ヘルパンギーナの原因となる病原体は、主にエンテロウイルス属に分類されるウイルス群です。最も頻度の高い病原体はコクサッキーウイルスA群(CVA)で、特にCVA16、CVA6、CVA10が主要な血清型として知られています。
しかし、ヘルパンギーナの病原体は単一ではなく、以下のような多様なウイルスが関与します。
感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。感染者の咽頭分泌物や便中に排泄されたウイルスが、健常者の口腔や鼻腔粘膜から侵入し感染が成立します。ウイルスは便中に数週間から数か月間排泄され続けるため、おむつ交換時の接触感染にも注意が必要です。
潜伏期間は2-4日で、この期間中にウイルスは咽頭や腸管で増殖します。興味深いことに、同一の患者が異なる血清型のウイルスに感染することで、同じシーズン内に複数回ヘルパンギーナを発症する可能性があります。
ヘルパンギーナの初期症状は、突然の高熱から始まることが特徴的です。発熱は38-40℃の高熱で、特に39℃以上の発熱が1-3日間持続します。
初期症状の典型的な経過。
第1病日
第2-3病日
第4-7病日
水疱の特徴的な分布は診断の重要な手がかりとなります。ヘルパンギーナでは口腔前方部(舌先、歯肉など)への水疱形成は稀で、主に咽頭奥に限局することが手足口病との鑑別点となります。
ヘルパンギーナの発症には明確な年齢依存性があり、患者の90%以上が5歳以下の小児です。年齢別の発症パターンを詳しく見ると。
年齢群 | 発症割合 | 平均最高体温 | 特徴 |
---|---|---|---|
0歳 | 約15% | 39.5℃ | 脱水リスク高 |
1歳 | 最多 | 39.8℃ | 熱性痙攣リスク |
2-3歳 | 多い | 39.6℃ | 症状の訴えが可能 |
4-5歳 | 中等度 | 39.2℃ | 合併症は稀 |
成人 | 稀 | 38-39℃ | 重症化傾向 |
1歳代が最も発症頻度が高い理由として、母体からの移行抗体の減衰と、保育園などでの集団生活開始による曝露機会の増加が挙げられます。
成人でのヘルパンギーナ発症は稀ですが、発症した場合は小児よりも重症化する傾向があります。成人例では咽頭痛が特に強く、嚥下が困難となり脱水症のリスクが高まります。また、発熱期間も小児例より延長する傾向があります。
季節性パターン
我が国では毎年5月頃から患者数が増加し始め、7月にピークを形成します。興味深いことに、流行は西日本から東日本へと推移する傾向があり、これは気温や湿度などの気象条件との関連が示唆されています。
ヘルパンギーナの診断は主に臨床症状に基づいて行われます。特に重要な診断ポイントは。
診断基準
鑑別すべき疾患
検査診断
確定診断には病原体検索が必要ですが、臨床現場では迅速診断キットは実用化されていません。研究目的では以下の検査が用いられます。
一般的にヘルパンギーナは予後良好な疾患ですが、稀に重篤な合併症を呈することがあります。医療従事者が注意すべき合併症と重症化のサインを以下に示します。
早期合併症(発症1-3日)
重篤な合併症(稀だが致命的)
重症化リスク因子
注意すべき症状
医療従事者は以下の症状に注意し、重症化の早期発見に努める必要があります。
治療とフォローアップ
ヘルパンギーナに対する特異的な治療法はなく、対症療法が中心となります。解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)の使用や、脱水予防のための水分・電解質補給が重要です。
口腔内の疼痛が強い場合は、冷たく軟らかい食品の摂取を推奨し、刺激の強い食品は避けるよう指導します。また、二次感染予防のため手洗い・手指消毒の徹底を患者家族に指導することも重要です。
厚生労働省の感染症発生動向調査における最新情報の確認
厚生労働省ヘルパンギーナ情報ページ
国立感染症研究所による詳細な疫学データと臨床情報
国立感染症研究所ヘルパンギーナ解説