テルミサルタンは主に胆汁中に排泄される薬剤であり、重篤な肝障害患者では絶対禁忌となります。この禁忌設定には明確な薬物動態学的根拠があります。
肝障害患者におけるテルミサルタンの血中濃度は、健常者と比較して約3~4.5倍上昇することが海外臨床試験で確認されています。この血中濃度上昇は以下の機序によるものです。
特に胆汁の分泌が極めて悪い患者では、テルミサルタンの蓄積により重篤な副作用リスクが格段に高まります。医療従事者は肝機能検査値(AST、ALT、総ビリルビン値)を必ず確認し、Child-Pugh分類でClass Cに該当する患者への投与は厳格に避ける必要があります。
軽度から中等度の肝機能障害患者においても、最大投与量は1日40mgに制限され、定期的な肝機能モニタリングが必須となります。
妊婦または妊娠している可能性のある女性に対するテルミサルタンの投与は絶対禁忌です。この禁忌設定は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)特有の胎児毒性に基づいています。
妊娠中期から末期にかけてのテルミサルタン投与により、以下の重篤な胎児・新生児への影響が報告されています。
胎児期の影響 🚨
新生児期の影響
これらの影響は、胎児期におけるレニン-アンジオテンシン系の重要な生理的役割と密接に関連しています。胎児の腎発達や循環動態の維持において、アンジオテンシンIIは不可欠な因子であり、その受容体を阻害することで重篤な発達異常を引き起こします。
妊娠可能年齢の女性患者に対しては、投与開始前の妊娠検査実施と、治療期間中の確実な避妊指導が必要不可欠です。投与中に妊娠が判明した場合は、直ちに投与を中止し、産科医との連携による胎児モニタリングを開始する必要があります。
テルミサルタンの成分に対する過敏症の既往歴がある患者では、重篤なアレルギー反応のリスクから絶対禁忌となります。過敏症反応は投与後数分から数時間以内に発現する可能性があり、医療従事者は初回投与時の慎重な観察が必要です。
重大な過敏症反応の症状 ⚠️
テルミサルタンによる血管浮腫は、特に咽頭や喉頭に発現した場合、気道閉塞による生命危険を伴います。この反応は、ブラジキニン分解酵素の阻害により血管透過性が亢進することで発症します。
過敏症の既往確認においては、以下の点に注意が必要です。
医療従事者は初回投与前に詳細なアレルギー歴の聴取を行い、疑わしい場合は皮膚テストや代替薬剤の検討を行う必要があります。
糖尿病患者におけるテルミサルタンとアリスキレンフマル酸塩の併用は、重篤な合併症リスクから禁忌とされています。ただし、他の降圧治療でも血圧コントロールが著しく不良な患者は例外的に併用可能です。
この併用禁忌の根拠となる臨床試験データでは、以下の重篤な有害事象の増加が確認されています。
併用による主要リスク 📊
これらのリスク増加は、レニン-アンジオテンシン系の過度な抑制により生じます。アリスキレン(直接的レニン阻害薬)とテルミサルタン(ARB)の併用により、アンジオテンシンII産生が過剰に抑制され、腎血流量の著明な減少や電解質異常を引き起こします。
特に糖尿病患者では、既存の腎症により腎機能予備能が低下しているため、レニン-アンジオテンシン系の過度な抑制は急速な腎機能悪化を招く危険性があります。
併用禁忌の例外条件
例外的併用を行う場合でも、腎機能(血清クレアチニン、eGFR)、電解質(カリウム、ナトリウム)、血圧の厳重なモニタリングが必要不可欠です。
両側性腎動脈狭窄または片腎で腎動脈狭窄を有する患者では、テルミサルタン投与により急速な腎機能悪化のリスクがあります。しかし、臨床現場では画像診断による腎動脈狭窄の確定診断が困難な場合も多く、独自の臨床判断基準が重要となります。
腎動脈狭窄を疑う臨床所見 🔍
従来の診断基準に加えて、以下の独自指標を用いた総合的評価が有用です。
新たな評価指標
これらの所見が複数認められる場合は、画像診断(造影CT、MRA、腎動脈造影)による確定診断を行う前に、テルミサルタンの投与開始を慎重に検討する必要があります。
投与が必要と判断される場合は、最低用量(20mg)から開始し、投与後48-72時間以内の腎機能チェックを必須とし、血清クレアチニン値が30%以上上昇した場合は直ちに投与を中止する厳格なプロトコルの確立が重要です。