ヌクレオチドは、すべての生命体において DNA と RNA の構成単位として機能する重要な生体分子です 。この分子は、リン酸基、五炭糖(リボースまたはデオキシリボース)、そして窒素含有塩基の3つの主要成分から構成されています 。
プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチドの2つの主要グループに分類され、プリンにはアデニン(A)とグアニン(G)が、ピリミジンにはシトシン(C)、チミン(T:DNA)、ウラシル(U:RNA)が含まれます 。これらの塩基は、DNA では A-T、G-C の相補的ペアを、RNA では A-U、G-C のペアを形成し、遺伝情報の正確な複製と転写を可能にしています 。
参考)https://www.kazusa.or.jp/dna/words/
医療従事者にとって特に重要なのは、各ヌクレオチドが細胞内で果たす多様な機能です。DNA はデオキシリボヌクレオチドから、RNA はリボヌクレオチドから構成され、それぞれが異なる生物学的役割を担っています 。
参考)https://www.cellsignal.jp/science-resources/overview-of-metabolism
ヌクレオチドの生合成は、細胞の生存と増殖において極めて重要な代謝過程です 。デノボ経路は、「ゼロから」ヌクレオチドを合成する経路として知られ、アミノ酸、二酸化炭素、アンモニア、フォルミル基などの単純な前駆体から複雑なヌクレオチドを段階的に構築します 。
参考)https://kusuri-jouhou.com/creature2/metabolism.html
プリンヌクレオチドのデノボ合成では、まず α-D-リボース-5-リン酸から PRPP(5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸)が形成されます 。この過程で、糖の1位に N-グリコシド結合が形成され、グリシンの結合、炭素の追加、閉環による5員環の形成を経て、アミノイミダゾール-リボシル-5-リン酸が生成されます 。
最終的に6員環が追加されて IMP(イノシン一リン酸)が形成され、これが AMP と GMP の共通前駆体となります 。IMP からアデニロコハク酸を経て AMP が、キサントシンリン酸を経て GMP が合成されます 。
ピリミジンヌクレオチドの合成では、異なる経路をたどります。まず塩基部分が合成され、その後に糖とリン酸が結合するという、プリンとは逆の順序で進行します 。この経路では、ウリジンから UTP、シチジンから CTP ヌクレオチドが合成されます 。
サルベージ経路は、既存のヌクレオシドや塩基を再利用してヌクレオチドを合成する、エネルギー効率の高い代謝経路です 。この経路は、食事から吸収された核酸成分や、細胞内で分解された DNA・RNA の産物を有効活用します 。
参考)https://www.jfrl.or.jp/download/93
プリン塩基(アデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチン)の約90%が再利用されるという驚くべき効率性を示しています 。これは、プリンヌクレオチドの中間代謝物が再利用されて元のヌクレオチドに再合成される代謝系が存在するためです 。
一方、ピリミジンヌクレオチドは、ヌクレオシド、塩基を経て二酸化炭素、アンモニア、水にまで完全に分解される点でプリンと大きく異なります 。この違いは、細胞内でのプリンとピリミジンの代謝戦略の違いを反映しています。
ヌクレオチドの生合成は、フィードバック阻害などの精密な調整機構によって制御されています 。生合成経路の最終産物がその経路の初期段階の酵素を抑制することで、ヌクレオチドの過剰生産を防いでいます 。この制御機構は、細胞内の均衡を保つために不可欠です。
参考)https://minerva-clinic.or.jp/academic/terminololgyofmedicalgenetics/nagyou/nucleotide/
ヌクレオチドは、細胞のエネルギー代謝において中心的な役割を果たしています 。特に ATP(アデノシン三リン酸)は「生体のエネルギー通貨」として知られ、細胞内のほぼすべてのエネルギー要求過程に関与しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/46/6/46_KJ00003520445/_article/-char/ja/
ATP のリン酸基間の結合は高エネルギー結合と呼ばれ、この結合の切断により放出されるエネルギーが、様々な細胞機能を駆動します 。ATP → ADP → AMP の段階的な分解と、その逆方向の合成反応は可逆的であり、キナーゼ酵素とホスファターゼ酵素によって調節されています 。
興味深いことに、ATP においてアデニン(A)が選択された理由については、進化の偶然によるものと考えられています 。実際には GTP、CTP、TTP なども存在しますが、生物が誕生した頃にアデニンを持つ ATP を利用する生物がたまたま生き残って進化したためではないかと推測されています 。youtube
ATP の2つの高エネルギーリン酸結合のうち、切れるのは先端側の結合です 。これは、もし基部側の結合が切れてリン酸-糖-塩基(A)になってしまうと、RNA と同じ構造になってしまい、RNA が大量に使用された際に ATP が合成できなくなるという問題を回避するためと考えられています 。youtube
GTP(グアノシン三リン酸)も重要なエネルギー担体として、細胞内シグナル伝達やタンパク質合成の駆動、タンパク質の機能調節に関与しています 。これらのヌクレオチドは、プリンとピリミジンの合成のエネルギー源としても利用されます 。
参考)https://www.infinity-lab.jp/pdf-data/application_news/APPLICATIONNEWS_001.pdf
現代医療において、ヌクレオチド技術は診断分野で革命的な進展を遂げています 。遺伝子診断技術では、個人の DNA に含まれる一つひとつのヌクレオチドの並び方を調べる DNA シーケンシングが広く活用されています 。
参考)https://www.cosmobio.co.jp/support/technology/a/applications-of-modified-oligonucleotides-lnk.asp
単一バリアント検査では、疾患を引き起こすことが知られている遺伝子の特定のヌクレオチド変化を検出します 。例えば、鎌状赤血球症を引き起こす HBB 遺伝子内の特定のバリアントなど、臨床的に重要な変異の同定が可能です 。
参考)https://genetics.qlife.jp/tutorials/Genetic-Testing/different-types-of-genetic-tests
染色体検査では、染色体全体や長い DNA 配列を分析し、大きなスケールでのヌクレオチド変化を特定します 。トリソミーやモノソミー、重複、転座などの染色体異常が検出でき、ウィリアムズ症候群のような遺伝性疾患の診断に活用されています 。
オリゴヌクレオチドを用いた診断技術は、以下の3つの主要カテゴリーに分類されます :
新生児の集団検診では、毎年数百万人の新生児が遺伝子産物の異常や欠損を調べるための血液診断を受けており、フェニルケトン尿症などの先天性代謝障害の早期発見に貢献しています 。
参考)https://shikoku-cc.hosp.go.jp/book/page09.html
遺伝子発現検査では、細胞内の mRNA を調べることで、どの遺伝子が活性化しているかを調べることができます 。過剰発現や低発現は、多くの種類のがんや特定の遺伝性疾患を示唆する重要な指標となっています 。