デング熱はデングウイルスに感染したネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで発症する感染症です。潜伏期間は一般的に3〜7日(範囲としては2〜15日)とされています。感染しても約50〜80%の人は不顕性感染(症状が出ない)で終わりますが、症状が現れる場合は特徴的な経過をたどります。
デング熱の症状は突然の高熱(38〜40℃)から始まり、以下の症状を伴うことが多いです。
発熱パターンは特徴的な二峰性を示すことが多く、発症後3〜4日経過してから胸部や体幹から始まる発疹が出現し、次第に四肢・顔面へと広がります。この発疹は解熱時期に現れるのが典型的で、医療現場での診断の重要な手がかりとなります。
症状は通常1週間程度で自然に消失し、多くの場合は後遺症なく回復します。しかし、デングウイルスには4つの血清型(1〜4型)があり、異なる型に再感染した場合に重症化しやすいという特徴があります。このため、デング熱の既往歴は重要な問診ポイントとなります。
デング熱の診断には、症状の評価と共に渡航歴の確認が重要な鍵となります。日本国内では主に「輸入症例」(海外渡航で感染し、帰国後に発症)が多いですが、2014年には国内での流行も確認されており、国内感染の可能性も考慮する必要があります。
医療現場での診断アプローチは以下の通りです。
デング熱は感染症法における4類感染症に分類されるため、診断した医師には直ちに最寄りの保健所への届出義務があります。熱帯病の診療に精通した施設での検査・診断が望ましく、検査体制が整っていない場合には地方衛生研究所や国立感染症研究所への検体送付も検討します。
医療従事者は、デング熱を疑った時点で適切な検査を速やかに実施し、確定診断に努めることが重要です。特に熱帯・亜熱帯地域からの帰国後1~2週間以内に発熱を認める患者では、積極的にデング熱の可能性を考慮すべきでしょう。
デング熱にはワクチンや特異的な抗ウイルス薬は存在せず、治療の中心は対症療法と合併症の予防になります。医療現場での適切な治療管理には以下のポイントが重要です。
基本的な治療方針。
解熱・鎮痛療法。
デング熱の解熱鎮痛剤の選択には注意が必要です。アセトアミノフェンが第一選択とされ、イブプロフェンやアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やサリチル酸系の解熱鎮痛剤は出血傾向を助長する可能性があるため禁忌とされています。
水分補給。
治療環境と経過観察。
デング熱患者の入院適応と経過観察期間は重症度によって異なります。
医療従事者は、デング熱の診療においては単なる解熱だけでなく、脱水や出血傾向の予防と早期発見が重要であることを認識し、適切な経過観察とモニタリングを行う必要があります。特に解熱期には病態が急変する可能性があるため、バイタルサインの慎重な観察が求められます。
デング熱の多くは自然回復しますが、一部の患者では重症化し、デング出血熱(重症型デング)と呼ばれる状態に進行することがあります。医療従事者がこの重症化のリスクと兆候を理解することは、適切な治療介入のために非常に重要です。
重症型デングへの進行リスク要因。
重症化の時期。
通常、発症から3~7日後に重症化が起こりやすく、解熱期に一致して急激な病態悪化がみられることが多いです。この時期には24~48時間の厳重な経過観察が必要です。
危険兆候(要注意サイン)。
以下の症状が現れた場合、重症化の可能性を考慮して速やかな対応が必要です。
重症型デングの病態と治療。
重症型デングでは、血漿漏出による循環血液量減少、血液濃縮、ショック状態などが問題となります。このような状態では以下の治療が必要です。
重症型デングの治療には、病気の進行や病態に精通した医療チームによる管理が必要です。適切な治療により、死亡率は1%未満に抑えられています。
デング熱は熱帯・亜熱帯地域では年間を通じて発生しますが、日本を含む温帯地域では、媒介蚊が活動する夏季から秋にかけてリスクが高まります。特に日本では、2014年に約70年ぶりに国内感染例が確認され、2019年にも国内感染例が報告されているため、医療機関における季節性の対応準備が重要です。
季節による患者数の変動と準備。
医療施設では、以下の季節性準備が推奨されます。
夏季に増加する発熱性疾患(インフルエンザ、溶連菌感染症など)との鑑別診断フローの整備
デング熱患者から直接感染することはありませんが、患者の血液に接触する際の標準予防策の徹底
医療従事者は、特に夏季から秋にかけての発熱患者の診療において、患者の海外渡航歴だけでなく、国内での蚊への曝露歴も重要な問診項目として考慮する必要があります。また、媒介蚊の生息地である公園や墓地などの訪問歴も確認することで、国内感染例の早期発見につながる可能性があります。
気候変動による温暖化の影響で媒介蚊の生息域が拡大している現状を踏まえ、これまでデング熱の流行がなかった地域の医療機関でも、準備と対応が求められています。
デング熱の詳細な臨床情報と画像資料(国立感染症研究所)
医療施設における季節性対応の詳細については、厚生労働省の「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き」を参考にすることができます。この手引きには、流行期における医療機関の対応方針が詳しく記載されています。
デング熱に対する特異的なワクチンや治療法が限られている現状では、予防策が極めて重要です。医療従事者は自身の感染予防だけでなく、患者への適切な予防指導も行う必要があります。
医療従事者自身の予防策。
患者への予防指導ポイント。
医療従事者は、デング熱の流行国・地域の最新情報を把握し、渡航予定の患者に予防的アドバイスを提供することも重要です。WHOやCDCなどの国際機関、そして国内では厚生労働省や国立感染症研究所から提供される最新の流行情報や予防ガイドラインを定期的に確認しましょう。
また、デング熱患者の診療にあたる医療従事者は、患者の隔離は必要ないものの、患者が蚊に刺されることを防止する環境整備が重要であることを理解し、適切な病室管理を行うことが求められます。
厚生労働省によるデング熱の最新情報と対策
医療現場での教育ポイント。
医療従事者間での継続的な知識共有と症例検討を通じて、デング熱診療の質を高めていくことが望ましいでしょう。
デング熱の重症度分類 | 治療環境 | 必要な観察期間 |
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危険兆候のないデング熱 | 感染症科のある病院での入院 | 解熱後3日間 |
危険兆候のあるデング熱 | デング熱診療経験のある専門病院 | 解熱後7日間 |
重症型デング | 集中治療室 | 全身状態安定まで継続的観察 |
以上、デング熱の症状と治療方法について医療従事者向けの情報をまとめました。適切な診断と治療によって、多くのデング熱患者は合併症なく回復します。ただし、重症化のリスクを常に念頭に置き、警戒サインに注意しながら診療を行うことが重要です。最新のガイドラインや診療マニュアルを参照しつつ、医療チーム全体で知識と経験を共有することで、デング熱診療の質を高めていきましょう。