手足口病は主にエンテロウイルス属に属するウイルスによって引き起こされる感染症です。特にコクサッキーウイルスA16型とエンテロウイルス71型が主な原因ウイルスとして知られていますが、コクサッキーウイルスA6型やA10型なども関与することがあります。これらのウイルスは複数存在するため、一度手足口病にかかった人でも別のタイプのウイルスによって再び感染することがあります。
感染経路としては主に以下の3つが挙げられます。
特に注目すべき点として、手足口病に感染した人は症状が改善した後も、2〜4週間程度は便中にウイルスを排出し続けることがあります。そのため、特に保育園や幼稚園などの集団生活の場では集団感染が起こりやすく注意が必要です。
潜伏期間は通常2〜5日で、この間にウイルスが体内で増殖します。感染力が最も強いのは発症直後ですが、上述のように回復後もしばらくは感染力を持つことが特徴です。
手足口病の症状は比較的特徴的であり、臨床所見から診断されることがほとんどです。主な症状とその経過について理解しておきましょう。
初期症状(発症1〜2日目)
主要症状(発症2〜3日目以降)
手足口病の皮膚症状の特徴として、以下の点が挙げられます。
診断は主に臨床症状に基づいて行われ、特別な検査は通常必要ありません。ただし、症状が非典型的な場合や重症例では、血液検査やウイルス検査が実施されることもあります。
手足口病とヘルパンギーナの鑑別診断のポイントとして、以下の表を参考にしてください。
特徴 | 手足口病 | ヘルパンギーナ |
---|---|---|
発疹の部位 | 口内、手足、時におしりなど | 口内(主に咽頭)のみ |
発熱の程度 | 37〜38℃程度(軽度) | 39〜40℃程度(高熱) |
流行のピーク | 7〜8月 | 6〜7月 |
手足口病は現時点では特効薬が存在せず、対症療法が基本となります。ウイルス性感染症であるため、抗生物質は効果がありません。治療の主な目的は患者の不快な症状を緩和し、合併症を予防することにあります。
基本的な治療アプローチ
解熱鎮痛薬の使用
口内痛への対応策
口内の水疱や潰瘍によって飲食が困難になる場合が多いため、以下のような対応が推奨されます。
水分補給の重要性
特に夏場は脱水のリスクが高まるため、以下の点に注意しましょう。
一般的に手足口病は1週間程度で自然治癒しますが、症状によっては医師の診察が必要です。特に重症例や合併症が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
手足口病は通常は良性の経過をたどる疾患ですが、稀に重篤な合併症を引き起こすことがあります。特にエンテロウイルス71型による感染では、神経系の合併症リスクが高まることが報告されています。
主な合併症
以下のような症状が見られた場合は、合併症の可能性があるため、直ちに医療機関を受診する必要があります。
合併症が発生した場合は、入院治療が必要となることがあります。合併症の治療は症状に応じて以下のように行われます。
合併症の発生率は低いものの、特に5歳未満の乳幼児では注意が必要です。迅速な対応によって予後が大きく改善する可能性があるため、異常を感じたらためらわずに医療機関を受診することが重要です。
手足口病は明確な季節性を持つ感染症で、日本では主に夏季から秋季にかけて流行します。この季節変動と各年齢層における特徴について理解することは、予防対策や臨床診断において重要です。
季節性流行のパターン
年齢層別の特徴
興味深いことに、流行株のウイルスタイプは年によって変動します。例えば、コクサッキーA6型が流行した年は、成人の感染例や非典型的な症状(爪の脱落など)の報告が増加したという研究結果もあります。
また、免疫学的に見ると、乳幼児期に様々なタイプのエンテロウイルスに接触することで獲得免疫が形成されますが、成人になってから初感染すると免疫反応が強く出るため、症状が重くなる傾向があります。
各年齢層の特性を理解することで、適切な予防対策や診断、治療アプローチを選択することができます。特に保育施設や学校では、年齢に応じた感染対策の工夫が必要です。
手足口病の予防には特異的なワクチンや予防薬が存在しないため、基本的な衛生管理と感染予防策が非常に重要です。医療従事者として知っておくべき効果的な予防法と感染拡大防止策について解説します。
基本的な予防策
集団生活における感染拡大防止策
保育園・幼稚園・学校などでの対策。
医療機関での感染対策
医療従事者が特に注意すべきポイント。
家庭内での対応
手足口病患者がいる家庭での注意点。
手足口病の流行時期には、以上の予防策を強化することが重要です。特に集団感染のリスクが高い保育施設や医療機関では、早期発見と適切な対応が感染拡大防止の鍵となります。
予防対策の実践にあたっては、単に指示するだけでなく、予防の重要性や手洗いの正しい方法など、具体的な教育を行うことが効果的です。特に子どもたちには、年齢に応じた分かりやすい指導が求められます。
日本小児感染症学会のガイドラインによれば、手足口病の症状が軽快し、全身状態が良好であれば、必ずしも登園・登校を控える必要はないとされていますが、施設の方針や流行状況に応じた判断が必要です。