組織診断群は、サルコイドーシスの確定診断における最も信頼性の高い方法です。診断基準では以下の3つの条件を全て満たす必要があります。
参考)わが国のサルコイドーシスの診断基準2023と重症度分類
第一に、壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が組織学的に証明されていることが必須です。類上皮細胞肉芽腫は200~300μm大の境界明瞭な非乾酪性肉芽腫であり、孤立性あるいは融合した形で認められ、肉芽腫には類上皮細胞のほかにリンパ球やラングハンス型巨細胞、異物型巨細胞が含まれます。
参考)わが国におけるサルコイドーシスの診断基準と重症度分類
第二に、既知の原因による肉芽腫やサルコイド反応を除外できていることが求められます。結核、真菌症などの感染性肉芽腫性疾患との鑑別が不可欠であり、特に結核は日本における重要な鑑別疾患です。
参考)サルコイドーシスの診断基準を教えてください。 |サルコイドー…
第三に、全身の臓器病変を十分に評価したうえで、サルコイドーシスに一致する臨床所見があることが確認されなければなりません。病変の組織は皮膚、筋肉、表在リンパ節などから採取されることが多く、これらは外来でも生検が可能です。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610027B_upload/201610027B0046.pdf
臨床診断群は、組織診断が得られない場合に適用される診断基準です。2024年4月に診断基準が見直され、心臓限局性サルコイドーシスが新たに追加されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10178951/
診断には呼吸器、眼、心臓の3臓器中2臓器以上でサルコイドーシスに特徴的な臨床所見があることが必要です。呼吸器系病変では両側肺門縦隔リンパ節腫脹が特徴的であり、胸部画像検査で確認されます。眼病変では豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節、塊状硝子体混濁、網膜血管周囲炎などが挙げられます。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=268
さらに特徴的検査項目のうち2つ以上が陽性である必要があります。特徴的検査所見には5項目が設定されており、両側肺門リンパ節腫脹、血清ACEまたはリゾチーム高値、血清可溶性IL-2受容体高値、GaシンチグラフィーまたはFDG-PETでの明らかな集積所見、気管支肺胞洗浄液でCD4/CD8比が3.5以上であることが含まれます。
参考)サルコイドーシス(sarcoidosis)(リウマチ・膠原病…
血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、サルコイドーシスの診断において重要なバイオマーカーです。健常者では血管内皮膜結合型ACEが血中で可溶型ACEとなり循環していますが、サルコイドーシスでは肉芽腫内の類上皮細胞を含む単球系細胞からACEが産生されており、血清ACE値は肉芽腫の総量を反映するとされています。
参考)サルコイドーシス
サルコイドーシスにおける感度は30%から60%と報告されており、ACE遺伝子型により血清ACEは影響されるため注意が必要です。血清リゾチームは単球、マクロファージから産生される酵素であり、同様に感度は30%から60%と報告されています。ACE値が遺伝子多型により低値となる場合に併用する意義があると考えられており、新しい診断基準ではACEまたはリゾチームの上昇が特徴的な検査項目の1つとして採用されています。
参考)サルコイドーシスとは?症状について解説|渋谷・大手町・みなと…
血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)は、520IU/mLをカットオフとした際に約70%の陽性率を示し、診断における有用性が高い検査です。気管支肺胞洗浄検査では、洗浄液細胞分画中のリンパ球増多(リンパ球 > 15%)、CD4+/CD8+比 > 3.5がみられる場合はサルコイドーシスの診断が示唆されます。
参考)サルコイドーシス - 05. 肺疾患 - MSDマニュアル …
呼吸器系病変はサルコイドーシスの最も頻度の高い病変であり、約90%の患者に認められます。両側肺門縦隔リンパ節腫脹は本症の特徴的な所見であり、胸部単純X線写真やCT検査で確認されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8066110/
胸部CT(HRCT)では、リンパ路に沿った肉芽腫性病変の分布が特徴的です。上葉・中葉優位の非区域性の小葉中心性の粒状影、すりガラス陰影やすりガラス状結節、気管支肺動脈束の腫大、小葉間隔壁の肥厚・粒状影、臓側胸膜上の粒状影などを認めます。肉芽腫性病変が粒状影として集族して結節を形成し、その周囲に微細粒状影が取り巻くgalaxy signも特徴的とされています。
気管支肺胞洗浄液の解析では、CD4/CD8比が3.5を超えて上昇することがサルコイドーシスの診断に有用です。ただし、少数ながらCD4/CD8比が低値を示す症例も存在し、CD8 alveolitisと呼ばれることがあります。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/040060463j.pdf
眼病変はサルコイドーシスの55~79%に認められ、肺病変に次いで頻度の高い病変です。眼病変を強く示唆する臨床所見として6項目が診断基準に挙げられています。肉芽腫性前部ぶどう膜炎では豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節が特徴的であり、隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着も重要な所見です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsogd/42/1_2/42_29/_pdf
塊状硝子体混濁は雪玉状または数珠状を呈し、網膜血管周囲炎は主に静脈に認められます。近年、硝子体液のCD4/CD8比が3.5以上であれば眼サルコイドーシスの可能性が高いことが報告されており、診断における新しいアプローチとして注目されています。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/sarcoidosis.pdf
心臓病変は日本人のサルコイドーシス症の20%以上に認められ、欧米と比較して高頻度です。心サルコイドーシスでは電気活動が障害され、心室頻拍、右脚ブロック、左脚ブロック、完全房室ブロック、心室細動などさまざまな不整脈が生じる可能性があります。突然死につながりうる心室細動や完全房室ブロックが初発症状となることもあり、日本でもっとも多い死因は心臓病変によるものです。
参考)心臓サルコイドーシス - 04. 心血管疾患 - MSDマニ…
サルコイドーシスは病理組織学的に肉芽腫を形成する疾患、もしくは画像所見で肺門縦隔を中心とするリンパ節や全身の諸臓器に病変を認める疾患との鑑別が必要です。最も重要な鑑別疾患は結核であり、日本では結核は依然として重要な公衆衛生上の問題です。
参考)https://www.jssog.com/wp/wp-content/themes/jssog/images/system/guidance/2-6-7.pdf
真菌感染症も重要な鑑別対象であり、アスペルギルス症、ブラストミセス症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、ヒストプラズマ症などが挙げられます。これらの感染性肉芽腫性疾患では、組織学的に乾酪壊死や真菌要素が認められることが鑑別点となります。
参考)病理から見たサルコイドーシスの鑑別診断
悪性リンパ腫も鑑別すべき疾患であり、特に葡萄膜リンパ腫は眼サルコイドーシスと類似した所見を呈することがあります。その他、薬剤性のサルコイドーシス様反応も知られており、抗TNF-α製剤使用中にdrug induced sarcoidosis-like reactionを発症することがあります。組織診断においても、類上皮細胞肉芽腫の性状、分布、周囲の組織反応などを詳細に評価し、他の肉芽腫性疾患との鑑別を慎重に行う必要があります。
参考)https://www.jssog.com/wp/wp-content/themes/jssog/images/system/guidance/2-1-6.pdf