ノクサフィルは、真菌細胞膜の主要成分であるエルゴステロールの生合成を阻害することで抗真菌作用を発揮します 。本剤は従来のアゾール系抗真菌薬と比較して、より広範囲の糸状菌に対して強力な抗菌活性を示すことが特徴です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068469
アスペルギルス属やムーコル目に対する高い抗真菌活性は、侵襲性アスペルギルス症治療において第一選択薬として位置づけられる重要な理由となっています 。また、フサリウム症、ムーコル症、コクシジオイデス症、クロモブラストミコーシス、菌腫といった難治性真菌感染症に対しても治療効果が確認されており、選択肢の限られた稀少真菌感染症領域において重要な治療選択肢となっています 。
参考)https://www.msd.co.jp/news/product-news-0927/
ポサコナゾールの血中濃度は錠剤投与時にTmax(中央値)が4~5.5時間を示し、200~600mgの用量範囲において概して用量比例性を示します 。これにより、患者の状態に応じた用量調節が可能となり、治療効果の最適化が図れます。
参考)https://www.msdconnect.jp/products/noxafil/info/pk01/
海外第Ⅲ相試験(P069試験)において、侵襲性アスペルギルス症患者を対象とした検証試験が実施されました。主要評価項目である治験薬投与42日後までの全死亡率は、ノクサフィル群15.3%、ボリコナゾール群20.6%であり、群間差の95%信頼区間上限が事前規定の非劣性マージン10%を下回り、ボリコナゾールに対する非劣性が証明されました 。
参考)https://www.msdconnect.jp/products/noxafil/info/features/
国内外の診療ガイドラインにおいて、ノクサフィルは侵襲性アスペルギルス症に対する第一選択薬として推奨されています。IDSAのアスペルギルス症治療ガイドラインでは、長期間好中球減少症を発症している高リスク患者に対する予防として、strong recommendation; high-quality evidenceで推奨されています 。
治療における独自の優位性として、既存の抗真菌薬で治療困難な症例に対するサルベージ治療としての有効性があります。特に、アムホテリシンBやイトラコナゾールによる前治療が無効または不耐容であった症例において、41%の全奏効率を示しており、従来治療に抵抗性を示す症例への新たな治療選択肢として重要な役割を担っています 。
参考)https://www.msdconnect.jp/products/noxafil/clinical-results/report03/
造血幹細胞移植は侵襲性真菌感染症発症の重大なリスクファクターであり、適切な予防投与が治療成功の鍵となります。移植片対宿主病(GVHD)患者を対象とした国際的無作為化二重盲検試験では、ポサコナゾールがフルコナゾールと比較して優れた予防効果を示しました 。
参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol356.p335
曝露期間中におけるbreakthrough侵襲性真菌感染の発生率は、ポサコナゾール群2.4%に対してフルコナゾール群7.6%と有意な差を認めました(P=0.004)。特に侵襲性アスペルギルス症については、ポサコナゾール群1.0%、フルコナゾール群5.9%と著明な差が確認されています(P=0.001) 。
予防投与期間については確立した基準はありませんが、造血幹細胞に対する毒性を考慮し、移植前から開始し、生着後から少なくとも6ヶ月以上免疫抑制薬終了まで継続することが推奨されています 。定常状態におけるポサコナゾールの平均血中濃度(Cavg)1,580ng/mLの維持により、すべての被験者が目標曝露量(500ng/mL以上)に到達し、安定した予防効果が期待できます 。
参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_04_shinkin02.pdf
ノクサフィルは強力なCYP3A4阻害作用を有するため、併用薬剤との相互作用に十分な注意が必要です 。特にエルゴタミン酒石酸塩、シンバスタチン、ピモジド、ベネトクラクス、スボレキサントなどとの併用は禁忌とされており、これらの薬剤の血中濃度上昇により重篤な副作用を引き起こす可能性があります 。
重大な副作用として肝機能障害、溶血性尿毒症症候群(HUS)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、QT延長、副腎機能不全、低カリウム血症などが報告されています 。特に肝機能については定期的なモニタリングが不可欠であり、AST、ALT、総ビリルビンの上昇に注意が必要です。
参考)https://www.msdconnect.jp/products/noxafil/info/attention/
錠剤は従来の懸濁製剤よりも血中濃度が高くなる傾向があるため、薬物相互作用がより強く発現する可能性があります 。このため、併用薬剤の選択や用量調節には慎重な検討が必要であり、薬剤師との連携による適切な薬物管理が治療成功の重要な要素となります。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/1955.pdf
治療効果の最大化と安全性確保のバランスを取るため、血中濃度モニタリングと併用薬剤の詳細な確認を継続的に実施することが、臨床現場における適正使用の基本原則となっています。
ムーコル症は急速に進行する致命的な深在性真菌感染症であり、従来の治療選択肢が限られていました。ノクサフィルは国内治験においてムーコル症3例全例に奏効を示しており、この難治性感染症に対する新たな治療選択肢として期待されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ishinkin/64/3/64_23.005/_pdf/-char/ja
ムーコル症治療においてノクサフィルは、リポソーマル型アムホテリシンBとの併用療法や維持療法として使用されることが多く、2019年のメタ分析ではリポソーマル型アムホテリシンBとポサコナゾールの併用療法が単剤療法より良好な治療成績を示しました 。特に経口薬として長期治療に適用可能な点は、入院期間の短縮と患者のQOL向上に寄与する重要な特徴です。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/infectious/infectious-disease/mucormycosis/
増加傾向にあるムーコル症やフサリウム症では治療選択肢が著しく制限されているため、ノクサフィルの登場は臨床現場において画期的な進歩となっています 。従来治療で効果不十分な症例に対するサルベージ治療としての役割も重要であり、多剤耐性真菌感染症への対応において不可欠な治療選択肢となっています。
参考)https://www.msdconnect.jp/products/noxafil/info/development/
用法・用量は通常、成人にポサコナゾールとして初日1回300mgを1日2回、2日目以降300mgを1日1回経口投与または中心静脈ラインから約90分間かけて緩徐に点滴静注します 。治療期間や併用療法の選択は患者の重症度、基礎疾患、治療反応性を総合的に評価して決定する必要があります。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068470