アナフィラキシーショック 症状と治療方法の最新知識

アナフィラキシーショックの症状と治療法について医療従事者向けに詳細に解説。早期発見と適切な対応が生命を救うカギとなりますが、最新のガイドラインに基づく処置をご存知でしょうか?

アナフィラキシーショック 症状と治療方法

アナフィラキシーショック 症状と治療の要点
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緊急性

複数臓器に急速に現れる全身性アレルギー反応で、早期対応が生死を分ける

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第一選択薬

アドレナリンの筋肉注射が唯一にして最も重要な治療法

⚠️
経過観察

二相性反応の可能性があるため、症状改善後も最低24時間の観察が必要

アナフィラキシーショックの定義と発生機序

アナフィラキシーショックとは、アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応であるアナフィラキシーに、血圧低下や意識障害を伴った状態を指します。特にⅠ型アレルギー反応に分類され、IgE抗体を介した反応が主な機序となっています。

 

アナフィラキシーの症状は、皮膚が赤くなる、息苦しくなる、激しい嘔吐をするなど、複数の症状が同時に急激に進行します。特に注意すべき症状は血圧低下で、ぐったりした状態になることもあります。

 

ショック状態とは急性の循環不全を呈する状態であり、血圧が低下し、組織に十分な血流が得られず、主要臓器が低酸素となる状態です。アナフィラキシーショックでの死因としては、第1位が咽喉頭浮腫による上気道閉塞、第2位がショックとなっており、いずれも迅速な対応が求められます。

 

発症メカニズムとしては、アレルゲンが体内に入ると、肥満細胞やバソフィル(好塩基球)から、ヒスタミンやロイコトリエンプロスタグランジンなどの化学伝達物質が放出され、血管透過性の亢進や気管支平滑筋の収縮などを引き起こします。これにより全身の多臓器に症状が現れ、特に循環器系や呼吸器系への影響が重篤な状態を引き起こします。

 

アナフィラキシーショックの臨床所見と重症度分類

アナフィラキシーショックの症状は多岐にわたり、複数臓器に同時に急激に進行することが特徴です。臨床所見は以下の臓器別に分類されます。

  1. 皮膚・粘膜症状
    • じんましん、発赤、熱感
    • 掻痒感(かゆみ)
    • 血管浮腫(まぶた、口唇、舌、口蓋など)
    • 金属のような味覚異常
  2. 呼吸器症状
    • 上気道:くしゃみ、鼻水、咽頭違和感、嗄声(声がれ)、喉頭絞扼感
    • 下気道:咳嗽、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼ
  3. 消化器症状
    • 悪心・嘔吐
    • 腹痛
    • 下痢
  4. 循環器症状
    • 頻脈
    • 血圧低下
    • 不整脈
    • 胸痛
    • 心停止
  5. 神経症状
    • めまい
    • 意識障害
    • 痙攣

日本のアレルギー学会によれば、アナフィラキシーの重症度はグレード1(軽症)からグレード5(最重症)に分類されます。重症度の判定は、最も症状グレードの高い臓器症状により行います。特に注意すべき点として、グレード1(軽症)の症状が複数あるのみではアナフィラキシーとは判断せず、グレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、またはグレード2(中等症)の症状が複数ある場合にアナフィラキシーと診断します。

 

重症度分類の具体例。

  • グレード1(軽症):限局性の皮膚症状、軽度の鼻炎症状、軽度の腹部不快感
  • グレード2(中等症):広範囲の皮膚症状、喘鳴を伴わない呼吸困難、嘔吐や下痢
  • グレード3(重症):呼吸不全、重度の喘鳴、チアノーゼ、低血圧、意識障害
  • グレード4(最重症):呼吸停止、循環不全、意識消失
  • グレード5(致死的):心停止

アナフィラキシーショックの診断においては、症状の急激な進行と複数臓器の症状出現が重要なポイントです。特に、血圧低下や意識障害を伴う場合はアナフィラキシーショックと診断し、迅速な治療介入が必要です。

 

アナフィラキシーショックの緊急治療とアドレナリン投与法

アナフィラキシーショックの治療において、最も重要かつ第一選択となるのはアドレナリン(エピネフリン)の筋肉注射です。アナフィラキシーが疑われた時点で、重症度評価を待たずに速やかなアドレナリン投与が推奨されています。

 

特にグレード3(重症)の症状に対しては必ずアドレナリン筋肉注射を行い、グレード2(中等症)でも以下の条件に該当する場合はアドレナリン投与を考慮します。

  • 過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合
  • 症状の進行が激烈な場合
  • 循環器症状を認める場合
  • 呼吸器症状で気管支拡張薬の吸入でも効果がない場合

