心筋炎は心臓の筋肉層(心筋)に炎症が生じる疾患です。この疾患は多様な原因によって引き起こされますが、最も一般的なのはウイルス感染です。心筋炎と言えばウイルス性心筋炎を指す場合も多いほどです。
主な原因として以下が挙げられます。
発症メカニズムとしては、主に以下の2つのパターンがあります。
特に新型コロナウイルス感染症では、直接的な心筋障害よりもサイトカインストームによる心筋障害が主なメカニズムと考えられています。また、心筋炎発症前に風邪や胃腸炎などの先行症状がみられることが多く、その2〜4日後(あるいは2〜3週間後)に心筋炎の症状が現れるパターンが典型的です。
心筋炎の症状は非常に多様で、無症状から突然死に至るものまで幅広く存在します。重症度によって症状が異なることに注意が必要です。
【軽症の場合】
【中等症〜重症の場合】
ワクチン接種後の心筋炎では、接種から平均2〜4日後に胸痛、胸部圧迫感、息切れ、動悸、倦怠感などの症状が現れることが報告されています。
診断方法としては以下が重要です。
心筋炎の診断は非常に難しいことが特徴で、特に軽症例では見過ごされることも多いとされています。40歳以下の突然死の約20%が心筋炎によるものという報告もあり、若年者でも注意が必要な疾患です。
心筋炎の治療は原因、症状、重症度に応じて選択されます。2023年に日本循環器学会から「心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」が改訂されており、それに基づいた治療が推奨されています。
【基本的な治療アプローチ】
【主な治療薬】
心筋炎の薬物療法では、特に薬剤の使用タイミングが重要です。例えば、ウイルス性心筋炎の急性期におけるステロイド投与は慎重に検討する必要があります。また、心筋炎の治療で使用する薬剤自体が薬剤性心筋炎を誘発する可能性もあるため、薬剤選択には細心の注意が必要です。
日本循環器学会の心筋炎診断・治療ガイドライン(2023年版)
心筋炎は重症度によって治療方針が大きく異なります。適切な重症度評価と、それに基づいた治療戦略の立案が予後改善に重要です。
【軽症の心筋炎】
【中等症の心筋炎】
【重症/劇症型心筋炎】
【回復期の管理】
心筋炎回復後も心機能や不整脈の評価が重要です。特に以下の点に注意が必要です。
【症例】
数年前、若い女性患者の劇症型心筋炎の症例報告があります。胸痛と息切れで来院した患者に緊急MRIを実施したところ、全層性の浮腫が観察されました。集中治療室での管理中に突然心停止が発生し、心臓マッサージとペーシングを行いながら、特殊管理が可能な施設へ搬送されました。このような劇症型心筋炎では、PCPSなどの補助循環装置を用いて心臓の回復を待つことが重要です。
心筋炎は様々な原因で発症しますが、薬剤誘発性心筋炎はその中でも特殊な病態で、適切な認識と対応が求められます。
【薬剤誘発性心筋炎の特徴】
【原因となる主な薬剤と特徴的な症状】
薬剤分類 | 代表的な薬剤 | 特徴的な症状・所見 |
---|---|---|
抗がん剤 | アンスラサイクリン系、トラスツズマブなど | 心不全症状(息切れ、浮腫)、左室駆出率低下[5] |
免疫抑制剤 | シクロスポリン、タクロリムスなど | 不整脈、胸痛、微熱[5] |
生物学的製剤 | 免疫チェックポイント阻害薬など | 疲労感、微熱、心電図異常[5] |
抗生物質 | ミノサイクリン、スルファメトキサゾールなど | 好酸球増多を伴う症状(発疹、呼吸困難など)[4] |
向精神薬 | クロザピン、リチウムなど | 無症状のトロポニン上昇、頻脈[4] |
【ウイルス性心筋炎との鑑別点】
【薬剤誘発性心筋炎の管理】
重要なのは、薬剤誘発性心筋炎を疑う場合、早期に原因薬剤の投与を中止することです。診断が確定する前でも、臨床的に疑わしい場合は投与中止を検討すべきです。
薬剤誘発性心筋炎を予防するためには、リスクの高い薬剤を使用する際に定期的な心機能評価(心電図、心エコー、トロポニン測定など)を行うことが推奨されます。特に、複数のリスク因子(高齢、既存の心疾患、他の心毒性薬剤の併用など)を持つ患者では注意が必要です。
薬剤誘発性心筋炎に関する詳細な情報
【臨床現場での注意点】
薬剤誘発性心筋炎は見逃されやすい病態です。特に以下のような状況では積極的に疑うことが重要です。
また、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎も近年注目されています。これは典型的には若年男性に多く、ワクチン接種後2〜4日程度で発症することが多いです。症状は比較的軽微で、胸痛、胸部圧迫感、息切れなどが主症状となります。この場合も早期診断と適切な対応が重要です。
心筋炎の薬物療法にあたっては、複数の薬剤を併用することも多く、副作用や相互作用に注意が必要です。特に免疫抑制薬による感染リスク増加や、抗炎症薬による消化器症状などには注意が必要です。また、心不全治療薬の過量投与による低血圧や腎機能悪化にも留意すべきです。