ブロムペリドールは昏睡状態の患者に対して絶対禁忌とされています。この理由は、本剤の強力な中枢神経抑制作用により、既に意識レベルが低下している患者の昏睡状態をさらに悪化させる可能性があるためです。
昏睡状態の患者では以下のような生理学的変化が生じており、ブロムペリドールの投与により重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。
特に、ブロムペリドールは抗ドーパミン作用により体温調節中枢を抑制するため、昏睡状態の患者では体温管理がより困難になります。また、制吐作用により嘔吐反射が抑制されることで、誤嚥のリスクがさらに高まる可能性があります。
重症心不全患者に対するブロムペリドールの投与は絶対禁忌です。この制限の背景には、ブロムペリドールの心血管系への複数の作用機序があります。
ブロムペリドールが心不全患者に与える主な影響。
心不全の重症度分類(NYHA分類)においてクラスIII以上の患者では、わずかな心機能の低下でも生命に関わる状態となる可能性があります。特に、左室駆出率が30%以下の患者では、ブロムペリドールによる心筋抑制作用が致命的な結果をもたらす可能性があります。
また、心不全患者では肝血流量の低下により薬物代謝が遅延し、ブロムペリドールの血中濃度が予想以上に上昇する可能性もあります。
パーキンソン病またはレビー小体型認知症の患者に対するブロムペリドールの投与は絶対禁忌とされています。この制限は、ブロムペリドールの作用機序とパーキンソン病の病態生理が密接に関連していることに起因します。
パーキンソン病は黒質線条体系のドーパミン神経の変性により、脳内ドーパミン濃度が著しく低下する疾患です。一方、ブロムペリドールは強力な抗ドーパミン作用を有するため、以下のような重篤な症状悪化を引き起こします。
興味深いことに、パーキンソン病患者では健常者と比較してブロムペリドールに対する感受性が10倍以上高いという報告があります。これは、既に低下しているドーパミン機能に対する代償機構が限界に達しているためと考えられています。
レビー小体型認知症患者では、抗精神病薬に対する過敏性がさらに高く、少量の投与でも重篤な錐体外路症状や意識障害を引き起こす可能性があります。
妊婦または妊娠している可能性のある女性に対するブロムペリドールの投与は絶対禁忌です。この制限は、動物実験および臨床報告に基づく胎児への重篤なリスクが確認されているためです。
胎児への影響に関する科学的根拠:
動物実験では以下の胎児毒性が報告されています。
類似化合物であるハロペリドールでは、ヒトにおいても催奇形性を疑う症例が報告されており、ブロムペリドールでも同様のリスクが懸念されます。
妊娠後期投与による新生児への影響:
妊娠後期にブロムペリドールが投与された場合、新生児に以下の症状が現れる可能性があります。
授乳期の注意点:
ブロムペリドールは動物実験で乳汁中への移行が確認されており、授乳中の使用は推奨されません。類似化合物のハロペリドールではヒト母乳中への移行も報告されているため、授乳を継続する場合は本剤の投与を避けるか、授乳を中止する必要があります。
ブロムペリドールには、併用により重篤な副作用を引き起こす可能性のある薬物相互作用が存在します。特に注目すべきは、アドレナリンとの併用禁忌です。
アドレナリンとの相互作用メカニズム:
ブロムペリドールはα受容体遮断作用を有するため、アドレナリンのα作用を阻害し、β作用のみが発現します。この結果、以下のような「アドレナリン逆転現象」が生じます。
この現象は、アドレナリンの昇圧効果を期待して投与した場合に、逆に血圧が低下するという予期しない結果をもたらすため、極めて危険です。
例外的使用条件:
ただし、以下の場合はアドレナリンとの併用が許可されています。
これらの場合は、アドレナリンの使用による利益が相互作用のリスクを上回ると判断されるためです。
その他の重要な薬物相互作用:
これらの相互作用は、患者の生命に関わる重篤な結果をもたらす可能性があるため、処方前の詳細な薬歴確認が不可欠です。
臨床現場では、患者が市販薬やサプリメントを服用している場合も多いため、包括的な薬物歴の聴取と、薬剤師との連携による相互作用チェックが重要となります。