アドレナリンの投与量と投与方法。

  • 通常、アドレナリン0.01mg/kgを大腿外側に筋注(成人最大0.5mg、小児最大0.3mg)
  • 市販のアドレナリンは通常1mg/1mL製剤のため、投与量は1mLより少量となることに注意
  • 必要に応じて5〜15分ごとに再投与可能

アドレナリン投与の主な作用機序。

  1. α1受容体を介した血管収縮作用 → 血圧上昇効果
  2. β1受容体を介した心拍数・心収縮力増強 → 心拍出量増加
  3. β2受容体を介した気管支拡張作用 → 呼吸困難改善
  4. 肥満細胞からの化学伝達物質放出抑制 → アレルギー反応の抑制

重要な注意点として、従来α遮断薬やブチロフェノン系などの抗精神病薬との併用は禁忌とされていましたが、2018年3月27日の厚生労働省通知により、アナフィラキシーショック発現時にはこれらの薬剤を使用中の患者に対してもアドレナリン製剤の使用が可能となりました。これは生命を脅かすアナフィラキシーショックの緊急性を考慮した重要な変更点です。

 

アドレナリン投与後も症状改善が見られない場合や血圧低下が持続する場合は、大量輸液療法や昇圧薬の投与、重度の気道閉塞に対する気管挿管などのより高度な治療が必要となります。

 

アナフィラキシーショックの補助療法と二相性反応の管理

アナフィラキシーショックの治療において、アドレナリンが第一選択薬ですが、症状に応じて様々な補助療法を併用することが重要です。主な補助療法は。

  1. 抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)
    • 主に皮膚症状(麻疹、紅斑、かゆみ)に効果がある
    • アナフィラキシー出現時の第一選択薬ではなく、作用発現に30分〜1時間かかる
    • 代表薬剤:d-クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど
  2. H2ブロッカー
    • ファモチジンなどのH2ブロッカーを抗アレルギー薬と同時投与することでアレルギー反応の抑制効果が高まる
    • アナフィラキシーに対するH2ブロッカー投与は保険診療では適応外使用だが臨床で広く行われている
    • 副作用として肝機能障害や汎血球減少の可能性があるが、抗アレルギー薬との同時投与による特別な副作用は少ない
  3. ステロイド薬
    • 作用発現までに数時間を要するため急性期の症状改善には寄与せず、遅発性・持続性症状や二相性反応の予防に使用
    • 二相性アナフィラキシー予防効果は完全には立証されていないが広く使用されている
    • 代表薬剤:メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなど
  4. β2刺激薬
    • 喘鳴、咳嗽、息切れなどの下気道症状に有効
    • 上気道閉塞(嗄声・喉頭絞扼感等)の症状には無効
    • 代表薬剤:サルブタモール(アルブテロール)など
  5. 輸液療法
    • 血圧低下や脱水症状に対しては、下肢挙上や十分な点滴(生理食塩水の急速投与など)を実施
    • 成人では最初の5〜10分で500〜1000mLの輸液を行うこともある

特に注意すべき点として、アナフィラキシーショックでは初期治療で症状が改善しても、遅延して再び症状が起きる「二相性アナフィラキシー反応」が見られることがあります。二相性反応は通常、初回症状から1〜72時間(多くは8時間以内)に発生し、初期症状よりも重篤になる可能性もあります。

 

そのため、アナフィラキシー症状出現後は最低24時間の経過観察が必要です。二相性反応のリスク因子は。

  • 重症な初期症状
  • 治療開始の遅れ
  • アドレナリン投与の遅れや不十分な投与
  • ステロイド投与の遅れ

入院による経過観察中は、バイタルサインのモニタリングを継続し、症状の再燃に備えることが重要です。

 

アナフィラキシーショックのプレホスピタルケアと自己注射薬

医療機関外でのアナフィラキシーショック発症時の対応(プレホスピタルケア)は、患者の生命予後を大きく左右します。特に食品アレルギーやハチ刺傷によるアナフィラキシーは自宅や屋外で発生することが多く、適切な初期対応が重要です。

 

アナフィラキシーの既往がある患者やリスクの高い患者には、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)が処方されることがあります。エピペンは2011年から保険適応となり、登録医によって処方が可能です。エピペンの処方が推奨される患者。

  • 過去に重篤なアナフィラキシー症状を起こしたことがある
  • 喘息を合併している食物アレルギー患者
  • 微量な摂取や接触でアレルギー症状を起こす
  • 原因アレルゲンが除去困難な食物(小麦、牛乳など)である
  • アナフィラ