ジクロフェナクは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種であり、その作用機序は主にシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによるプロスタグランジン合成の抑制です。プロスタグランジンは炎症、痛み、発熱などの症状に関与しているため、これを抑制することで消炎・鎮痛・解熱効果が得られます。
ジクロフェナクは半減期が短いにもかかわらず、効果は6〜8時間と長く持続するという特徴があります。これは、関節液の特定の場所に高濃度で集中するためと考えられています。効果の持続時間が長いため、慢性的な痛みや炎症のコントロールに適しています。
効果の強さについては、NSAIDsの中でも非常に強力な部類に入ります。一般的な用途としては以下のような疾患・症状に使用されます。
また、ジクロフェナクはCOX阻害以外にも、リポオキシゲナーゼ経路を阻害してロイコトリエン合成を妨げたり、ホスホリパーゼA2を阻害したりする可能性があり、これらの作用が高い効果をもたらす要因かもしれないと考えられています。
興味深いことに、ジクロフェナクは癌による慢性痛や炎症の抑制にも用いられ、特に乳癌の骨転移の鎮痛にはオピオイドよりも良好な効果を示すという報告もあります。また、長期間にわたって少量ずつ投与した場合、アルツハイマー型認知症の発症を抑える可能性も示唆されています。
ジクロフェナクは効果が強力である一方で、様々な副作用が報告されています。主な副作用を系統別に整理すると以下のようになります。
消化器系の副作用
消化器系の副作用が多いのは、ジクロフェナクがCOX-1も阻害するため、胃粘膜を保護するプロスタグランジンの産生も抑制してしまうからです。発現率は0.1〜5%程度とされています。
皮膚に関する副作用
特に貼付剤では、ジクロフェナク含有テープ剤の副作用発現率が他剤形に比べて5.7〜6.8倍高いことが報告されています。65歳以上の高齢者や女性で有意に多いという特徴があります。
循環器・呼吸器系の副作用
腎臓・肝臓への影響
その他の副作用
副作用のリスク因子としては、高齢者、腎機能低下患者、胃潰瘍の既往がある患者、NSAIDsでショックやアナフィラキシーの既往がある患者、アスピリン喘息患者などが挙げられます。これらの患者さんには使用を控えるか、慎重に投与する必要があります。
ジクロフェナクには様々な剤形があり、それぞれ特徴が異なるため、症状や患者の状態に応じた使い分けが重要です。主な剤形と特徴を以下に示します。
内服薬(錠剤・カプセル剤)
坐剤(ボルタレンサポ等)
外用薬(貼付剤・ゲル剤)
興味深いのは、貼付剤とゲル剤の違いです。フェイタスシリーズの例を見ると、フェイタスの有効成分はフェルビナクですが、フェイタスZαジクサスとフェイタスZにはジクロフェナクが含まれています。フェルビナクと比較して、ジクロフェナクは持続時間が長く、1日1回の貼付で24時間効果を発揮しますが、より強力な分、消化器症状の副作用リスクも高いとされています。
使い分けのポイント。
注目すべき点として、貼付剤は一般的な湿布と見た目は似ていますが、作用機序が異なります。通常の湿布は局所に作用するのに対し、ジクロフェナクナトリウム貼付剤は皮膚から毛細血管に取り込まれ全身作用型であり、内服薬と同様の効果が見込まれています。貼付剤を使用する際は、皮膚への刺激を減らすために前回貼った場所とは違う場所に貼ることが推奨されています。
ジクロフェナクの使用中に発生する可能性のある重大な副作用とその対処法について解説します。これらの副作用は頻度は低いものの、発生した場合には生命を脅かす可能性があるため、早期発見と適切な対応が重要です。
1. ショック・アナフィラキシー
2. 出血性ショックまたは穿孔を伴う消化管潰瘍
3. 急性腎障害(間質性腎炎、腎乳頭壊死)
4. ネフローゼ症候群
5. 皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)・中毒性表皮壊死融解症
6. 急性脳症
7. 心筋梗塞・脳血管障害
重大な副作用が疑われる場合の基本的対応。
医療従事者は、患者に対してこれらの重大な副作用の初期症状や注意すべき点について十分に説明し、症状が現れた場合には速やかに連絡するよう指導することが重要です。また、重大な副作用の発生率は低いものの、リスク因子を持つ患者の場合は特に注意が必要です。
ジクロフェナクを安全に使用するための注意点と禁忌事項についてまとめます。これらは処方時や患者指導の際に必ず確認すべき重要事項です。
絶対的禁忌
相対的禁忌(慎重投与)
薬物相互作用
以下の薬剤との併用には注意が必要です。
剤形別の注意点
内服薬。
貼付剤。
モニタリング推奨項目
患者指導のポイント
特に注意すべき点として、インフルエンザ患者への使用はインフルエンザ脳症のリスクを高める可能性があるため避けるべきです。また、小児への投与後に「ライ症候群」を発症したという報告もあるため、原則として小児への投与は行わないことが推奨されています。
ジクロフェナクの適切な使用には、これらの禁忌・注意事項を十分に理解し、個々の患者のリスク因子を評価した上での判断が重要です。効果の高さと副作用リスクのバランスを常に考慮し、患者にとって最適な治療選択を行いましょう。
ジクロフェナクNa錠の添付文書(PMDA)- 詳細な副作用情報や禁忌情報の参考に
ジクロフェナクの局所皮膚適用における副作用発現とリスク因子の解析(日本病院薬剤師会雑誌)- 貼付剤の副作用に関する詳細研究