リンパ球は白血球の一種であり、免疫システムの中核を担う重要な細胞群です。全白血球の約20~45%を占め、主にT細胞、B細胞、NK細胞の3つに分類されます 。これらの細胞は直径10~15ミクロンの小さな細胞で、血液1ml中におよそ150万個程度存在します 。リンパ球の最も重要な特徴は、自分の体に存在しない異物を特異的に認識する能力です 。
参考)リンパ球 - Wikipedia
各リンパ球の基本的な分布比率は、T細胞が全リンパ球の約65~70%、B細胞が約20~30%、NK細胞が約5~15%を占めています 。これらの細胞は骨髄、胸腺、脾臓、リンパ節、扁桃などのリンパ組織に豊富に存在し、全身を循環しながら免疫監視を行っています 。
参考)リンパ球
T細胞は胸腺(Thymus)で成熟することからその名前が付けられ、獲得免疫において細胞性免疫を担当する中心的な存在です 。T細胞は主にヘルパーT細胞(CD4陽性)とキラーT細胞(CD8陽性)の2つに大別されます 。
ヘルパーT細胞は免疫システムの司令塔として機能し、他の免疫細胞の活動を調整する重要な役割を持ちます。抗原を認識した後、サイトカインと呼ばれる機能性タンパク質を放出し、キラーT細胞やB細胞などの他の免疫細胞に対して指令を伝達します 。さらにヘルパーT細胞は、産生するサイトカインの種類によってTh1型(IFN-γ、IL-12などを産生)、Th2型(IL-4、IL-5、IL-13などを産生)、Th17型(IL-17を産生)などのサブセットに分類されます 。
参考)ケモカイン受容体とリンパ球サブセットの遊走
一方、キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)は、ウイルス感染細胞やがん細胞を直接攻撃し排除する役割を担います。活性化されたキラーT細胞は、グランザイムやパーフォリンといった細胞傷害性物質を放出して標的細胞を破壊します 。この細胞性免疫は、細胞内に感染したウイルスや腫瘍化した細胞の排除に特に重要です。
参考)T細胞って何?
B細胞は骨髄のBursa相当器官で成熟することからその名前が付けられ、液性免疫の中心的役割を果たします 。B細胞の最も重要な機能は、特定の抗原に対する抗体(免疫グロブリン)を産生することです 。
参考)免疫細胞の種類と役割とは?
抗原が侵入すると、マクロファージがヘルパーT細胞に抗原の情報を伝え、ヘルパーT細胞がB細胞を活性化します。活性化されたB細胞は形質細胞へと分化し、大量の抗体を産生します 。抗体は全身に広がって貪食細胞を活性化したり、抗原の感染力や毒性を中和したりして体を守ります。
参考)B 細胞イムノフェノタイピング
B細胞のもう一つの重要な機能は免疫記憶の形成です。活性化されたB細胞の一部は記憶B細胞(メモリーB細胞)となり、一度遭遇した抗原の情報を長期間記憶します 。同じ病原体が再び侵入した際には、記憶B細胞が迅速に形質細胞へと分化し、素早く抗体を産生して感染を防ぐことができます。
参考)獲得免疫のひとつ「B細胞」とは?役割や働き方を解説!
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、その名前が示すとおり「生まれつきの殺し屋」として機能する自然免疫細胞です 。NK細胞は末梢血中のリンパ球の約5~15%を占め、CD16とCD56を発現し、CD3は陰性という特徴的な表現型を示します 。
参考)網赤血球数、好酸球数、単球数、リンパ球数、好中球数の血液学的…
NK細胞の最大の特徴は、事前の抗原認識や他の免疫細胞からの指令なしに、独自で異常細胞を認識し攻撃できることです 。通常の細胞はMHCクラスI分子(ヒトではHLA)という「自己の証明書」を表面に提示していますが、がん細胞やウイルス感染細胞はしばしばこの発現を低下させます。NK細胞はこのような変化を感知して標的として認識し、グランザイムやパーフォリンといった細胞傷害性物質を放出して直接攻撃します 。
参考)さくらクリニック
NK細胞は単独でがん細胞を攻撃するだけでなく、他の免疫細胞の抗がん作用を支援し、腫瘍血管新生の制御にも関与することが報告されています 。このような多面的な抗腫瘍作用により、NK細胞を用いたがん免疫療法の開発も積極的に進められています。
参考)NK細胞 href="https://research.kobayashi.co.jp/glossary/nk.html" target="_blank">https://research.kobayashi.co.jp/glossary/nk.htmlamp;#8211; 小林製薬 中央研究所
リンパ球数の異常は様々な疾患の診断指標として重要な意味を持ちます。正常な末梢血中のリンパ球数は1500~4000/μLとされており、この値を超えるリンパ球増加症や下回るリンパ球減少症は病的状態を示唆します 。
リンパ球増加症(4000/μL以上)を示す主な疾患には、伝染性単核球症、結核、百日咳などの感染症や、慢性リンパ性白血病、成人T細胞白血病/リンパ腫などの血液悪性腫瘍があります 。一方、リンパ球減少症(1500/μL以下)は、悪性リンパ腫(特にホジキンリンパ腫)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患で認められます 。
臨床的には、単なるリンパ球総数だけでなく、リンパ球サブセット(T細胞、B細胞、NK細胞の各分画)の詳細な解析が診断や治療効果判定に重要です。特に移植医療においては、T細胞サブセットの変化が拒絶反応の早期発見に有用とされており、CD4陽性T細胞数やCD8陽性T細胞数の比率変化が注目されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11208394/
さらに、各リンパ球サブセットの機能的評価も重要で、例えばNK細胞の細胞傷害活性の低下は免疫不全状態を示し、がんの発生リスク増加と関連することが知られています 。このように、リンパ球の種類と機能の理解は、現代医療における疾患診断と治療戦略の立案に不可欠な知識となっています。