ぶどう膜(uvea)という名称は、ラテン語の「uva」(ぶどう)に由来している。この医学用語の歴史は古く、学術的には1830年にMackenzieによって初めて「uveitis」(ぶどう膜炎)という用語が文献上で使用された。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/uveitis_guideline.pdf
興味深いことに、当時はまだ眼底鏡も開発されておらず、医師は肉眼で前部ぶどう膜炎の所見を観察しながら治療を行っていた時代だった。その後、von Helmholzによる眼底鏡の実用化(1851年)を契機として、20世紀に入ると各種診断・検査機器の発達により、後部ぶどう膜炎の検査・診断技術が飛躍的に進歩した。
この命名の背景には、眼球の解剖学的構造が果物のぶどうの房に酷似していることがある。特に、血管やメラニン色素が豊富な組織の色彩と形状が、自然界のぶどうの実と驚くほど類似していたため、古代の医師や解剖学者がこの直感的で覚えやすい名称を採用したのである。
参考)https://www.eye.med.kyushu-u.ac.jp/patient/question/index.html
ぶどう膜の名前の由来において最も重要な要素が、メラニン色素に富んだ組織の独特な色合いである。この組織の色が、フルーツのぶどう色によく似ているため「ぶどう膜」と名付けられた。
参考)https://mirulab.jp/column/cat03_eye_disease/1197/
メラニン色素は、眼球内部を暗室状態(映画館のような状態)に保つ重要な役割を果たしている。角膜から入射した光を網膜に効率よく収束させるためには、眼球内部が暗室である必要があり、ぶどう膜に豊富に含まれるメラニン色素がこの機能を担っている。
参考)https://www.hari-care.jp/%E7%9C%BC%E7%90%83%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90%E5%BC%B7%E8%86%9C%E3%83%BB%E8%A7%92%E8%86%9C%E3%83%BB%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86%E8%86%9C%E3%83%BB%E7%B6%B2%E8%86%9C/
また、これらの組織は血管に富んでいるという共通点があり、「球形で色もブドウの実に似ている」ことが命名の根拠となっている。血管密度が非常に高いため、他の眼組織と比較して炎症が起きやすく、多くの場合全身の炎症も伴うという特徴を持つ。
参考)https://www.hikarigaoka.net/search01/%E3%83%96%E3%83%89%E3%82%A6%E8%86%9C%E7%82%8E/
この色素の豊富さは、原田病という自己免疫疾患との関連でも注目されている。原田病は、メラニン色素が炎症を起こす疾患で、メラニン色素の多い組織である目、耳、髄膜、皮膚、毛髪などに多発的な炎症を生じることがある。
ぶどう膜は、虹彩(こうさい)、毛様体(もうようたい)、脈絡膜(みゃくらくまく)の3つの組織をまとめた総称である。これらは眼球の前方から後方まで、眼球の内部を包むように存在している。
参考)https://hinoganka.com/column/%E8%99%B9%E5%BD%A9%E7%82%8E%E3%80%81%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86%E8%86%9C%E7%82%8E%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BD%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F%EF%BC%9F%EF%BC%9F/
虹彩の役割と機能 📸
虹彩は黒目の中心である瞳孔を囲んでいる部分で、縮まったり広がったりして目に入る光の量やピントを調節する機能を持つ。虹彩には虹彩紋理(もんり)と呼ばれる一人一人異なった模様があり、この紋理は目の中で保護されており形状が変わりにくいため、虹彩認証システムにも活用されている。
参考)https://www.hazawa-kubotaganka.com/uvea/
毛様体の構造と機能 ⚙️
毛様体は虹彩につながる組織で、水晶体の厚みを調整して焦点を合わせる機能を持っている。また、毛様体の上皮は房水を産生する重要な役割も担っており、眼圧の維持に欠かせない組織である。
脈絡膜の血管系と栄養供給 🩸
脈絡膜は網膜の外側にある組織で、血管とメラニン色素に非常に富んでいる。この血管系は眼球の多くの組織に酸素や栄養素を届ける重要な役割を担っており、瞳孔以外からの光を遮って目の中の光の量を保持し、眼球を保護する働きも持っている。
眼球に張り巡らされている神経や血管の経路としての役割も重要で、眼動脈から分岐した血管網がぶどう膜を通って眼球全体に栄養や酸素を供給している。
ぶどう膜は他の眼組織に比べて血管の数が多く、その密度も非常に高いため炎症が起きやすい特徴を持つ。血液の流れと関係して、全身の他の臓器に起こった炎症に伴ってぶどう膜炎が発症することも多い。
参考)https://www.sawada-eye.com/budou.html
三大ぶどう膜炎の疾患 🏥
ぶどう膜炎の原因の約半数を占めるのが、ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病の三大ぶどう膜炎である。これらは難病ではあるが、様々な検査から診断がつけば適切な治療方針を立てることができる。
解剖学的分類と病態 🔍
ぶどう膜炎は解剖学的に以下のように分類される:
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/17-%E7%9C%BC%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86%E8%86%9C%E7%82%8E%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86%E8%86%9C%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
分類 | 主な症状 | 特徴 |
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前部ぶどう膜炎 | 虹彩炎、虹彩毛様体炎 | 前眼部に限局した炎症 |
中間部ぶどう膜炎 | 硝子体の炎症 | 毛様体扁平部に限局 |
後部ぶどう膜炎 | 網膜炎、脈絡膜炎 | 視神経乳頭の炎症を含む |
汎ぶどう膜炎 | 全領域の炎症 | 前部、中間部、後部すべてに炎症 |
ぶどう膜の血管系は、眼球における栄養供給と老廃物処理の中心的な役割を担っている。家の構造に例えると、ぶどう膜は外壁と内壁の中間部分で、電気配線や配管を通すルートのような機能を果たしている。
血管網の特殊な構造 🌐
眼動脈から分岐した複雑な血管網がぶどう膜を通って眼球全体に分布し、各組織に酸素と栄養を供給している。この血管網の密度は他の眼組織と比較して極めて高く、そのため炎症性疾患の標的となりやすい特徴がある。
房水循環との関連性 💧
眼圧をコントロールしている房水循環において、房水の産生と老廃物や水分の吸収の両方をぶどう膜が担っている。毛様体で産生された房水は前房へ流入し、主にシュレム管から排出されるが、この一連の循環システムにおいてぶどう膜の機能は不可欠である。
この独特な血管構造により、ぶどう膜は全身疾患の眼症状として現れることが多く、内科的疾患の早期発見の手がかりとなることもある。膠原病、関節炎、腸疾患、皮膚疾患、脳神経疾患、糖尿病、血液疾患、悪性腫瘍などがぶどう膜炎の原因となることがあり、眼科医は患者の眼だけでなく全身の状態にも注意を払いながら診察を行っている。
また、房水や硝子体液の検査によって、ウイルスや細菌、その他の病原体の感染が原因であることが判明する場合もあり、ぶどう膜の血管構造は病原体の侵入経路としても重要な意味を持っている。