湿布に含まれるNSAIDsが、降圧薬4種類の効果をまとめて打ち消すことがあります。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、ロキソプロフェンやイブプロフェンなど、日常診療で最も頻繁に処方される薬剤の一つです。 その血圧上昇メカニズムは、腎プロスタグランジン産生を抑制することで水・Na貯留が起き、同時に血管拡張が抑制されることにあります。
関連)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/06/di201705.pdf
結論は「腎臓とNaのバランス破綻」です。
プロスタグランジンE2は、腎集合管でのADHへの反応を調節し、ヘンレループでのNa再吸収を抑制しています。 NSAIDsがこの産生を阻害すると、水とNaが体内に溜まり血圧が上昇します。腎血流も低下し、腎機能悪化を招くことがあります。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
さらに重大な点があります。NSAIDsは、ACE阻害薬・ARB・β遮断薬・利尿薬という降圧薬4種類の降圧効果をまとめて減弱させることが知られています。 「降圧薬を増やしても効かない」と感じる患者に、実は市販の痛み止めや湿布が原因というケースは臨床上珍しくありません。
関連)https://sendai-douki-clinic.com/blog/210.html
高齢者ではこの影響が著しい傾向があります。 長期・高用量使用ほどリスクが高く、NSAIDs誘発性高血圧の対策には、カルシウム拮抗薬が最も降圧効果を得やすいとされています。 これはCa拮抗薬の降圧機序がプロスタグランジン系を介さず、全身のNa貯留にも影響されないためです。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402106931
以下の薬剤がNSAIDsに当たります。
外用剤でも全身性の吸収があるため、注意が必要です。
参考:NSAIDsの血圧上昇メカニズムについて薬剤師向けに詳しく解説しています。
第10回 NSAIDsの血圧上昇はなぜ起こるの? | グッドサイクル
甘草(カンゾウ)は漢方薬に幅広く配合されているため、患者自身が「薬を飲んでいる」という意識を持ちにくいことが多いです。 これが見逃しの温床になります。
甘草の有効成分グリチルリチンは、代謝産物であるグリチルレチン酸が11β-水酸化ステロイド脱水素酵素を阻害します。 この結果、コルチゾールがコルチゾンへ変換されずに蓄積し、腎ミネラルコルチコイド受容体に作用して水・Na貯留とK低下が起きます。 これを「偽性アルドステロン症」と呼びます。
関連)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/06/di201705.pdf
低K血症に注目です。
低K血症・低レニン活性・血漿アルドステロン低値の三拍子が揃った高血圧では、偽性アルドステロン症を積極的に疑うべきです。 見逃すと筋力低下や脱力、重症例では横紋筋融解症をきたすこともあります。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
甘草含有製品は多岐にわたります。
対策としては甘草含有薬の減量・中止が基本で、降圧が必要な場合はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン等)が最も効果的です。
関連)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/06/di201705.pdf
参考:偽性アルドステロン症を含む薬剤誘発性高血圧の全体像が詳述されています。
グルココルチコイド(ステロイド薬)は、肩への注射1回でも血圧を上昇させる場合があります。 経口ステロイドに限らず、点鼻薬や皮膚の軟膏ステロイドでも3カ月以上の長期投与では高血圧緊急症をきたし得ます。
中等量以上が3カ月以上続いたら要注意です。
ステロイドの血圧上昇メカニズムは複数あります。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
一方、免疫抑制薬のシクロスポリン・タクロリムスは、臓器移植・骨髄移植患者に必須の薬剤ですが、カルシニューリン基質の脱リン酸化阻害・AT1受容体発現増加・交感神経系賦活・血管内皮機能障害・腎毒性などの複合的なメカニズムで血圧を上昇させます。 初期高用量投与時に一過性の上昇が多いですが、長期投与でも高血圧緊急症に至ることがあります。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
注意点として、Ca拮抗薬はシクロスポリン・タクロリムスの血中濃度を上昇させる可能性があるため、投与時は濃度モニタリングが必要です。 タクロリムスはK保持性利尿薬との併用が禁忌であることも覚えておくべきです。
関連)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/06/di201705.pdf
がん治療の進歩とともに、分子標的薬による薬剤性高血圧が急増しています。これは比較的新しい問題です。
抗VEGF薬(ベバシズマブ・ラムシルマブ・アフリベルセプト等)は、VEGF阻害による細小血管床の減少とNO産生低下から血圧を上昇させます。 投与初期から血圧上昇が起こる点が他の薬剤と異なります。投与期間中は常にリスクが継続します。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
数字で見ると実態がわかります。マルチキナーゼ阻害薬の高血圧発現率は以下の通りです:
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
| 薬剤名 | 高血圧発現率 | Grade3以上(重症) |
|---|---|---|
| ソラフェニブ | 27.5% | 12.2% |
| スニチニブ | 49.4% | 16.0% |
| カボザンチニブ | 32.6% | — |
スニチニブは約2人に1人で血圧が上がるということですね。
がん治療中の患者は内科・腫瘍科など複数診療科にかかっていることが多く、高血圧の管理が後回しになるリスクがあります。 抗VEGF薬使用患者では、治療開始前から厳格な血圧管理が推奨されています。Ca拮抗薬やARBが降圧薬として用いられますが、原疾患治療の継続が最優先のため、降圧薬の追加・増量で対応することが多いです。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
参考:厚生労働省の医療関係者向け重症高血圧マニュアル(薬剤誘発性高血圧を詳説)
重症高血圧 医療関係者向け副作用マニュアル | 厚生労働省
エストロゲン製剤・エリスロポエチン・抗うつ薬の3種類は、それぞれ全く異なる診療科で処方されるため、高血圧との因果関係が気づかれにくい代表格です。
これは見逃しリスクが高いです。
エストロゲン製剤は、経口避妊薬やホルモン補充療法(HRT)に使われます。 肝臓でのアンジオテンシノーゲン産生を亢進させ、アンジオテンシンⅡ・アルドステロンを増加させて血漿量を増加させます。 対応降圧薬はACE阻害薬またはARBですが、挙児希望のある患者には使用制限があるため個別判断が必要です。
エリスロポエチン製剤・HIF-PH阻害薬は、腎性貧血の治療に用いられます。 ヘマトクリット値上昇による血液粘稠度増加・血漿量増加・ET-1産生増加・eNOS阻害によるNO産生低下など、複合的なメカニズムで血圧を上昇させます。 HIF-PH阻害薬(ロキサデュスタット等)も同様に血圧上昇への注意が必要です。
MAO阻害薬・抗うつ薬については要点を整理します。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
特に精神科薬と内科薬の掛け持ち処方が多い高齢患者では、この組み合わせに常に目を光らせる必要があります。 処方カスケードを防ぐためにも、新規発症の高血圧や血圧コントロール悪化時には「直近に追加・変更された薬剤はないか」という問診を欠かさないことが基本です。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1k07_r05.pdf
参考:薬剤誘発性高血圧の原因薬剤と機序をまとめた医書.jp掲載の専門誌論文(medicina誌)
薬剤誘発性高血圧(medicina 50巻8号)| 医書.jp
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