ヘルパンギーナの原因と初期症状を医療従事者が解説

夏季に乳幼児を中心に流行するヘルパンギーナの病原体、感染機序、初期症状について医療従事者向けに詳しく解説します。適切な診断と治療のポイントとは?

ヘルパンギーナの原因と初期症状

ヘルパンギーナの重要ポイント
🦠
主な病原体

コクサッキーウイルスA群が最多、エコーウイルスも原因

🌡️
初期症状

突然の高熱(38-40℃)と咽頭痛、口腔内水疱

👶
好発年齢

5歳以下が90%以上、1歳代が最多

ヘルパンギーナの病原体と感染機序

ヘルパンギーナの原因となる病原体は、主にエンテロウイルス属に分類されるウイルス群です。最も頻度の高い病原体はコクサッキーウイルスA群(CVA)で、特にCVA16、CVA6、CVA10が主要な血清型として知られています。

 

しかし、ヘルパンギーナの病原体は単一ではなく、以下のような多様なウイルスが関与します。

  • コクサッキーウイルスA群:最も頻度が高い
  • コクサッキーウイルスB群:CVB2、CVB5など
  • エコーウイルス:複数の血清型が関与
  • エンテロウイルス71型:重症化のリスクが高い

感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。感染者の咽頭分泌物や便中に排泄されたウイルスが、健常者の口腔や鼻腔粘膜から侵入し感染が成立します。ウイルスは便中に数週間から数か月間排泄され続けるため、おむつ交換時の接触感染にも注意が必要です。

 

潜伏期間は2-4日で、この期間中にウイルスは咽頭や腸管で増殖します。興味深いことに、同一の患者が異なる血清型のウイルスに感染することで、同じシーズン内に複数回ヘルパンギーナを発症する可能性があります。

 

ヘルパンギーナの初期症状と臨床経過

ヘルパンギーナの初期症状は、突然の高熱から始まることが特徴的です。発熱は38-40℃の高熱で、特に39℃以上の発熱が1-3日間持続します。

 

初期症状の典型的な経過。
第1病日

  • 突然の高熱(38-40℃)
  • 全身倦怠感、食欲不振
  • 軽度の頭痛

第2-3病日

  • 高熱の継続
  • 咽頭粘膜の発赤が顕著となる
  • 口腔内、特に軟口蓋から口蓋弓にかけて直径1-2mmの小水疱が出現
  • 水疱周囲に紅暈(こううん)を伴う
  • 強い咽頭痛により嚥下困難となる

第4-7病日

  • 解熱傾向
  • 水疱が破綻し浅い潰瘍を形成
  • 疼痛がピークとなる
  • よだれの増加

水疱の特徴的な分布は診断の重要な手がかりとなります。ヘルパンギーナでは口腔前方部(舌先、歯肉など)への水疱形成は稀で、主に咽頭奥に限局することが手足口病との鑑別点となります。

 

ヘルパンギーナの年齢別発症パターン

ヘルパンギーナの発症には明確な年齢依存性があり、患者の90%以上が5歳以下の小児です。年齢別の発症パターンを詳しく見ると。

年齢群 発症割合 平均最高体温 特徴
0歳 約15% 39.5℃ 脱水リスク高
1歳 最多 39.8℃ 熱性痙攣リスク
2-3歳 多い 39.6℃ 症状の訴えが可能
4-5歳 中等度 39.2℃ 合併症は稀
成人 38-39℃ 重症化傾向

1歳代が最も発症頻度が高い理由として、母体からの移行抗体の減衰と、保育園などでの集団生活開始による曝露機会の増加が挙げられます。

 

成人でのヘルパンギーナ発症は稀ですが、発症した場合は小児よりも重症化する傾向があります。成人例では咽頭痛が特に強く、嚥下が困難となり脱水症のリスクが高まります。また、発熱期間も小児例より延長する傾向があります。

 

季節性パターン
我が国では毎年5月頃から患者数が増加し始め、7月にピークを形成します。興味深いことに、流行は西日本から東日本へと推移する傾向があり、これは気温や湿度などの気象条件との関連が示唆されています。

 

ヘルパンギーナの診断と鑑別疾患

ヘルパンギーナの診断は主に臨床症状に基づいて行われます。特に重要な診断ポイントは。
診断基準

  • 突然の高熱(38℃以上)
  • 咽頭奥の特徴的な水疱・潰瘍
  • 夏季の発症
  • 5歳以下の年齢

鑑別すべき疾患

  1. 手足口病
    • 口腔前方部の水疱が特徴
    • 手掌、足底の皮疹を伴う
    • 発熱は軽度のことが多い
  2. 単純ヘルペスウイルス性歯肉口内炎
    • 歯肉、舌への病変が主体
    • 初感染では重篤な症状
    • HSV抗原検査で診断可能
  3. アフタ性口内炎
    • 発熱を伴わない
    • 舌および頬部粘膜に多発
    • 再発性の経過

検査診断
確定診断には病原体検索が必要ですが、臨床現場では迅速診断キットは実用化されていません。研究目的では以下の検査が用いられます。

  • ウイルス分離:咽頭拭い液、便検体から
  • RT-PCR法:エンテロウイルス属の検出
  • 血清学的診断:ペア血清での抗体価測定

ヘルパンギーナの重症化リスクと合併症

一般的にヘルパンギーナは予後良好な疾患ですが、稀に重篤な合併症を呈することがあります。医療従事者が注意すべき合併症と重症化のサインを以下に示します。

 

早期合併症(発症1-3日)

  • 熱性痙攣:高熱に伴い6か月-6歳で発症リスク
  • 脱水症:咽頭痛による経口摂取不良が原因
  • 電解質異常:特にナトリウム、カリウムの異常

重篤な合併症(稀だが致命的)

  • 無菌性髄膜炎:頭痛、嘔吐、項部硬直(ただし項部硬直は認めないことも多い)
  • 急性心筋炎心不全徴候に注意が必要
  • ポリオ様麻痺:エンテロウイルス71型感染時

重症化リスク因子

  • 1歳未満の乳児
  • 免疫不全状態
  • エンテロウイルス71型感染
  • 基礎疾患(心疾患、神経疾患)の存在

注意すべき症状
医療従事者は以下の症状に注意し、重症化の早期発見に努める必要があります。

  • 繰り返す嘔吐
  • 持続する頭痛
  • 意識レベルの低下
  • 呼吸困難、チアノーゼ
  • 四肢の脱力・麻痺

治療とフォローアップ
ヘルパンギーナに対する特異的な治療法はなく、対症療法が中心となります。解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)の使用や、脱水予防のための水分・電解質補給が重要です。

 

口腔内の疼痛が強い場合は、冷たく軟らかい食品の摂取を推奨し、刺激の強い食品は避けるよう指導します。また、二次感染予防のため手洗い・手指消毒の徹底を患者家族に指導することも重要です。

 

厚生労働省の感染症発生動向調査における最新情報の確認
厚生労働省ヘルパンギーナ情報ページ
国立感染症研究所による詳細な疫学データと臨床情報
国立感染症研究所ヘルパンギーナ解説