アナフィラキシーショックとは、アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応であるアナフィラキシーに、血圧低下や意識障害を伴った状態を指します。特にⅠ型アレルギー反応に分類され、IgE抗体を介した反応が主な機序となっています。
アナフィラキシーの症状は、皮膚が赤くなる、息苦しくなる、激しい嘔吐をするなど、複数の症状が同時に急激に進行します。特に注意すべき症状は血圧低下で、ぐったりした状態になることもあります。
ショック状態とは急性の循環不全を呈する状態であり、血圧が低下し、組織に十分な血流が得られず、主要臓器が低酸素となる状態です。アナフィラキシーショックでの死因としては、第1位が咽喉頭浮腫による上気道閉塞、第2位がショックとなっており、いずれも迅速な対応が求められます。
発症メカニズムとしては、アレルゲンが体内に入ると、肥満細胞やバソフィル(好塩基球)から、ヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が放出され、血管透過性の亢進や気管支平滑筋の収縮などを引き起こします。これにより全身の多臓器に症状が現れ、特に循環器系や呼吸器系への影響が重篤な状態を引き起こします。
アナフィラキシーショックの症状は多岐にわたり、複数臓器に同時に急激に進行することが特徴です。臨床所見は以下の臓器別に分類されます。
日本のアレルギー学会によれば、アナフィラキシーの重症度はグレード1(軽症)からグレード5(最重症)に分類されます。重症度の判定は、最も症状グレードの高い臓器症状により行います。特に注意すべき点として、グレード1(軽症)の症状が複数あるのみではアナフィラキシーとは判断せず、グレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、またはグレード2(中等症)の症状が複数ある場合にアナフィラキシーと診断します。
重症度分類の具体例。
アナフィラキシーショックの診断においては、症状の急激な進行と複数臓器の症状出現が重要なポイントです。特に、血圧低下や意識障害を伴う場合はアナフィラキシーショックと診断し、迅速な治療介入が必要です。
アナフィラキシーショックの治療において、最も重要かつ第一選択となるのはアドレナリン(エピネフリン)の筋肉注射です。アナフィラキシーが疑われた時点で、重症度評価を待たずに速やかなアドレナリン投与が推奨されています。
特にグレード3(重症)の症状に対しては必ずアドレナリン筋肉注射を行い、グレード2(中等症)でも以下の条件に該当する場合はアドレナリン投与を考慮します。
アドレナリンの投与量と投与方法。
アドレナリン投与の主な作用機序。
重要な注意点として、従来α遮断薬やブチロフェノン系などの抗精神病薬との併用は禁忌とされていましたが、2018年3月27日の厚生労働省通知により、アナフィラキシーショック発現時にはこれらの薬剤を使用中の患者に対してもアドレナリン製剤の使用が可能となりました。これは生命を脅かすアナフィラキシーショックの緊急性を考慮した重要な変更点です。
アドレナリン投与後も症状改善が見られない場合や血圧低下が持続する場合は、大量輸液療法や昇圧薬の投与、重度の気道閉塞に対する気管挿管などのより高度な治療が必要となります。
アナフィラキシーショックの治療において、アドレナリンが第一選択薬ですが、症状に応じて様々な補助療法を併用することが重要です。主な補助療法は。
特に注意すべき点として、アナフィラキシーショックでは初期治療で症状が改善しても、遅延して再び症状が起きる「二相性アナフィラキシー反応」が見られることがあります。二相性反応は通常、初回症状から1〜72時間(多くは8時間以内)に発生し、初期症状よりも重篤になる可能性もあります。
そのため、アナフィラキシー症状出現後は最低24時間の経過観察が必要です。二相性反応のリスク因子は。
入院による経過観察中は、バイタルサインのモニタリングを継続し、症状の再燃に備えることが重要です。
医療機関外でのアナフィラキシーショック発症時の対応(プレホスピタルケア)は、患者の生命予後を大きく左右します。特に食品アレルギーやハチ刺傷によるアナフィラキシーは自宅や屋外で発生することが多く、適切な初期対応が重要です。
アナフィラキシーの既往がある患者やリスクの高い患者には、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)が処方されることがあります。エピペンは2011年から保険適応となり、登録医によって処方が可能です。エピペンの処方が推奨される患者。