テルミサルタンには明確に定められた禁忌事項があり、これらを理解することは安全な処方において極めて重要です。
絶対禁忌となる患者群:
妊娠中の使用が禁忌とされる理由は、妊娠中期~後期における使用により胎児の腎障害、頭蓋形成不全、肺形成不全、死亡等の重篤な影響が報告されているためです。アンジオテンシン変換酵素阻害剤やアンジオテンシンII受容体拮抗薬を妊娠中に使用した際の胎児・新生児への影響は深刻であり、妊娠する可能性のある女性への処方時は代替薬の検討が必要です。
胆汁分泌不良患者や重篤な肝障害患者への禁忌は、テルミサルタンが主に胆汁中に排泄される特性に基づいています。肝障害患者ではテルミサルタンの血中濃度が約3~4.5倍上昇することが海外で報告されており、薬物蓄積による副作用リスクが高まります。
テルミサルタンはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)として、血管平滑筋のAT1受容体に対して高い親和性(Ki=3.7nM)を示し、生理的昇圧物質であるアンジオテンシンIIと特異的に拮抗します。
作用機序の特徴:
降圧効果については、動物実験において腎血管性高血圧ラットに1mg/kgを4日間投与した際に最大55mmHgの降圧作用が確認されています。高血圧自然発症ラットでの検討では、0.3、1、3mg/kgの投与により、それぞれ最大で23、22、38mmHgの降圧作用を示しました。
臨床試験では、軽・中等症本態性高血圧患者を対象とした比較試験において、テルミサルタン20mgとエナラプリル5mgを比較した結果、同等以上の降圧効果が確認されています。特に24時間にわたる持続的な降圧効果により、早朝の血圧上昇抑制に優れた効果を発揮します。
テルミサルタンの重大な副作用として、血管浮腫、高カリウム血症、腎機能障害、ショック、失神、意識消失、肝機能障害、黄疸、低血糖、アナフィラキシー、間質性肺炎、横紋筋融解症が報告されています。
特に注意が必要な患者背景:
高カリウム血症は特に注意すべき副作用の一つです。カリウム保持性利尿剤やカリウム補給剤との併用時は血清カリウム濃度が上昇するおそれがあり、特に腎機能障害患者では定期的な電解質モニタリングが必要です。
肝機能障害のある患者では、中等度・軽度の肝障害であってもテルミサルタンのクリアランスが低下する可能性があります。これは主に胆汁排泄型薬剤である特性に起因するため、肝機能に応じた用量調整が重要です。
テルミサルタンは比較的薬物相互作用が少ない薬剤とされていますが、併用薬によっては重要な相互作用を示すことがあります。
主要な薬物相互作用:
リチウム製剤との併用では、テルミサルタンがナトリウム排泄を促進することによりリチウムイオンの貯留が促進され、リチウム中毒を引き起こす可能性があります。ジギタリス製剤との併用時は機序不明ながら血中ジゴキシン濃度の上昇が報告されており、定期的な血中濃度モニタリングが推奨されます。
NSAIDsとの併用は二重の問題を引き起こします。プロスタグランジン合成阻害により腎血流量が低下し腎機能障害のリスクが高まる一方、血管拡張作用を有するプロスタグランジンの合成阻害により降圧効果が減弱する可能性があります。
他のレニン・アンジオテンシン系阻害薬との併用は、レニン・アンジオテンシン系の過度な抑制により急性腎障害、高カリウム血症、低血圧を引き起こすリスクが高いため、原則として避けるべきです。
テルミサルタンの最も特徴的な薬物動態学的特性は、主に胆汁から排泄される点です。この特性は他のARBとは異なる独特の臨床的メリットをもたらします。
胆汁排泄型の臨床的意義:
この胆汁排泄特性により、慢性腎臓病患者においても用量調整なしに使用できることが大きな利点です。一般的に腎排泄型薬剤では腎機能低下に応じた用量調整が必要ですが、テルミサルタンでは腎機能の程度にかかわらず通常用量での投与が可能です。
ただし、この特性は肝胆道系機能が重要であることも意味します。胆汁うっ滞や重篤な肝障害がある患者では薬物の排泄が著しく阻害され、血中濃度の異常上昇を引き起こす可能性があります。そのため、これらの患者群は絶対禁忌とされています。
また、食事の影響についても理解が重要です。食後投与では空腹時に比べて血中濃度が低下する傾向があるため、同一の服薬タイミング(食後または食間)での継続投与が推奨されます。
テルミサルタンの胆汁排泄特性を活かした処方戦略として、腎機能低下を伴う高血圧患者や多剤併用が必要な高齢者への第一選択薬としての位置づけが考えられます。薬物相互作用のリスクが低いことから、複数の併存疾患を有する患者の血圧管理において特に有用性が高い薬剤といえるでしょう。
医薬品添付文書情報の詳細については以下を参照してください。
テルミサルタン錠の添付文書(JAPIC)