特異な出来事ではありません。近年、製薬業界では後発品のある長期収載品だけでなく、先発品であっても市場規模が縮小した医薬品の整理・撤退が相次いでいます。需要減少・薬価引き下げの繰り返し・製造ラインの維持コスト増大、これらが重なって採算が合わなくなるのが主な理由です。


実際、同じACE阻害薬のイミダプリル(タナトリル)後発品でも複数の製薬会社が販売中止を発表しており、2024年〜2025年にかけてイミダプリル関連の販売中止情報が相次いでいます。長期的に薬を飲み続ける慢性疾患の患者にとって、「使い慣れた薬がなくなる」というリスクは現実の問題です。


では、患者が今からできることは何でしょうか?


まず最初にすべきことは、「現在飲んでいる薬がいつまで供給される薬か」を主治医か薬剤師に確認することです。薬の供給状況は厚生労働省や各製薬会社が公式に情報を公開しており、医療機関・薬局では随時最新情報を把握できます。医薬品の供給状況データベース「DSJP(Drug Shortage Japan)」などのウェブサービスで一般の方も確認できます。


次に、薬の切り替えが必要になったとき、「この薬はどんな作用の薬か」「同じ系統の代替薬はあるか」を大まかに理解しておくと、医師との会話がスムーズになります。一言で言えば「自分の薬を知る」ことがリスク軽減につながります。


厳しいところですね。


✅ 薬の終売リスクに備えるための行動


- 📋 飲んでいる薬のリストを作る:商品名・一般名・用量をメモして保管しておく
- 🔍 薬剤師に供給状況を尋ねる:定期受診のたびに「この薬、安定供給されていますか?」と確認する
- 📲 DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)を活用する:供給不足や販売中止情報を検索できる
- 🏥 かかりつけ医に合併症・希望を伝える:代替薬選択の際に自分の背景(糖尿病、腎臓病など)が重要になる


参考:医療用医薬品供給状況データベース(DSJP)


DSJP|医療用医薬品供給状況データベース