汎血球減少の正しい読み方は「はんけっきゅうげんしょう」です 。医学用語としての英語表記はpancytopeniaとなり、pan(全て)、cyto(細胞)、penia(減少)を組み合わせた造語です 。
参考)汎血球減少 - Wikipedia
この病態は血液中の主要な細胞成分である赤血球、白血球、血小板の3種類すべてが同時に減少する血液疾患として定義されています 。単一の血球系統のみが減少する一般的な貧血とは異なり、複数系統の血球が同時に減少することが特徴的です 。
参考)汎血球減少 – 血液疾患
なお、3系統のうち2系統が同時に減少する病態は「二血球減少(bicytopenia)」と呼ばれ、汎血球減少とは区別されています 。医療現場では、完全血球計算(CBC)による正確な診断が求められます 。
汎血球減少の原因は多岐にわたり、造血幹細胞の異常による血球産生低下が主要な病態生理です 。原因疾患は以下のように分類されます 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%B1%8E%E8%A1%80%E7%90%83%E6%B8%9B%E5%B0%91%E7%97%87
血球産生低下を引き起こす疾患
血球消費・破壊亢進による疾患
薬剤性汎血球減少も重要な原因の一つです。抗菌薬(クロラムフェニコール、ST合剤)、NSAIDs(インドメタシン、イブプロフェン)、抗けいれん薬(カルバマゼピン)、向精神薬(クロルプロマジン)などが代表的な原因薬剤として知られています 。
参考)https://himeji.jrc.or.jp/data/media/himeji-jrc/page/diagnosis/naika/20211109-2.pdf
汎血球減少では各血球系統の減少により特徴的な症状が現れます。症状は血球減少の程度と進行速度により異なります 。
赤血球減少による症状(貧血症状)
白血球減少による症状
血小板減少による症状
参考)再生不良性貧血 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター
急性白血病、特に急性前骨髄球性白血病(APL)では急激な汎血球減少を呈することがあり、緊急性の高い病態として注意が必要です 。
汎血球減少の診断には系統的なアプローチが重要です。初期評価から確定診断まで段階的に検査を進めます 。
初期評価・病歴聴取
詳細な問診により患者の症状、既往歴、家族歴、薬剤使用歴、職業歴を確認します。特に薬剤性汎血球減少の可能性を評価するため、服用薬剤の詳細な聴取が重要です 。
身体診察
全身の身体診察では、皮膚・粘膜の蒼白、出血斑や紫斑、リンパ節腫脹の有無を確認します。また、肝脾腫大の有無も重要な診断所見となります 。
血液検査
完全血球計算(CBC)により各血球の数値を正確に測定します。正常値の目安は、赤血球数(男性450-550万/μL、女性380-480万/μL)、白血球数(4,000-9,000/μL)、血小板数(15-35万/μL)です 。
末梢血塗抹標本の顕微鏡検査により血球の形態異常や芽球(未熟な血球)の有無を確認し、急性白血病などの除外診断に役立てます 。
骨髄検査
血液検査で汎血球減少が確認された場合、骨髄穿刺や骨髄生検による骨髄検査を実施します。骨髄中の造血細胞の量と質、異常細胞の有無、造血を妨げる要因の存在を直接観察することで、根本的な原因の特定が可能になります 。
汎血球減少の治療は原因疾患に応じて決定され、支持療法と根本的治療を組み合わせて行います 。
参考)再生不良性貧血
支持療法
各血球減少に対する症状緩和を目的とした治療です。赤血球輸血により貧血症状を改善し、血小板輸血により出血リスクを軽減します。白血球減少に対しては顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与し、感染症に対しては抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬による治療を行います 。
参考)再生不良性貧血(指定難病60) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/106" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/106amp;#8211; 難病情報セン…
薬剤性汎血球減少の治療
最も重要なのは原因薬剤の即座の中止です。これと並行して血球減少の程度に応じた強力な支持療法を開始します。好中球数500/mm³未満の場合は発熱性好中球減少症に準じた抗菌薬投与が必要です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/75/4/75_407/_pdf
再生不良性貧血の治療
重症度により治療方針が異なります。軽症・中等症例では経過観察を行いますが、進行例では免疫抑制療法(シクロスポリン)や蛋白同化ホルモンが適応となります。40歳未満でHLA一致同胞がいる場合は造血幹細胞移植が推奨されます 。
治療成績と予後
近年では抗生物質、G-CSF、血小板輸血などの支持療法の発達により治療成績が向上しています。免疫抑制療法や骨髄移植が早期に実施されることで、約7割が輸血不要まで改善し、9割以上で長期生存が期待できるようになっています 。
参考)再生不良性貧血(指定難病60) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/265" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/265amp;#8211; 難病情報セン…
重症例で感染症がコントロールできない患者や頭蓋内出血・眼底出血を合併した患者では予後不良となる場合があるため、早期診断・早期治療開始が重要です 。
汎血球減少には定型的な経過をたどらない非定型的症例が存在し、診断に注意を要します 。これらの症例では初期に単一血球系統の減少で発症し、経過中に汎血球減少に進展することがあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/28/4/28_4_616/_pdf/-char/ja
非定型的症例の特徴
非定型的再生不良性貧血では、初診時は血小板減少のみを呈し、数カ月後に汎血球減少を示す定型的な病態に移行する症例が報告されています 。このため、単一血球減少で受診した患者でも定期的な経過観察が重要です。
高齢者における特徴
高齢者の汎血球減少では、骨髄異形成症候群(MDS)や多発性骨髄腫などの血液疾患の頻度が高くなります 。また、メトトレキサート投与中に汎血球減少をきたすリスクファクターとして、腎不全の合併、葉酸欠乏、高年齢、低タンパク血症が知られており、高齢者では特に注意が必要です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f01.pdf
高齢者では薬剤性汎血球減少のリスクも高く、プロトンポンプインヒビター(PPI)や利尿薬との併用により発症リスクが上昇することが報告されています 。診断時には年齢を考慮した包括的な評価が求められます。
まれな病態と鑑別診断
血球貪食症候群や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)なども汎血球減少を呈することがあり、これらの病態では迅速な診断と治療開始が生命予後に直結します 。臨床所見と検査所見を総合的に判断し、適切な鑑別診断を行うことが重要です。
参考)302 Found