軸索は神経細胞において情報を出力する役割を担う突起であり、他の神経細胞や効果器への信号伝達の中核を成します。軸索の最も特徴的な構造は、通常1本しか存在しないことで、これは樹状突起が複数本存在することと対照的です。
参考)軸索 - 脳科学辞典
軸索の形態的特徴として、基部では細いものの、末梢まで全長でほぼ同じ太さを保つ構造があります。この一定の太さを維持する構造は、軸索内部の細胞骨格成分であるニューロフィラメントと微小管によって支えられています。ニューロフィラメントは軸索の骨組みを支える主要なタンパク質であり、その量の増加に伴い軸索直径が増大することが示されています。
参考)ニューロフィラメント - Wikipedia
軸索の長さは神経細胞の中で最も長い突起となることが多く、末梢神経では1メートルに達するものもあります。軸索内では活動電位が減衰せずに伝導され、軸索末端では神経伝達物質を放出してシナプス伝達を行います。
参考)神経伝達 - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プロフ…
軸索の基部には軸索起始円錐と軸索初節という特別な構造が存在し、ここで活動電位の発火が起こります。軸索起始円錐では電位依存性イオンチャネルの著明な集積が見られ、樹状突起や細胞体で受容した刺激の最終的な統合が行われる部位となっています。
樹状突起は神経細胞において情報を受け取る役割を担う突起であり、他の神経細胞の軸索から送り出される情報を受信します。樹状突起の最も顕著な特徴は、細胞体から樹木の枝のように分岐した複数の突起を形成することです。
参考)樹状突起 - Wikipedia
樹状突起の形態的特徴として、基部で太く、先端に向かって細くなる構造があります。この形態は軸索とは正反対であり、樹状突起特有の情報処理機能に関連しています。樹状突起の長さは細胞体から数百マイクロメートル程度の範囲に広がることが一般的です。
樹状突起の表面には数千から数万ものシナプスが形成され、神経細胞同士の情報伝達を担っています。樹状突起の表面積がシナプスの数に直接影響し、これが脳の機能に重要な役割を果たします。樹状突起には樹状突起スパインと呼ばれる小さな突出構造が存在し、これらがシナプス形成の場となります。
参考)樹状突起スパイン - 脳科学辞典
樹状突起の内部構造では、微小管が主要な細胞骨格要素となっており、近位部では様々な極性を持った微小管が混在していますが、遠位部では遠位側を+端とする極性を持ちます。また、樹状突起にはリボソームや粗面小胞体が存在し、局所的なタンパク質合成が可能です。
軸索と樹状突起は、神経細胞における情報伝達において明確な方向性を持った役割分担を行っています。樹状突起は神経情報を神経細胞に伝える求心性の役割を果たし、軸索は神経細胞からの情報を末端に伝える遠心性の役割を担います。
参考)神経情報の伝達のしくみ(1)
軸索では、活動電位が発生すると電気信号が減衰せずに軸索末端まで伝導されます。この特性により、軸索は長距離にわたって確実に情報を伝達することができます。軸索末端では、活動電位が到達すると神経伝達物質が放出され、これが次の神経細胞の樹状突起や細胞体で受容されます。
樹状突起では、複数のシナプスから受け取った情報が統合され、部位によって強度が変化する膜電位変化として処理されます。この統合処理された情報は細胞体に伝達され、軸索起始部での活動電位発火の判断材料となります。樹状突起の複雑な分枝構造は、多様な情報源からの入力を効率的に統合するために重要な役割を果たしています。
参考)脳のネットワークを形成する神経細胞がどのようにできるのかを探…
神経細胞の発達過程において、樹状突起と軸索は異なる誘導メカニズムによって形成されます。樹状突起の形成には神経栄養因子BDNFが関与し、顆粒細胞のIP3受容体活性化によって制御されることが明らかになっています。
参考)神経細胞の突起の“伸び”と“つながりやすさ”は別々に制御され…
軸索の構造的特徴を理解する上で、細胞骨格成分の組成は重要な要素です。軸索では主にニューロフィラメントと微小管が細胞骨格を構成しており、これらが軸索の形態維持と機能に不可欠な役割を果たしています。
ニューロフィラメントは神経細胞に特異的なタンパク質であり、軸索や樹状突起の主要な細胞骨格成分として機能します。軸索において、ニューロフィラメントは軸索の太さを決定する重要な因子であり、その量的変化が軸索直径に直接影響を与えます。このニューロフィラメントの密度調節により、神経伝導速度の最適化が図られています。
参考)コラム
軸索内のニューロフィラメントは、細胞体で合成された後、軸索に沿って輸送されて機能部位に到達します。この輸送過程は「停止と移動」モデルで説明され、キネシンやダイニンなどの微小管モータータンパク質によって双方向に動くことができます。
参考)神経損傷のバイオマーカーとしての神経フィラメント軽鎖(NEF…
軸索変性疾患では、ニューロフィラメントの分布異常が観察されることが知られています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの疾患では、軸索近位部と遠位部でのニューロフィラメント存在量が著しく異なり、これが病態と密接に関連していると考えられています。
参考)https://www.ipu.ac.jp/data/doc/1712658161_doc_5_0.pdf
成熟した軸索では、樹状突起とは異なり、リボソームや粗面小胞体が存在せず、タンパク質合成がほとんど行われません。これにより、軸索は細胞体から供給される成分に依存した構造を維持しています。
参考)軸索輸送 - 脳科学辞典
樹状突起は神経細胞の発達過程において、軸索とは異なる独特な成長パターンと可塑性を示します。樹状突起の形態は、微小管が細胞体のどの場所でどちらの方向へ伸びていくかに大きく依存し、これが樹状突起特有の複雑な分枝構造を決定します。
参考)神経細胞の形態の複雑さを決める新しい因子を発見
樹状突起の発達過程では、神経栄養因子BDNFが重要な役割を果たします。顆粒細胞のIP3受容体が活性化されると、カルシウム貯蔵庫からカルシウムが放出され、細胞内カルシウム濃度が上昇してBDNFが産生されます。このBDNFが顆粒細胞の軸索末端に作用してグルタミン酸を放出し、プルキンエ細胞が樹状突起の形成を行うという制御機構が明らかになっています。
樹状突起の可塑性は、脳の学習・記憶機能において極めて重要な役割を担います。樹状突起スパインの形態変化や新生は、シナプス可塑性の構造的基盤となり、長期記憶の保持に関与します。樹状突起が部分的に区画された構造を持つことは、記憶・学習などの機能を神経細胞が実行する上で重要な意味を持ちます。
年齢とともに脳の樹状突起は退縮し、シナプスも減少していきます。この現象は脳の老化の一因であり、様々な疾患によっても樹状突起の退縮が起こります。樹状突起の形態維持には、内側を支える骨組みである微小管が重要であり、微小管の生成と維持機構の解明が脳の老化予防や疾患治療につながる可能性があります。
樹状突起における局所的なタンパク質合成能力は、軸索との重要な相違点の一つです。樹状突起にはリボソームや粗面小胞体が存在し、シナプス活動に応じた迅速なタンパク質合成が可能であり、これがシナプス可塑性の分子基盤となっています。