心筋梗塞の症状は、典型的には激しい胸痛として現れますが、医療従事者として把握すべき症状の多様性があります。
典型的な急性期症状:
症状の持続時間が狭心症との重要な鑑別点となり、狭心症が通常15分以内で改善するのに対し、心筋梗塞では30分以上から数時間継続します。
前兆症状の重要性:
心筋梗塞患者の約50%が発症前1-2か月以内に前兆を経験しており、これらを見逃さないことが予後改善につながります。
不安定狭心症として現れる前兆期では、安静により症状が改善するため軽視されがちですが、適切な診断と治療介入により心筋梗塞発症を予防可能です。
日本心臓財団による「STOP MIキャンペーン」では、前兆の啓発により心筋梗塞発症予防を推進しています。
日本心臓財団:心筋梗塞の前兆とSTOP MIキャンペーンの詳細情報
急性心筋梗塞の薬物療法は、梗塞拡大の防止、再梗塞の防止、合併症の予防を目的とします。
急性期薬物療法の基本原則:
📌 鎮痛・鎮静療法
心筋梗塞の胸痛は硝酸薬無効のため、以下を使用。
胸痛による交感神経刺激は心拍数・血圧上昇を招き、心筋酸素消費量増加により梗塞拡大につながるため、適切な疼痛管理が必須です。
📌 血栓溶解療法
tPAなどの血栓溶解薬静注により、冠動脈内血栓の溶解を図ります。発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右するため、「Time is muscle」の概念に基づく迅速な対応が重要です。
📌 抗血栓療法
📌 その他の薬物療法
薬物選択時は患者の併存疾患、特に気管支喘息や房室ブロックの有無を慎重に評価する必要があります。
再灌流療法は心筋梗塞治療の中核をなし、総虚血時間短縮による梗塞拡大防止が最優先事項です。
🔧 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
PCIは現在の心筋梗塞治療における第一選択です。
ステント留置後は再狭窄監視のため定期的フォローアップが必要で、DAPT継続期間の適切な管理が求められます。
🔧 冠動脈バイパス術(CABG)
以下の場合にCABGが適応となります。
自己血管(内胸動脈、大伏在静脈等)を用いて狭窄・閉塞部位を迂回する血行路を作成し、心筋への十分な血流確保を目指します。
🔧 治療選択の判断基準
治療法選択では以下を総合的に評価。
急性期治療成功後も、二次予防としての薬物療法継続と生活習慣改善指導が長期予後改善に重要です。
心筋梗塞後の合併症管理と長期予後改善は、急性期治療と同様に重要な課題です。
💔 急性期合併症
機械的合併症:
これらは致命的となりうるため、心エコー検査による早期診断と緊急外科的治療が必要です。
致命的不整脈:
心筋梗塞患者の約40%が院外で死亡する原因の多くが致命的不整脈であり、AED使用を含む迅速な対応が生命予後を左右します。
💔 慢性期合併症
虚血性心不全:
壊死心筋の範囲が広い場合、残存心筋のポンプ機能不全により心不全を発症。
治療は心筋虚血改善を基盤とし、以下を組み合わせます。
心室リモデリング:
梗塞後の心室形態・機能変化は長期予後に影響するため、適切な薬物療法による進行抑制が重要です。
💔 二次予防と長期管理
定期的な心機能評価と冠動脈病変進行の監視により、再梗塞予防と心不全進行抑制を図ります。
無痛性心筋梗塞は急性心筋梗塞全体の約20%を占め、特に糖尿病患者、高齢者で高頻度にみられる見逃されやすい病態です。
🔍 無痛性心筋梗塞の特徴
高リスク群:
非典型的症状:
典型的胸痛の代わりに以下の症状で発症。
診断上の落とし穴:
症状が軽微なため「消化不良」と誤解されることが多く、患者自身も医療機関受診を遅らせがちです。
🔍 診断のポイント
心電図異常への注意:
無痛性でも心電図変化は明確に現れるため、以下に注意。
血清マーカーの活用:
画像診断の重要性:
🔍 臨床現場での対応策
スクリーニング強化:
患者教育の重要性:
無痛性心筋梗塞は「サイレントキラー」とも呼ばれ、診断時既に心不全や重篤な合併症を併発していることが多いため、医療従事者の高い臨床的疑いと積極的な検査が予後改善の鍵となります。
特に救急外来では、高リスク患者の非典型症状に対する感度を高く保ち、心電図・血液検査を含む適切な評価を行うことが重要です。