厚生労働省によると、スタンダードプリコーション(標準予防策)は「汗を除くすべての血液・体液、分泌物、排泄物、創傷のある皮膚・粘膜は伝播しうる感染性微生物を含んでいる可能性があるという原則に基づいて行われる標準的な予防策」と定義されています。
参考)http://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/59/8/59_8_1206/_article/-char/ja/
この概念は、すべての患者が何らかの感染性病原体を保有している可能性があるという前提に基づいています。感染症の診断が確定していない患者や、検査によって陰性と判定されている患者に対しても同様の予防策を適用することが重要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001243398.pdf
標準予防策の対象となる生体物質は以下の通りです。
感染症の有無にかかわらず、全ての患者に分け隔てなく行う感染予防策として位置づけられており、医療従事者が遵守すべき基本的な安全対策となっています。
参考)https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-infect/file/manual/2-1.pdf
手指衛生は標準予防策の中で最も重要な要素とされており、病原体の伝播防止における最も効果的な手段です。厚生労働省のガイドラインでは、以下のタイミングで手指衛生を実施することが推奨されています:
参考)https://www.ncgm.go.jp/covid19/pdf/20230509_COVID-19.pdf
手指衛生が必要な5つのタイミング ✋
手指衛生には衛生的手洗いとアルコール系手指消毒薬による手指消毒があります。目に見える汚れがある場合は石鹸と流水による手洗いを行い、通常の場面ではアルコール系手指消毒薬の使用が効率的です。
参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_02.pdf
医療従事者の手は患者間の交差感染の主要な媒介となるため、適切な手指衛生の実施は院内感染防止の基盤となります。WHO(世界保健機関)の調査によると、手指衛生の遵守率向上により院内感染率が大幅に減少することが証明されています。
個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)の適切な使用は、医療従事者を血液・体液曝露から保護する重要な手段です。厚生労働省ガイドラインでは、曝露リスクに応じた防護具の選択が求められています。
参考)https://square.umin.ac.jp/~jrgoicp/related/ppe_2022/%E3%80%90%E3%83%86%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E5%8D%98%E4%BD%93%E7%89%88%E3%80%91%E6%84%9F%E6%9F%93%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E5%80%8B%E4%BA%BA%E9%98%B2%E8%AD%B7%E5%85%B7(PPE)%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%9F%A5%E8%AD%98.pdf
基本的な個人防護具の種類と使用場面 🥽
個人防護具の着脱順序も重要なポイントです。着用時は清潔な順序で、脱衣時は汚染された部分に触れないよう注意深く行います。特に手袋の着脱においては、汚染された外側表面に素手で触れることがないよう、適切な手技を身につける必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf
針刺し事故の予防も重要な要素であり、使用済み注射針のリキャップは原則として行わず、針捨てボックスに直接廃棄することが推奨されています。
参考)https://kango-oshigoto.jp/media/article/3634/
標準予防策に加えて、感染経路に応じた追加的な予防策の実施が必要です。厚生労働省では、接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)の3つの経路別予防策を定めています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf
接触感染予防策 🤝
多剤耐性菌やクロストリジウム・ディフィシル感染症などが対象となります。個室隔離、専用器具の使用、手袋・ガウンの着用が必要です。
飛沫感染予防策 💨
インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などが該当します。患者から1メートル以内でケアを行う際は、サージカルマスクの着用が必要です。
空気感染予防策 🌪️
結核、麻疹、水痘などが対象です。陰圧個室での管理とN95マスクの着用が必須となります。
各医療機関では、地域の感染症発生状況や病院の特性を考慮して、適切な感染経路別予防策を選択・実施することが求められます。
医療現場でのスタンダードプリコーション実践には様々な課題が存在します。国立国際医療研究センターの調査では、医療従事者の遵守率向上が重要な課題として挙げられています。
主な実践上の課題 ⚠️
これらの課題に対する対策として、以下の取り組みが効果的とされています。
組織的改善策 📈
特に新人職員や経験の浅い医療従事者に対しては、実技を重視した教育プログラムの実施が重要です。シミュレーション教育や動画教材の活用により、正しい手技の習得を促進することができます。
また、感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)による定期的な回診と指導により、現場レベルでの継続的な改善を図ることが可能です。
厚生労働省の最新感染対策マニュアルには、標準予防策の詳細な実施要領が記載されています
介護現場における感染対策の手引きでは、高齢者施設での具体的な実践方法が解説されています
現在の医療環境において、スタンダードプリコーションは単なる感染対策ではなく、患者安全を確保するための基盤的な取り組みとして位置づけられています。今後も新たな感染症の出現に対応できるよう、継続的な見直しと改善が求められています。