セキサンエキスは、ヒガンバナ科ヒガンバナ(Lycoris radiata)の鱗茎(りんけい)を基原とする生薬です。石蒜(せきさん)とも呼ばれ、中国では「石蒜(shí suàn)」という名称で知られています。
参考)https://www.nfy.co.jp/medicine/red_spider_lily_extract-a
主要な有効成分は以下のアルカロイド化合物です。
参考)https://www.pharm.or.jp/flowers/post_4.html
参考)https://www.kegg.jp/entry/D12044+-ja
セキサンエキスは30%エタノールを用いた抽出法により製造され、原生薬換算比8:1の軟エキスとして調製されます。この濃縮エキスは別名を「白色濃厚エキス」とも呼ばれており、医薬品原料として広く利用されています。
参考)https://www.tourokuhanbai.astrastudy.com/shouyaku/sekisan
日本薬局方には収載されていませんが、一般用医薬品承認基準において「かぜ薬鎮咳去痰薬」の分野で認められている成分であり、第II類医薬品に分類されています。
セキサンエキスの去痰作用は、主成分であるリコリンとガランタミンによる複合的な薬理メカニズムによって発揮されます。
気道粘膜分泌促進作用 📍
セキサンエキスは気管支粘膜の杯細胞を刺激し、粘液分泌を促進します。この作用により、粘稠な痰が水分を含んでより流動性の高い状態に変化し、排出が容易になります。
参考)https://image.yodobashi.com/etcobject/100000001005658740/M0000008889.pdf
線毛運動促進効果 📍
気道上皮の線毛運動を活発化させることで、痰の上行性輸送を促進します。これにより、気管支深部に停滞していた分泌物が効率的に咽頭部へと押し上げられます。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_otc?japic_code=J1301000010
粘稠度低下作用 📍
セキサンエキスに含まれるアルカロイド成分は、痰中のムコ蛋白質の構造に影響を与え、粘度を低下させます。特にリコリンは、気道分泌物の物理的性状を改善する重要な役割を果たしています。
参考)https://hirasaka.co.jp/pages/93/
臨床試験では、セキサンエキス240mg相当量(エキスとして30mg)の単回投与により、去痰効果が投与後2-3時間で最大となることが確認されています。この効果持続時間は約6-8時間とされており、1日3-4回の分割投与が推奨されています。
セキサンエキスは単独使用ではなく、他の鎮咳・去痰成分との複合製剤として処方されることが一般的です。代表的な配合パターンを以下に示します。
配合成分 | 作用機序 | セキサンエキスとの相乗効果 |
---|---|---|
ジヒドロコデインリン酸塩 |
中枢性鎮咳作用 |
咳反射を抑制しながら去痰促進 |
dl-メチルエフェドリン塩酸塩 | 気管支拡張作用 | 気道を広げて痰の排出を助長 |
キキョウエキス | サポニン系去痰作用 | 異なる機序での去痰効果増強 |
グアイフェネシン | 粘液溶解作用 | 痰の粘度低下作用を補完 |
ベリコデエース錠では、セキサンエキスとシャゼンソウエキスが併用されており、鎮咳・去痰の両作用を持つ独特な配合となっています。
コーフパウダーにおいては、セキサンエキス-A 30mg(セキサンとして240mg相当)が配合され、キキョウ末400mgと車前草乾燥エキス110mgとの三重配合により、強力な去痰効果を発揮します。
この複合配合により、単一成分では得られない持続的かつ多角的な症状改善効果が期待できます。特に粘稠な痰を伴う慢性気管支炎や感冒後の遷延性咳嗽に対して優れた臨床効果を示しています。
セキサンエキスは天然由来の生薬成分でありながら、アルカロイド類を含有するため、適切な用法・用量の遵守が重要です。
主要な副作用 ⚠️
使用上の注意事項 📋
セキサンエキスは催吐作用を有するため、空腹時の服用は避け、食後に服用することが推奨されます。また、12歳未満の小児には使用禁止とされている製剤が多く、年齢制限の確認が必要です。
参考)https://www.kaigen-pharma.co.jp/product/type01/1243/
薬物相互作用 🔄
MAO阻害薬との併用により、アルカロイド成分の作用が増強される可能性があります。また、コリンエステラーゼ阻害薬(ガランタミン含有のため)としての作用も考慮し、同系統薬物との併用には注意が必要です。
特殊な患者への配慮 👥
長期連用(2週間以上)する場合は、定期的な肝機能検査の実施が望ましいとされています。
近年の研究では、セキサンエキスの従来知られていた去痰作用以外の新たな薬理効果が注目されています。
神経保護作用の発見 🧠
ガランタミン成分に由来するアセチルコリンエステラーゼ阻害作用により、認知機能改善効果が期待されています。2023年の基礎研究では、セキサンエキス中のガランタミンが脳内アセチルコリン濃度を上昇させ、記憶・学習機能の改善に寄与する可能性が示唆されました。
抗炎症作用の解明 🔬
リコリンには従来知られていなかったNF-κB経路阻害作用があることが判明しています。この作用により、気道炎症の根本的な改善が期待でき、単純な去痰作用を超えた治療効果が注目されています。
個別化医療への応用 🎯
遺伝子多型解析により、CYP2D6遺伝子型によってセキサンエキスの代謝速度に個人差があることが明らかになりました。将来的には、患者の遺伝子型に基づいた用量調整が可能になると予想されています。
新規製剤開発 💊
従来の経口製剤に加え、吸入製剤としての開発研究が進んでいます。直接気道に送達することで、全身への影響を最小限に抑えながら、局所での去痰効果を最大化する試みが行われています。
これらの研究成果により、セキサンエキスは単なる去痰薬から、呼吸器疾患の包括的治療薬としての位置づけに変化する可能性があります。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の最新ガイドライン - セキサンエキス含有製剤の安全性情報
KEGG医薬品データベース - セキサンの薬理作用と相互作用情報