非アルコール性脂肪性肝疾患の原因と初期症状
非アルコール性脂肪性肝疾患の概要
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疾患の定義
アルコール摂取量が男性30g/日未満、女性20g/日未満で発症する脂肪性肝疾患
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有病率
男性約40%、女性約20%の高い有病率を示し、全国で1,000万人以上の患者が存在
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進行リスク
NASHの約50%が進行性で、10年で20~30%が肝硬変・肝がんに進行
非アルコール性脂肪性肝疾患の定義と分類
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)は、アルコール摂取量が男性で1日30g未満、女性で1日20g未満の患者に発症する脂肪性肝疾患です。ガイドラインでは、肝細胞の5%以上に脂肪化が認められる状態を脂肪肝と定義しています。
NAFLDは病理学的に2つのタイプに分類されます。
1. 非アルコール性脂肪肝(NAFL)
- 肝細胞内に単純に脂肪が蓄積した状態
- 炎症反応が軽微で進行性ではない
- 動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まる
2. 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
- 脂肪蓄積に加えて肝細胞の炎症と壊死が認められる
- 進行性で肝硬変や肝がんへの進展リスクが高い
- 推定患者数は約100~200万人とされている
NAFLDの有病率は男性で約40%、女性で約20%と報告されており、全国に1,000万人以上の患者が存在すると推定されています。男性では30~50代、女性では40代後半から増加傾向を示します。
非アルコール性脂肪性肝疾患の主要原因
NAFLDの発症メカニズムは「二つのヒット理論」で説明されています。
第一のヒット:脂肪蓄積
脂肪の過剰摂取により肝臓に脂肪が蓄積し、脂肪肝を形成します。主な原因として以下が挙げられます。
- 肥満:最大の危険因子で、消費エネルギーより摂取エネルギーが多い状態が続くと、余剰エネルギーが肝臓で中性脂肪として蓄積されます
- 糖尿病:インスリン抵抗性により脂肪酸の利用が阻害され、肝臓での脂肪合成が亢進します
- 脂質異常症:血中脂質レベルの異常により肝臓への脂肪蓄積が促進されます
- 高血圧:メタボリックシンドロームの構成要素として脂肪肝の発症に関与します
第二のヒット:炎症の惹起
脂肪肝に以下の要因が加わることでNASHへと進展します。
その他の原因
- 急激なダイエット:栄養バランスの崩れにより、超低密度リポタンパクの不足を引き起こし、肝臓に中性脂肪が蓄積します
- 閉経:女性ホルモンの変化により閉経後の女性は脂肪肝になりやすくなります
- ストレス:慢性的なストレスが生活習慣の乱れや代謝異常を引き起こします
非アルコール性脂肪性肝疾患の初期症状と進行
NAFLDの最大の特徴は、初期段階では自覚症状がほとんどないことです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、神経がないため病気がある程度進行しないと症状が現れません。
初期症状
- 自覚症状なし
- 健康診断や人間ドックで肝機能異常を指摘されて初めて発見されるケースがほとんど
- 血液検査では以下の所見が認められます。
- AST(GOT)・ALT(GPT)の軽度上昇
- 非アルコール性ではALTがASTより高値を示す傾向
- 中性脂肪・コレステロール値の上昇
進行時の症状
NASHとして炎症が持続すると、以下の症状が現れます。
- 倦怠感:肝機能低下による全身の疲労感
- 腹部不快感:肝臓の腫大による圧迫感
- 皮膚のかゆみ:胆汁うっ滞による症状
- 黄疸:ビリルビンの上昇による皮膚・結膜の黄染
進行パターン
NASHの約50%は進行性で、以下の経過をたどります。
- 脂肪肝:肝細胞内への脂肪蓄積
- 脂肪肝炎(NASH):炎症と肝細胞の壊死
- 肝硬変:線維化の進行により肝臓が硬化
- 肝がん:遺伝子変異による悪性転化
約10年で20~30%が肝硬変・肝がんに進行するため、早期発見と適切な治療が重要です。
非アルコール性脂肪性肝疾患の診断方法
NAFLDの診断には複数の検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。
血液検査
- 肝機能マーカー。
- AST(GOT)・ALT(GPT):非アルコール性ではALT>ASTの特徴
- ALP、γ-GTP:肝胆道系酵素の評価
- 総ビリルビン:肝機能の評価指標
- 代謝関連マーカー。
- 血糖値・HbA1c:糖尿病の評価
- 総コレステロール・中性脂肪:脂質異常症の評価
- 血小板数:肝硬変への進行度の評価
画像検査
- 腹部超音波検査。
- 脂肪肝の確定診断に最も重要
- 肝臓の脂肪化程度の評価
- 肝硬変の兆候の検出
- CT・MRI検査。
- より詳細な肝組織の評価
- MRCP検査による胆道系の評価
- 超音波エラストグラフィー。
- 肝臓の線維化度の非侵襲的評価
- 肝硬変への進行予測
肝生検
NASHの可能性が高い場合や病状進行が疑われる場合に実施されます。
- 肝組織の病理学的評価
- 炎症・線維化の程度の正確な判定
- 検査入院が必要な侵襲的検査
診断時の除外診断として、ウイルス性肝炎(B型・C型肝炎)、自己免疫性肝疾患、薬剤性肝障害などの鑑別が重要です。
非アルコール性脂肪性肝疾患の治療と予防法
NAFLDの治療は生活習慣の改善が中心となり、薬物療法は補助的な位置づけです。
生活習慣の改善
減量療法
- 肥満を伴うNASHでは体重の7%減量を目標とします
- 食事運動療法により段階的な減量を行います
- 急激なダイエットは逆効果となるため注意が必要です
食事療法
- 標準体重×25~35kcalの低カロリー食
- 高タンパク低脂肪食の推奨
- 食事回数・時間の規則化
- 間食の制限
運動療法
- 週3~4日、1回30~60分の有酸素運動
- 軽く汗をかく程度の強度で実施
- 日常生活活動度の向上(階段利用、歩行距離の増加)
薬物療法
現在、NAFLD/NASH単独での保険適用薬は日本では限定的です。
- 糖尿病治療薬:血糖コントロールによる肝機能改善
- 脂質異常症治療薬:脂質代謝の正常化
- 高血圧治療薬:血圧管理による合併症予防
- ビタミンE:抗酸化作用による肝細胞保護(研究段階)
予防法
メタボリックシンドロームの予防
- 適正体重の維持(BMI 18.5-24.9)
- 規則正しい食生活の実践
- 継続的な運動習慣の確立
- 禁煙・節酒の実践
定期的な健康チェック
- 年1回の健康診断での肝機能検査
- 血糖値・脂質・血圧の定期的な測定
- 早期発見・早期治療の重要性
患者教育のポイント
医療従事者として患者指導を行う際は、以下の点を重視します。
- 自覚症状がないことの説明と定期受診の重要性
- 生活習慣改善の具体的な方法の指導
- 合併症予防の意識向上
- 長期的な健康管理の必要性
NAFLDは生活習慣病との関連性が強く、適切な生活習慣の改善により肝機能の改善が期待できます。早期発見・早期介入により、肝硬変や肝がんへの進行を予防することが可能であり、医療従事者による継続的な患者支援が重要です。
日本超音波医学会による脂肪肝の超音波診断基準