グリア細胞は中枢神経系を構成するニューロン以外の細胞の総称で、哺乳類では神経細胞の数倍から数十倍の数が存在しています。これらの細胞は形態と機能によって主に4つの種類に分類され、それぞれが神経系の維持と機能に重要な役割を果たしています。
ヒトの脳におけるグリア細胞全体の数はニューロンの数を遙かに上回り、脳細胞の半数以上を占めています。長らく神経細胞の単なる支持組織として認識されてきましたが、現在では脳の情報処理にも積極的に関与する重要な細胞群として理解されています。
アストロサイトは脳と脊髄に特異的な星型のグリア細胞で、星状膠細胞とも呼ばれます。グリア細胞の中で最も大きく、数も多い細胞種であり、血管系とニューロンを結びつける重要な役割を担っています。
アストロサイトの主要な機能は以下の通りです。
近年の研究では、アストロサイトが多様な神経伝達物質受容体を発現し、ニューロンの活動に応答して自らも伝達物質を遊離することによってニューロン活動を修飾することが明らかになっています。特に、ノルアドレナリン神経からの信号を受けて局所血流調節と神経への乳酸供給という2種類の代謝調節活動を制御し、広範な脳領域で一貫した神経細胞内ATP濃度最適化に寄与している可能性が示されています。
オリゴデンドロサイトは中枢神経系において髄鞘(ミエリン鞘)を形成する専門的なグリア細胞です。この髄鞘は神経細胞の軸索を取り囲む絶縁体として機能し、電気信号の伝達効率を大幅に向上させます。
オリゴデンドロサイトの特徴的な機能。
一つの重要な特徴は、オリゴデンドロサイトが一つの細胞で複数の軸索に髄鞘を形成できることです。これは末梢神経系のシュワン細胞が一つの軸索に対して一つの細胞が髄鞘を形成するのとは対照的な特徴です。
ミクログリアは中枢神経系における免疫担当細胞として、脳内の監視と防御を担う特殊なグリア細胞です。正常状態では突起を周囲に伸ばして周辺環境を常に監視しており、微小な環境変化を検知するといち早くその性質を変化させます。
ミクログリアの多様な機能。
興味深い発見として、P2Y12受容体がミクログリアの細胞外ATPに対する走化性を制御し、P2Y6受容体の活性化が細胞外異物に対する貪食作用を惹起することが明らかになっています。これらの機能により、ミクログリアは中枢環境の調節に深く関与しています。
上衣細胞は脳室壁を覆う特殊なグリア細胞で、脳脊髄液の産生と循環に重要な役割を果たします。これらの細胞は繊毛を持ち、脳脊髄液の流れを調節する機械的な機能も担っています。
上衣細胞の主要機能。
上衣細胞の機能異常は水頭症や中枢神経系の発達異常と関連することが知られており、臨床的にも重要な細胞種です。
各種類のグリア細胞は、脳のエネルギー代謝において独特の役割を果たしており、神経細胞の活動を支える重要な基盤を提供しています。
アストロサイトのエネルギー代謝機能。
アストロサイトは脳のエネルギー恒常性維持において中心的な役割を担います。動物の睡眠-覚醒サイクルに伴い、皮質全体でシンクロしたATP濃度変動を制御し、覚醒時にはエネルギー需要増加をさらに上回るエネルギー合成活動を皮質全域で同時に迅速かつ持続的に行います。
オリゴデンドロサイトの代謝支援。
ミエリン鞘の維持には大量のエネルギーが必要で、オリゴデンドロサイトは効率的な代謝システムを構築しています。髄鞘の形成と維持により、神経伝達のエネルギー効率を大幅に向上させる役割も果たしています。
ミクログリアの代謝調節。
ミクログリアは活性化時に代謝状態を大きく変化させ、免疫応答に必要なエネルギーを確保します。また、細胞外ヌクレオチドの代謝を通じて、神経-グリア間の情報伝達を調節します。
この多層的なエネルギー代謝システムにより、脳は高い活動レベルを維持しながら、環境変化に柔軟に対応できる能力を獲得しています。特に、アストロサイトが汎性投射神経の信号を受けて行う局所血流調節と乳酸供給は、全脳レベルでのエネルギー代謝調節機構として機能していると考えられています。